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クルール・プレフェレの話〜シュゼット編〜

なしみです。
リアルの多忙が原因で先週更新できず申し訳ございませんでした。
引き続きこちらもよろしくお願いいたします。今回は最後の初期メンバーのシュゼットのお話です。

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シャルロが加入してから店は大きく成長した。販売するスイーツが大幅に増え、並びきれなくなったため「期間限定スイーツ」として販売する枠を作った。また、いつの間にかマカロンが一番人気の商品となり「マカロン有名店」としてメディアに取り上げられるようになった。そしてシャルロ自身も最近は風邪すら引かなくなり心の底から楽しんでスイーツを作っているようにも見える。

ある日シャルロが陳列のためにショーケースへ向かうと1人のマダム客と居合わせてしまう。その客はせっかちな性格らしく、シャルロにあれこれ勢いよく質問してくる。シャルロは初対面の人と話すことが苦手で普段はパパンやシトロンに助けられている。だがパパンは材料の買い出しへ出かけ、シトロンは通信授業のためお休みである。ハンナも急な実家の手伝いで不在で、ヴィオレッタは2階のオフィスで仕事をこなしているため1階の様子に気がつかない。目をグルグルさせながら心の中で必死に助けを求めると2人の間に白い光が割り込んできた。

「いらっしゃいませ。すみません、休憩中でしたので席をはずしていました。本日は何をお探しですか?」

セカセカマダムに接客してきた方……誰か知らないが凛とした立ち姿が光る。女性のようだが振る舞い方が紳士のようだ。この方は一体……?

「シャルロちゃんだよね?こちらを持ち帰り用に包んでくれないかな。」
「は、はいっすみません!」

見惚れていると急にシャルロに指示を送ってきた。なぜ初対面なのに名前を知っているのか……。突然現れた救世主に最後まで助けられ、セカセカマダムは満足して店を出た。

「あ、ありがとうございます。助かりました……すみません。」
「いいよいいよ、びっくりしちゃったよね。それよりここのオーナーに用があって来たんだけど……。」
「やっと来たわねシュゼット。遅かったじゃない。」
「キッチンの子を一人きりにするってどういう事?ヴィオレッタも手伝わなきゃいけないじゃないか。」

2階からヴィオレッタが降りてくると口論が始まった。ヴィオレッタと揉めている彼女の名はシュゼット。警備の仕事をしており、普段は街の中央にある城に勤務している。ヴィオレッタとは幼い頃からの知り合いだが、散々こき使われてきたため良く思っていない。その後チャリティーイベントのときがああだ加入の件はこうだと口論が長くなっていったのでシャルロも見ていられなくなり勇気を出して止めに入る。

「2人とも落ち着いてください!お、お客さんに見られちゃいますよ!」
「……それもそうだね。ごめんねシャルロちゃん。今日はここまでにするよ。では。」
「ちょっと!話終わってないわよ!待ちな……あ、帰ったわね……相変わらず手のかかる子ね。」

翌日メンバーが揃ったところでヴィオレッタはシュゼットについて話す。彼女をいつか店のメンバーとして迎えたいこと。1人分余っている制服はシュゼットのものであること。チャリティーイベントの寄付の手続きをしてくれたのがシュゼットだったこと……。実はメンバーの知らないところでシュゼットも店のために動いていたのだ。ただ、不機嫌な姿を見られたくないだけで。更に”ある情報”を流してメンバーは密かに計画を立てるのであった。

その日の夜、シュゼットは店のことやシャルロのことを思い出していた。相変わらずヴィオレッタの態度や振る舞いは気に入らないが、シャルロのことは気に入った様子である。昔から困っている人を見ると自然と体が動いて助けたくなる性格なのだ。

「シャルロちゃんがいるならいても良いけど……やっぱりヴィオレッタもいるのが嫌なんだよなー……。」

***

ある日、シュゼットが久々の休日で夕飯の献立を考えながら市場に向かうと偶然シャルロと出会う。せっかくなので2人でお茶をすることにした。サンドウィッチを片手に話が弾む。それぞれの仕事のこと、日常の趣味のこと、周りの人のこと……。シュゼットの相槌のタイミングが良いのか、それとも相手の話を聞く姿勢が良いのか、最初は緊張していたシャルロも楽しく話ができている。

「私、ヴィオレッタさんにはとても感謝しているんです。私たち家族を助けてくれて……。」

突然シャルロがヴィオレッタの話をしだし、シュゼットは驚く。

「え?あのヴィオレッタが?」
「はい。仕事熱心で気が強い部分も確かにありますが、チャリティーイベントでの売上を私の家に寄付してくれましたし、オーブンも変えてくれて、最近は私だけでなく伯母さんや弟のことも気にかけてくれるんです。それなのに私はスイーツを作ることしかできなくて……。」

