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クルール・プレフェレの話〜シトロン編〜

なしみです。
前回はやっと開店することができましたね。引き続きこちらもよろしくお願いいたします。今回はメンバー最年少のシトロンのお話です。

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「〜〜〜ということで本日はここまで!またロンロン〜🎶…………ふぃ〜終わった〜!家帰って編集編集〜。」

街中で人目を気にせず動画を撮る少女、シトロンは巷で有名なインフルエンサー。また、1人で動画撮影、編集、投稿などをこなす動画クリエイターでもある。気になる店やイベントがあれば即直行。流行に敏感な彼女の投稿は街の情報ツールの一部にもなっている。だが、スイーツ激戦区と化した街からは次々と新しい店舗が生まれてくる。シトロンが知らない店がまだまだある。

「……ん?ら・ぶてぃっく・どぅ・ゔぃおれった?知らないな〜。今度行ってみるか。」

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「おめでとう。やっと開店できたんだね。すごいよ!このラングドシャ美味しい!」
「シャルちゃんがたくさんスイーツのこと教えてくれたからだよ〜。本当にありがとう!」

ヴィオレッタの店が開店して数日後、パパンはレシピなどの参考にした本を返しにシャルロの家へ出かけていた。お礼として店で販売しているラングドシャも持ち込み2人でティータイムを過ごしている。

「でね、もうはかりを3つくらいダメにしちゃってさすがにヴィオさんに怒られちゃった〜えへへ〜。」
「パパンちゃん昔からおっちょこちょいだからね。深呼吸して落ち着いて行動すれば大丈夫だよ。」
「分かった、やってみるね!あとはね〜……って、いけない、もうこんな時間!この後お店があるからそろそろ行くね!今日もありがとう!」

慌てて帰り支度をしてシャルロの家を後にする。窓を覗くとさっきまで向かいに座っていたパパンが足早に、たまに躓きながら店がある方向へ消えていく。その姿を見ながらシャルロは深いため息をつく。

「私も……本当はパパンちゃんたちと一緒にお店でスイーツを作りたいな……でも…………」

***

開店してすぐヴィオレッタたちはすぐ壁にぶち当たることになった。客が全然来ない。来ても見て帰る客が多い。買ってくれてもリピーターはいまだゼロ。オープンチラシも業者に頼んで配ってもらったのに、知人に店のことを話したのにどうして客が来ないのだろうか。何がいけないのか分からないまま時だけが過ぎていった。

数週間後、ぼんやりと客を待っていると元気があり余っている女の子がスマホを片手に来店する。

「こんにちロンロン〜🎶ここ取材して大丈夫〜?」

突然の訪問に皆驚くが、キッチンから出てきたハンナだけ冷静に対応する。

「あらシトロンはんいらっしゃい。ここにも来てくれるなんて嬉しいわ〜。」
「あれ、ハンさんじゃん!実家どうしたの?」
「修行でしばらくここにいさせていただいているの。実家にもいるから安心して。」
「待って待って。貴方たち知り合いなの!?」

話によるとシトロンは以前から取材でサロン・ド・ショウズガワを数回訪れている。その際にハンナと仲良くなったそうだ。現在も和菓子を買うためだけでも店に立ち寄ることもあるという。

「おお〜う!ハンさんこういうのも作れるんだ!さすがすぎる!」

投稿用にいくつか注文して店内で食べることにした。ハンナの和菓子以外のスイーツを見て期待が高まる。素早く撮影を済ませ、黙々と食べていく。3人は緊張したままシトロンを見ていた。

「ご馳走様〜!やっぱりハンさんが作ったスイーツ美味しい〜!でもスイーツでこの街を生き抜くにはまだ課題が多いかも。まずどれを一番に売りたいかが分からないかな。どれも売りたいのは分かるんだけど看板商品があるとそれを目当てにお客さんが来るから何かにスポットを当てるといいかも。ついでにラインナップも見直した方がいいかも。他の店と商品が似ていてぼやけて見えるかも。あと店の宣伝でSNSとか使ってる?ホームページもそうだけどSNSアカウントのまめな更新も大切だよ。んで、どんな人にどんな時に買ってほしいか分からないんだよね〜。ターゲット層も見えにくいっていうかその……
「貴方結構喋るわね。」

