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あなたはカキシメジ?-Taxonomic revision-

キノコの美味しい季節になるとついて回るのが食中毒。
今日は、カキシメジについて少しお話します。

2019年11月4日、石川県でキノコの食中毒に関する事件が発生しました。
当時、JAの直売所で販売されていたマツシメジというキノコを購入し食べたところ、嘔吐症状を示す。県保健福祉センターの調査により、食したキノコはカキシメジであったと推定され、食中毒であったとされました。

カキシメジは外生菌根菌であり、ブナ科の林床に発生しますが、マツ類の林床に発生することもあります。
見た目はいわゆるシメジ、外見の特徴も特になく地味、柄が中空のものもあれば密のものもある、マツタケの近縁種なので美味しそう、しかし虫も殺さないような顔をして国内で最も中毒例の多い毒キノコです。

どこに、なんの木の近くに発生していたかはキノコの同定においては非常に重要な情報です。この売られていたマツシメジとやら、実は北陸のキノコに関して網羅した図鑑『北陸のきのこ図鑑』を見てみると、アカマツの林床に発生するもののカキシメジと酷似しており学名は今後検討が必要という記載があります。

外生菌根菌は宿主特異性がある種もいますが、外生菌根菌の分布においては共生できる樹種の広さにより制限を受けると考えられています。これだけ日本中に分布しているのだから、八方美人なのかも知れません。

そもそもマツシメジというキノコは存在したのか?カキシメジとは何が違うのか?マツシメジとはなんなのか?
なにか私の喉元に引っかかるような感覚を残したまま、時は過ぎました。

時は流れて2021年、ある論文が出版されました。
”Taxonomic revision of the Japanese Tricholoma ustale and closely related
species based on molecular phylogenetic and morphological data”
(分子系統学的および形態学的データに基づく日本産Tricholoma ustaleおよび近縁種の分類学的改訂)
https://doi.org/10.47371/mycosci.2021.06.002

カキシメジが日本で最初に同定されたのが1929年で、形態学的に海外にいた Tricholoma ustale Fr.と同種と同定されました。マツシメジは1938年にT. albobrunneum (Pers. ex Fr.) Quél. (= T. albobrunneum (Pers.) P. Kumm.)として同定されましたが、形態や生態がよく似ていることから混同されてきました。
そこでこの論文ではnrDNAのIST領域の解析により、分類を再検討しました。

その結果、日本産のカキシメジの系統は4つのクレードに分類され、
1 カキシメジ(T. kakishimeji)
2 マツシメジ(T. albobrunneum)
3 アザシメジ(T. stans)
4 カキシメジモドキ(T. kakishimejioides)
に再分類されました。
そして、元々のT. ustaleは日本においては稀、あるいは存在しない可能性が示唆されました。

マツシメジについては、傘上皮菌糸や胞子のサイズから形態的にも分類され、T. albobrunneumとして新種とされました。
マツシメジの生息地に関しては欧州の個体群よりも多様であり、日本の本州の海岸から内陸の山地に生育する二葉松または五葉松の樹下に生息するようです。

結論として、マツの外生菌根菌であるマツシメジという種は存在し、食中毒となったキノコは真にマツシメジであった可能性があります。
とはいえ、広葉樹林に生えるものは「毒のカキシメジ」、マツ林に生えるものは「食のマツシメジ」と言うこともあるそうですが、どちらも近縁種であり有毒であることが考えられます。
実際、有害成分であるウスタル酸か他の生理活性物質が検出されなければなんとも言えませんが、なんにせよ食べないほうがいいということになります。

筆者はその実別にキノコを食べたいと思わないし、拾ったよくわからない菌を食べるなどもってのほかだと思っているのでキノコ狩りは写真を取りに行くだけですが…。

野生のキノコの素人の同定は非常に危険です。図鑑も正誤があり、形態は時期や発生環境によって異なり、発見したタイミングによって形も変化することから、正確な同定のためには顕微鏡観察と遺伝子解析が必要となります。都道府県によっては生死に関わることなので鑑別を断ることもあります。怪しいものは拾って食べないようにしましょう。

それでも人を惹きつけてやまないキノコは、なんとも罪深いものですね。

ご清聴ありがとうございました。

【Reference】
Taxonomic revision of the Japanese Tricholoma ustale and closely related
species based on molecular phylogenetic and morphological data
https://doi.org/10.47371/mycosci.2021.06.002

北陸のきのこ図鑑
ISBN: 4-89379-092-7

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