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花粉症の科学-Human Race vs. Pollinosis-

季節はもう春真っ只中というようになってまいりました。
天気が良ければお散歩をし、桜があれば花見をするなど乙なものというようなシーズンです。
しかし困ったことに、その活動に水をさして来るのが「花粉症(季節性アレルギー性鼻炎)」。悩まされている人も多いのではないでしょうか。
実際、花粉症は国内で約3,000万人、スギ花粉症に関してはほぼ国民の3人に1人が罹患する日本で最も多いアレルギー疾患であり、現在も患者数は増加し続けています。

花粉症も人によって症状の重さが異なりますが、おそらく多くの人が花粉症対策の薬を服用しているかと思われます。
ドラッグストアでも購入できる非常に一般的な薬ですが、ではその薬はどのようなものなのでしょうか?購入するにあたりあまり気にしたことはないのでしょうか。

今日は、花粉症と抗ヒスタミン薬についてのお話をしたいと思います。


Introduction -What is pollinosis-

先に、そもそも花粉症とはなにかについてお話したいと思います。

私達の身体は、体内に侵入した異物を判断し、無害化し取り除こうとする生理反応の機構が存在し、それを抗原抗体反応といいます。アレルギー反応(allergie)というのは、その抗原抗体反応が過剰に発現してしまうという疾病になります。

アレルギー反応はI~IV型反応の種類に分類されますが、花粉症に関連する症状はI型反応であり、関連する抗体はIgE抗体になります。

アレルギー性鼻炎のメカニズム(鼻アレルギー診療ガイドライン2016年版)

アレルギーに関しての素因は個人差がありますが、花粉症はよくコップのような例えをされます。最初はなんともなくてもどんどん蓄積していき、ある時決壊し発症すると発症するものであるとされています。

花粉症の発症までの経緯

具体的に説明すると、スギ花粉症を例に取ると、粘膜に付着したスギ花粉は水分を吸収し開裂して内容物である細胞質が出てきます。抗原は、花粉の外壁と細胞質のゴルジ体に存在するCryj1, Cryj2になります。

なお、花粉はもともと雌しべに付着(受粉)した時点で雌しべの粘液から吸水し、細胞質(精細胞/花粉管細胞)が発芽することによって卵細胞に受精させるという、植物の生殖の一部のものになります。
スギの学名はCryptomeria japonicaで、抗原の名称は二名法のそれぞれの文字を取っているのだと思います。

Micrograph of Cryptomeria japonica pollen

この抗原が体内に侵入し、マクロファージが異物と認識しリンパ球(B/T細胞)と連携して抗体(スギ特異的IgE抗体)を作り出します。この抗体はマスト細胞(肥満細胞)に蓄積され、再度体内に抗原が侵入した際の迅速な対処のための備えとなります。これが毎年大量のスギ花粉に暴露されるにつれて、スギ特異的IgE抗体を保有するマスト細胞が増加していきます。

たまに混同されますが、この肥満細胞という名称はメディエーターを内包し膨れた細胞が肥満を想起させることからつけられたものであり、脂質代謝などの肥満とは全く関係ありません。肥満症とアレルギーの関連でこのマスト細胞を説明に使用していたもの見たことがありますが言語道断です。

話が脱線しがちで申し訳ありません。

マスト細胞の中にはヒスタミンやロイコトリエンなどのケミカルメディエーターが内包されているわけですが、これらは主に血管拡張や炎症性粘膜腫脹により外部からの侵入を阻止したり、粘液の分泌により体内の異物を排除したりします。つまり、これが過剰に反応したものが鼻詰まりや鼻水に繋がります。

この一連の流れが花粉症であり、毎年花粉は春を告げに来訪し、体内に過剰に存在するマスト細胞は抗原が侵入すれば一斉に攻撃して…どうなるかは皆さんがよくわかっていると思われます。


ヒスタミンからのアプローチ

マスト細胞にはメディエーターが内包されていると説明しましたが、このうちヒスタミンは血管拡張や腺分泌の促進に関連する物質で、アレルギー反応と関連を持ちます。

Synthesis of histidine to histamine

ヒスタミンの前駆体であるヒスチジンは必須アミノ酸であり、青魚に多く含まれている傾向にあります。このヒスチジンが脱炭酸酵素によりヒスタミンは生産され、マスト細胞に保存されます。なお、ヒスチジンはイミダゾールを持っている部分が骨格だと思えますが、アミノ酸なのでこれは側鎖にイミダゾイル基を持つ構造になります。

余談ですが、ヒスタミンはある細菌によってもヒスチジンから合成されますが、困ったことにこの細菌が存在する食品を常温で放置しているとどんどんヒスタミンが生産され、摂食した際アレルギー体質に関わらず体内で吸収されたヒスタミンが作用することによって食中毒を引き起こすことが知られています。青魚などの管理には十分ご注意ください。

話を戻しますが、アレルギーを緩和する薬をどのようなものにするかといえば、このヒスタミンをどうにかする必要があるわけで、そこで開発されたのが抗ヒスタミン薬です。この場合、ヒスタミンをどうにかするというよりはヒスタミンのレセプター(受容体)をどうにかするという考えになります。