意見の行列に少々ムッとしたヴィオレッタだったが全て心当たりがあるので反論ができない。現在の店の商品は

(小スイーツ)
・ガトーフレーズ(いちごのケーキ)
・ガトーショコラ(チョコケーキ)
・ガトールレ(ロールケーキ)
・タルト・オ・フリュイ(フルーツタルト)

(焼き菓子)
・ラングドシャなどのクッキー3種類
・マドレーヌ
・カヌレ
・エクレア

※ホールケーキは予約のみ受付。
※のちの看板商品となるマカロンはまだない。開店前にパパンが失敗しすぎてお蔵入りとなっている。

……だけである。どれも見た目も味も他店と大差ない。情報ツールも1つのSNSのみで更新頻度が少ない。そして店内はヴィオレッタの皿コレクションがたくさん飾られている。当初はファミリー向けのはずだったが店内を見渡すとマダム向けに見える。

「そうだ!まだ開店して日が浅いから ”シトロンコラボ” と称して店改造しちゃおうよ!今ならまだ間に合うって!」
「いい考えですね〜。シトロンはんが加わったら繁盛しそうですわ〜。」
「やろうよヴィオさん!」
「ちょっと貴方たち勝手に決めないでくれる!?」

こうして始まったシトロンコラボ。新しく作るスイーツは「シトロンのタルトシトロン(レモンタルト)」。企画からデザイン、タルト作りまで全てシトロンが関わった。程良い硬さのタルト台にはレモンのレアチーズケーキが入っている。上にはレモンの形をしたレモンムースが乗っている。ムースと台の間に輪切りレモンが1枚挟まっており、ムースの上はレモンの葉や花が飾られている。試食会でも好評をいただき、半年後に店頭に並ぶことができた。コラボ準備中もSNSの更新をまめに続けたため客の数は増え、タルト販売当日は思い切って100個作りわずか3時間ほどで完売した。

また、店内の模様替えも行い、黒や茶色でまとめられたシックな内装から白系に一気に変えて明るくなる、コラボ中はシトロンのイメージカラーである黄色とオレンジのアイテムで飾られた。更にヴィオレッタの案でパパンとシトロンが新たにメンバーの制服も作成し、制服も好評をいただいた。

コラボ期間終了後、シトロンはすっかり居心地が良くなっていた。今までたくさんの店の宣伝ばかりしてきたがスイーツ作りは経験してこなかった。今回のコラボで店の内側と向き合い大変な面もあったが人と作りあげる楽しさを感じる場面も多かった。シトロンにとってこの経験が大切な宝物になっていた。

「ふぃ〜楽しかった〜!アタシこのままここで働いちゃおっかな〜!」
「ロンちゃんすごく頑張ってたし制服も可愛かったよ!」
「シトロンはんがいなかったら店はどうなっていたことやら。」
「そうよ、このままずっと居座ってもいいけど?」
「あー……でも、そういやアタシまだ働けないんだった……。」

一同あー……と呟き納得する。この国は例外を除き16歳から労働できる。シトロンは中学生のためギリギリアウトである。(※シトロンの配信の収入源どうなってんのとかは今は聞かないでほしい)

「そしたらマスコットキャラクターとしてはどうかしら。法に触れないように活動してもらって。」
「じゃあそうしてもらおっかな〜。みんなこれからもよろしく!」

シトロンが仲間に加わり、同時に就職先も決まった。ちなみに制服はコラボが終了した現在も着ており、タルトシトロンも人気商品としてずっと販売している。

***

「あっどうしよ……これじゃあ焼けない……しばらくお休みしないとね……。」
一方、シャルロは家で1人お菓子を作っている最中だった。ところがガタが来ていたオーブンがついに故障して使えなくなってしまう。1人でいるときの唯一の楽しみであったスイーツ作りができなくなってしまった。これが原因で気分が落ち込み体調を崩してしまうのであった。