松雪泰子さんについて考える(54)『ノンレムの窓 2024・春「PTA」』

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*松雪泰子さんについて考える(51)「歌は語れ、セリフは歌え」*

松雪さん出演シーンの充実度:7点(/10点)
作品の面白さ:7点(/10点)
制作年:2024年(日本テレビ)
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/nonrem/
 
※結末に関するネタバレを含みますので、ご注意ください。
 
改編期に放送されるショートドラマとして、既にシリーズ第6弾らしい。バカリズムさん原案。『有終の美』『PTA』の2本立て。

『PTA』は、タイトルのとおり、PTAの押し付け合いを描いたコメディチックな作品。主演の松雪さんは、次期PTA委員をスカウトする役目を負った保護者・関本朝子役。多忙&不幸アピール等により委員指名を逃げ続けていた三井由奈(若月佑美)をリクルートしようと画策し、なんとか成功する。

そこまでなら牧歌的な話だが、三井は、PTAのカリスマ会長(鹿賀丈史)の薫陶に開眼した末、会長と結婚し、子を身籠る。そして、夫(鹿賀丈史)は一線を退き、PTA会長の座には三井(若月佑美)が就く。そこで宣言されたのは、関本(松雪泰子)を副会長に任命することであった。関本としては、三井をスカウトしたばかりに墓穴を掘ることになった…というオチ。

もともと、PTA活動に慣れない姿を見せていた三井(若月佑美)に対し、関本(松雪泰子)は憐憫の情を寄せていた。しかし今度は、逆に自分の方が、なりたくもない副会長に指名された。しかも副会長と会長とでは、立場すら逆転している。

この2人だけでなく、会長(鹿賀丈史)と三井(若月佑美)の関係も逆転していることが目をひく。

一見、三井(若月佑美)が会長(鹿賀丈史)から洗脳を受け、結婚を強いられ、子どもまで仕込まれたかのような描かれ方だが、次のような逆の見方が真相かもしれない。三井がすすんで会長に取り入り、PTAをわがものにするべく結婚までし、会長職から退かせた、と。結局実権を握ったのは三井であることがポイントではないか。夫(旧会長)が三井を傀儡として院政を敷けるかどうかは覚束ない。それに、単純に三井を被害者として描くならば、夫を会長から退かせるストーリーにする必要はない。利用されたのは果たしてどちらか。

主役は関本朝子(松雪泰子)だが、以上のように見ていくと、むしろ物語の軸は三井由奈(若月佑美)だろう。
 
序盤、三井が学校の廊下で悦に入りながら眺めていたのは、長男が書いた「強い決意」の習字作品。これがこのドラマのテーマのようだ。

関本(松雪泰子)は、三井(若月佑美)をスカウトする決意を、会長(鹿賀丈史)はPTAと学校を支配する決意をもっていた。

しかし、決意の力が最も強かったのは三井(若月佑美)であり、PTAから逃げ続けるため、委員を引き受けられない理由について詳細な資料をまとめるなど、執念深い。夫の浮気の証拠写真をおさえるのもそう。決意にしたがって突き進む。関本(松雪泰子)目線では「自己肯定感が低い(ゆえに、会長から洗脳された)」という解釈だが、その裏に潜む決意の強さ。
 
三井の夫の浮気相手は、三井の母だった。ということは、三井が家族を捨て、親子ほど年の離れたPTA会長と結婚したことには、夫や母に対するあてつけという面もあるかもしれない。ここにも、恨みを晴らそうとする「強い決意」が滲む。
 
これをそのまま描くとドロドロしたサイコサスペンスになるが、主人公があくまで関本であるため、コメディとしての線に踏みとどまっている。

その関本を演じた松雪さんは、全く普通の母親役だが、セリフより心の声が主体となっているのが特徴的。『ビギナー』(2003年)を思い出すが、同作以上にコテコテのツッコミを畳み掛けていくキャラが、新鮮だった。

脚本の倉光泰子さんのお名前は初めて見た気がして、同じ「泰子」の字だなぁなどと思っていたが、調べると2021年放送の『うきわ ―友達以上、不倫未満―』を書いていらっしゃり、当時観ていて面白かった記憶。


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