ヒスタミンはH1レセプター(ヒスタミンH1受容体)へ作用する神経伝達物質であり、抗ヒスタミン薬というのはこれがレセプターに結合することを阻害する薬剤(H1ブロッカー、H1拮抗薬)ということになります。
要するに、鍵(ヒスタミン)が鍵穴(受容体)に刺さって鍵を開ける(反応を起こす)前に鍵穴を塞いでおくという手法になります。

H1レセプターは粘膜や血管など体内に広く分布していますが、脳にも存在します。脳内では、ヒスタミンは覚醒・興奮作用に関わっていますが、抗ヒスタミン薬は血液脳関門を通過してしまうためこの作用を抑えてしまいます。これが、副作用とされている眠気の原因です。

第一世代抗ヒスタミン薬はこの眠気や中枢神経抑制作用が強く、副作用が現れやすいものでした。
第一世代で有名なものでは、ポララミン(chlorpheniramine)やドリエル(diphenhydramine)があります。ドリエルはこの副作用を逆手に取って、睡眠改善薬として利用されています。このことから、第一世代は一部が「精神神経用剤」に分類されています。


第二世代抗ヒスタミン薬の化学構造


現在流通している抗ヒスタミン薬を構造をもとに、主に4種類に分類してご紹介したいと思います。

1.ベンゾヒドリル系

Structure of benzohydryl type drugs

ベンゾヒドリル基(青色)を有し、脂肪族三級アミンを構造に含む特徴があるこれらのタイプは、第一世代抗ヒスタミン薬であるhydroxyzine(アタラックス)の構造を継承していますが、こちらは親水性のカルボキシ基を有することで血液脳関門を通過しにくくなり、眠気が出にくいものになります。

代表として
・アレグラ(fexofenadine)
・ジルテック(cetirizine)
があります。


2.ジベンゾシクロヘプタン系

Structure of benzocycloheptene type drugs

中心に七員環をもち両端に芳香環を持つこの特殊な構造(赤色)は、Ph-C-PhタイプとPh-N-Phタイプがあります。一見構造は違いますが、不思議と活性は同じです。この構造を持つ医薬品は非常に多く、特に中枢神経系に作用するものが多く存在し、抗うつ剤では三環系抗うつ剤と分類されています(nortriptyline (ノリトレン), imipramine (トフラニール))。Loratadineは血液脳関門に存在するABCB1により排出されるため中枢系の副作用は少ないとされています。

代表として
・クラリチン(loratadine)
・アレロック(olopatadine)
があります。


3.フェノチアジン系

硫黄原子と窒素原子を中心の環に含む三環系複素環をフェノチアジン構造(紫色)といいます。また、このタイプは三級アミンを2つ持つ特徴があります。この構造は向精神薬の側鎖に多いものです(chlorpromazine (コントミン), levomepromazine (レボトミン))。mequitazineは特徴的なキヌクリジン骨格を側鎖に持ち、この構造はキニーネの骨格に含まれるものです。
フェノチアジン系抗ヒスタミン薬は抗コリン性作用が強いとされ、口の乾きや散瞳などの副作用が多いとされています。

代表として、
・ニポラジン(mequitazine)
・ヒベルナ(promethazine)
があります。


4.その他

Structure of espinatine

第二世代抗ヒスタミン薬の中には、グアニジン構造をもつタイプのものがあります(茶色)。このタイプはマスト細胞を安定化させ、ヒスタミンの遊離を抑制する作用を持ちます。また、epinastineは高いH1レセプターへの選択性を持ち、他のレセプターへの影響は非常に低いとされています。このことから、車の運転は他の薬品は避ける必要があるのに対して「十分注意すること」とされています。

代表として、
アレジオン(espinatine)
があります。


Conclusion

以上に代表して挙げた薬剤は医師の処方箋がなくてもドラッグストア等で購入することができるものになります。名前を見ると、CMでもやっているものもあって聞き馴染みがるものもあるのではないでしょうか。

それら、薬局やドラッグストア等で購入できる一般医薬品をOTC医薬品(Over The Counter)と言います。また、OTC医薬品の購入費用が高額となった場合、一定の条件を満たせば医療費控除の特例として所得控除を受けることができます。これが2017年に始まったセルフメディケーション税制です。

スギ花粉の飛散は一般的に5月まで続きますが、その後にはイネ科やブタクサなどのアレルゲンも待ち受けています。
科学の叡智をもってして、この忌まわしい定例行事を皆さんで乗り切りましょう。

ご清聴ありがとうございました。


Reference

花粉症環境保健 マニュアル 2022
https://www.env.go.jp/chemi/anzen/kafun/2022_full.pdf

医薬品の部分構造と薬理活性および副作用との 関係
https://www.jstage.jst.go.jp/article/faruawpsj/53/4/53_309/_pdf/-char/ja

セルフメディケーション税制とは?
https://www.daiichisankyo-hc.co.jp/health/knowledge/self_taxsystem/


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