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クルール・プレフェレの話〜シャルロ編〜

なしみです。
前回出てきたタルトシトロンはいつか描いてみたいです。引き続きこちらもよろしくお願いいたします。今回はパティシエのタマゴであるシャルロのお話です。

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ヴィオレッタの店はシトロンコラボから売上が急上昇。次々とメディアにも載るようになった。先日ヴィオレッタの父親も来店しここまでよく成長したと褒めてくれた。忘れていると思うが店の名前である「La boutique de VIOLETTA」はまだ仮である。

街はしばらく雨の日が続き、街ゆく人の数が落ち着いている。今は休憩中。2階のオフィスでティータイムを過ごしながらパパンがシャルロについて話している。

「……そう、そんなことがあったの。心配ね。」
「しばらく会えてなくて。前もこんなことはあったんだけどここまで長くなかったなって。」

体調不良と言われしばらく遊びにいくのをシャルロの伯母に断られているそうだ。パパン以外は会ったことがないが、商品のラインナップやタルトシトロンのレシピ等で間接的に関わっているので名前とスイーツ作りが得意なことは知っている。体が弱いことも聞いていたがまさかここまでとは、と心配している。

「早く治るといいですわね、シャルロはん。」
「そうだね。今、私に何ができるんだろう……。」

数週間後、パパンの元に突然シャルロから店に行ってみたいと連絡が入った。先日まで体調が悪かったはずなのに急にどうしたのか。不思議に思ったが受け入れることに全員賛成した。後日パパンに連れられシャルロが初めて店に入り、歓迎を受ける。

「初めましてシャルロ。ワタクシがここのオーナーのヴィオレッタよ。」
「ハンナと申します。修行でここにお世話になっています。」
「アタシはシトロン!」
「わあ、皆さんありがとうございます!初めまして、シャルロです。皆さんのことはパパンちゃんから聞いています。」

彼女と話すならスイーツしかないでしょ!そう思いシャルロに店内を見学させた。どこも興味を持ってくれたが、やはりキッチンの反応が良く、家よりはるかに広く清潔で必要な道具が揃ったキッチンにシャルロは目を輝かせていた。

「せっかくだからここで何か作ってみない?貴方が作っているところ見てみたいわ。好きに使ってちょうだい。」
「いいんですか?ずっと家のオーブンが壊れていてスイーツが作れていなかったんです!」

シャルロは喜びながら材料と道具を並べ張り切って取り掛かる。完璧な手順で1人で作ったとは思えないくらいの大量のマカロンをメンバーに見せる。味はもちろん……

「え、うま!天才すぎ!」
「難しいお菓子をこんな簡単にキレイに作るなんて関心ですわ〜。さすがですシャルロはん。」
「やっぱりいつ食べてもシャルちゃんのマカロンが一番美味しい〜!」
「このまま店に出したいくらいよ!美味しいわ〜。」
「え、あ、その……出しゃばってしまいすみません……。」
「シャルロ、まずはありがとう、よ。悪いことしていないから謝らないで。」
「あ……すみません……ありがとうございます。」

現在販売用のスイーツを作るのはハンナが中心で補佐でパパンが入っている。ハンナは手慣れているので心配ないがパパンはいつ何を起こすか分からないので細心の注意が必要である。キッチンにはもう1人欲しい状況で、シャルロがいたらかなりの戦力になる。だが……

「やっぱり働くのはダメなのかしら。」
「はい、ごめんなさい。皆さんに迷惑かけちゃうから……。」
「いいのよ。でも気が変わったらいつでも言ってちょうだい。ワタクシたちはいつでも貴方を待っているわ。」

やはり体調を気にしているのか、それとも他に原因があるのか。これ以上は聞かなかったがシャルロの表情からどこか寂しい雰囲気を感じた。時間が迫っていたのでパパンはシャルロを自宅まで送り届けることにした。