寄付のことは当然知っていたが、オーブンのことや家族を想っていることは全く知らなかった。今まで自分のことしか考えず周りに無理難題を突きつけていただけけだと思っていたので人のために動く姿を見たことがなかった。人は誰でも変わることができるのだなと考えているところでシャルロが”ある情報”について話す。

「あの、もし良ければこの日にお店まで来てくれませんか?ヴィオレッタさんがワタクシから誘うと来てくれないから他の人が誘ってって言われていて。ああ、もしご都合悪ければ無理せず……!でも来てくださると嬉しいです。」

同時にシュゼットに日時だけメモ用紙に書いて渡す。8/22の19時、ちょうど仕事が終わってから行ける時間だ。

「分かった、行ってみるよ。ちなみに用件は何かな。」
「それは………………秘密ですっ!」

照れながらニコっとしたシャルロが面白かったのか言えない内容がおかしかったのか、シュゼットは何それ〜と言いながら笑った。シャルロも少し恥ずかしくなってつられて笑ってしまった。

***

計画は順調に進み、ついに当日を迎える。
日中の暑さが残る中、仕事を終えたシュゼットが店へ着くと看板には「貸切」の文字があった。貸切なのに入って良いのかとは思ったが、既に約束の時間の10分前であったため入ることにした。ドアを開けるとメンバーが全員揃って待っていた。

「お誕生日おめでとう!」

同時にクラッカーの音が部屋中に響いた。シュゼットは突然のお祝いに驚いて固まってしまっているが、メンバーは構わず続けてお祝いを続ける。

「待ってましたお客様〜!こちらへどうぞ〜。」

そう言いながらパパンはシュゼットの腕を引っ張り席へ案内する。

「ていうか、アナタ既に花束とプレゼント貰ってるじゃない。どれだけ頼られているのよ。」

シュゼットは既に職場でも祝われていたのだ。街の平和ために日々動き回る彼女は住民からも慕われている。街ではちょっとした有名人なのだ。

「本日はご足労いただきありがとうございます。たくさん食べていってくださいね〜。」
「スイーツだけじゃないよ〜!料理もあるよ〜!」

ハンナとシトロンがキッチンからどんどん料理やスイーツを持ってくる。パティスリーなので店では普段はスイーツしか作らないが、この日は食事会も兼ねているのでガレットやキッシュ、スープなども作ってテーブルに並べた。人数が揃ったので全員が席につき、ヴィオレッタの挨拶で食事会とシュゼットの誕生会が始まった。シュゼットは最初自分をメンバーに勧誘するための罠だと思っていたが、会場の雰囲気を見るなりそうでもなさそうだ。日常の会話をしたり、食事に夢中だったり、席を移動して会話に割り込んだり、たくさん笑ったり……各々の楽しみ方をしていた。ヴィオレッタもキッチンへ向かって料理を持ってきたり飲み物片手に会話に入ったりと、シュゼットが今まで見たことがない一面も目の当たりにする。あまり知人と集まって食事をすることがないシュゼットは新鮮さを感じつつ、少し居心地の良さを感じていた。店を訪れる前から既に決心していたが。

「あのさ、私から話があるんだけど。」

小さく挙手をしてシュゼットが発言する。一気に視線はシュゼットに向く。

「前から決めていたんだけど私やっぱりメンバーに入るよ。」

その途端メンバーから歓声が溢れる。だがその歓声を止めるように話を続ける。

「でも!別にヴィオレッタのために働くわけじゃないからね!みんなの力になりたいと思ったからだ。あと、ここにもいたいが現職も続けたい。既に上司には相談をして了承を得ている。」
「はあ〜、アナタ相変わらず意地っ張りね〜。もうこの店はワタクシだけのものじゃないわ。それにアナタより先に掛け持ちしている人いるし。」
「そうそう、ウチが良い例なので何の問題もありませんこと。」
「アタシも通信授業あるし〜。問題ナシ!」
「私も可愛くてオシャレなお店を行くのも続けているし大丈夫だよ!」
「あ……私だけ掛け持ちがない……。」
「シャルちゃんも私とお出かけするの掛け持ちしてるじゃん!」

また笑い声が部屋に響いた。この店はメンバー同士が助け合いながら動いている。皆がそばにいるから笑顔が絶えないのか。皆が楽しくいられるためならこの店も守るのも悪くないな、とシュゼットは思いながらメンバーの輪の中へ入る。

こうして6人がようやく揃った。
だが、すぐに店の問題に直面することになるのだ。