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クルール・プレフェレの話 〜ハンナ編〜

なしみです。
引き続きこちらもよろしくお願いいたします。今回は実家とクルプレを掛け持ちするハンナのお話です。

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舞台となっている街はスイーツ店が多く、次々と新しい店ができ近年激戦区と化している。数々のメディアに載るほど有名になる店もあれば開店してわずか数年で閉店してしまう店もある。その中で創業50年以上を誇る「サロン・ド・ショウズガワ」は街では珍しい和菓子を中心に取り扱う、人気が劣ることを知らない”超”有名店である。代々受け継がれ守られてきた店だが、数年前から後継者を巡って話し合いが続いている。

候補者の1人、ハンナはサロン・ド・ショウズガワ本家の一人娘。幼い頃から看板娘として店に立ち、店の歴史や味を知り尽くしているので後継者になったら確実に味が守られると言われている。おまけに厨房に立つことも多く、和菓子作りで鍛えられたせいか体力と握力に自信がある。ただ、創業から今まで男性しか選出されていない。女性だからという理由だけでハンナを選びたくない従業員がいる。男性のみだと分家から選ぶしかない。悩みに悩んだ結果、朝礼で現在の大将であるハンナの父から後継者の発表が行われた。

「まだ引き継ぎは先の話だが後継者が決まった。次期後継者は…………ハンナだ。」

一瞬どよめきが走ったがすぐに拍手の音が部屋いっぱいに響いた。決めてはやはり経験の豊富さである。また、女性が先頭に立つことによって今まで店になかったアイデアを思いつき取り入れられると見込んだからである。店の伝統と挑戦を願った選択だと語った。続いてハンナに課題が出される。

「しかし、ハンナは我が店一筋で生きてきた。とても良いことだが同時に他の店を知らない。今までの代も、当然私も別の店で修行をした時期がある。店の長になるからには他店でも技術を磨くように。行き先は……自身で決めなさい。」

これから厳しい道を歩むことになるが、大好きな店を守るために必死に修行に打ち込むだろう。ハンナは静かに、だが力が入った声で返事をした。

「ありがとうございます。精一杯努めてまいります。」

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一方こちらは歴史がまだない店。現在ヴィオレッタとパパンは販売するスイーツについて話し合っていた。

「ところで貴方、スイーツは作れるのかしら。ワタクシ起業や経営のことばかり学んできたから料理すらできないのよ」
「シャルちゃんとよく作っていたから手順は分かるよ。任せて!」

試しにパパンをキッチンに立たせてスイーツを作らせてみた。が、間も無く清潔に生まれ変わったはずのキッチンが惨状に変わり果てた。まずはかりが手から滑り落ちて故障。続いて小麦粉をボウルに入れる際に粉が舞い過ぎて部屋が銀世界のような風景になる。その後も色々あり(手順や分量が酷すぎるため省略)トドメとして失敗が目に見えている小麦粉の塊をそのままオーブンに放り込みそうだったので急いで止めた。

「やめてーーーっ!!やめてーーーっ!!もういいわっ!!スイーツは作れないわね!!分かったわ!!」
「あれれ〜、こんなはずじゃなかったんだけどな〜。」

シャルロ以外で誰かスイーツが作れそうな人……そういえば昔からの付き合いでハンナがいたわね、あの子なら力になってくれるかも。そう思いヴィオレッタは久々にハンナに連絡をし、店に来てもらうよう伝えた。翌日来てくれるとのことなので2人で掃除をしながら待つことにした。

翌日ハンナと合流し、早速ヴィオレッタは現在の店の状況を伝えた。ハンナも修行のことを話し、まずはスイーツが作られるか試すことに。和菓子がほとんどなのでそれ以外はあまり作らないとのことだが、常に厨房には立っているので調理自体は手慣れている。ハンナが1人で作ったラングドシャとロールケーキは絶品だった。これならお店に出せる……!

「本当に突然で申し訳ないんだけど、ハンナにはしばらくの間キッチンを任せたいのだけどよろしいかしら」
「そのつもりでいたのでお安い御用です。ただご存知の通りウチは次期女将。いずれ離れる者であることをお忘れなく。」

これで最低人数は揃った。あとは3人で何を販売するか話し合い、時にはパパンがシャルロの元へおすすめスイーツやレシピを聞きに行きながら準備を進め、ようやく2ヶ月後開店することができた。これからどう店を成長させるか楽しみである。

なお、店の名前だけは決まらず、仮で「La boutique de VIOLETTA(ヴィオレッタショップ)」で申請している。