***

悪天候が続いたせいで体調不良を起こす住民が増えた。幸いメンバーは体調を崩すことがなかったがシャルロが喘息になってしまった。しっかり治療をしていれば治るはずだが、シャルロの家は病院で治療できるほどのお金がすぐ用意できない。両親はすでに他界しているため頼りにできる大人が伯母しかいない。しかし伯母も仕事の都合でなかなか家に帰れず、看病できる人が5歳離れた弟しかいない。市販の薬だけでは治らないどころか病状が悪化し、寝込む日々が続いた。

ちょうど街では広場でチャリティーイベントを開催していた。元々ヴィオレッタは知人の紹介枠で出店することが決まっており、この日のためにメンバーと準備を進めて張り切っていた。本来ならば売上は運営が定めた地域へ寄付されるのだが、ヴィオレッタは知人の力を借り、なんとかして売上のほとんどをシャルロの家に寄付するよう話を通した。最初に話を聞いたヴィオレッタの知人は断ろうと思ったが、シャルロの話を聞いて仕方なく承諾し運営内で話し合って変更の手続きを行なったそうだ。

数日後、何も知らないシャルロは突然伯母から入院できるようになったと告げられ、そのまま街で一番大きい病院で入院することになる。更に数週間後、元気を取り戻し退院して帰宅すると壊れていたはずのオーブンが真新しいものに変わっていることに気がつく。調理器具もいくつか新品になっており、最近弟も十分な食事ができているという。そんなお金が家にあるわけがない、一体どうして急に……?

「突然お金やらオーブンやら次々持ってきてくれてびっくりよ〜。名前はね〜……どこかで聞いたことあるような……誰だっけ……ヴィオ……レッタ……だったっけな?」
「ヴィオレッタさん……!伯母さんごめんなさい、私……!」

シャルロは慌てて家を飛び出した。ヴィオレッタさんがやったんだ!こんなことできるのヴィオレッタさんしかいない!そう思いながら息を切らしながら店へ向かった。扉を開けるとメンバーが揃って仕事をしていた。偶然客はいなかった。

「あらいらっしゃい。元気になったみたいで良かったわ。」
「ヴィオレッタさんですよね……私が急に入院できたのも、オーブンが新しくなっているのも……全部ヴィオレッタさんですよね?どうして私たちなんかに……。」

ヴィオレッタが静かにシャルロに歩み寄り、優しく肩を叩く。

「これは情けでなく貴方への投資。ワタクシはこれまで貴方のような才能があってこれから羽ばたける若者が現実の厳しさで潰れていくところをたくさん見てきたわ。もうこれ以上このような人を出したくないの。みんな現実に負けないで夢に向かってほしいの。」

シャルロの目から涙が溢れてきた。どんなに生活が厳しくても、どんなに劣勢に立たされてもずっと耐えてきた。最後に泣いたのは8年前に両親が事故で亡くなったときだっけ。しばらく笑ってごまかしてきたので具体的に覚えていない。親友のパパンにさえ心配されて迷惑かけたくなくて悩みを打ち明けることができなかった。

「私……本当はずっと皆さんと一緒に作りたくて……でも迷惑をかけたくなくて……でもやっぱり1人じゃ難しくて……。」
「やっぱりワタクシたちと夢を叶えてみてはどうかしら?1人だけではできなくてもみんなと力を合わせれば今はできると思うの。以前のワタクシもそうだったから。」
「パティシエ……目指してみたいです……ヴィオレッタさんのために頑張りますから……!」
「いや、見返りはいいから自分のために働いてちょうだい。」

そう言いながらもヴィオレッタは嬉しそうである。パパンは泣きながらシャルロに駆け寄り共に喜び合う。ハンナも歩み寄ってそっとハンカチを差し出し、シトロンはロッカー室から制服を持ってきた。実はコラボで制服を作る際いつ仲間に入ってもいいようにシャルロの分も作っていたのだ。シャルロという強力な仲間が加わった。これから店はますます繁盛していくのであった。

全員が落ち着いたところでシトロンが口を開く。

「そういえばさ、制服を6人分作ってって言われたから作ったけれどあと1人誰が着るの?」
「それ私も思った!しかもパンツスタイルでって言われたからその通りにしたんだけど、長ズボンを好んで履く人って私たちの中にいないよね。」
「そのときが来たら教えるわ。でもあの子ちゃんと来るかしら……。」