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「ふるさと納税」について

「ふるさと納税」という制度がある。僕も前から利用させてもらっている。言うまでもなく、「返礼品」狙いである。どうせ払わないといけない税金ならば、多少なりとも「返礼品」が戻って来る方が、お得な気分になれる。

それでも、誰の目にも「不思議な制度」であるとは思っていた。税収が増えたところで、高額な「返礼品」を返していたら、差引きで自治体の手元に残る金額はあまり多そうな感じはしない。自治体同士で「返礼品」競争をやっているのを見ていても、どうもマトモな制度ではないのは明らかである。

そうした僕の疑問点を解消してくれる記事が、日経新聞に掲載された。その記事によれば、<ふるさと納税で昨年度、自治体が寄付を受けた分から、税収が減った分や経費を差し引いたところ、全国の4分の1の自治体が赤字だったことが、総務省の公開データから分かった。>という話である。たいして手元に残っていないだろうとは思っていたが、4分の1の自治体が赤字とは、聞き捨てならない。

で、その赤字をどうやって補填しているのかというと、<減収の大部分は交付税で穴埋めされており、事実上、仲介サイトへの手数料や高所得者優遇に税金が投入されている状態だ。>とある。

「ふるさと納税」という制度の特性上、多額の納税をしている高額所得者ほど、利用枠が大きい。僕の知り合いの高額所得者など、「ふるさと納税」を鬼のように活用しており、お米、肉、野菜、海産物等の食品類は概ね「返礼品」で賄っているという。「ウチなんか、「ふるさと納税」で生活しているようなものですよ」と彼は言っていた。自己負担が2千円あるし、寄附額以上の税金が控除される制度ではないので節税にはならないが、上記のとおり、「返礼品」として食料品や日用品を選択することで節約効果はある。もちろん従来から僕などよりもたくさん税金を払っているのだろうが、税金の一部が彼の生活費の補填に充てられているのは間違いないことなので、おカネ持ち優遇策と言われても仕方がない。

「ふるさと納税」という制度自体は、地方の産業を活性化させ、都市部との税収格差を縮める目的で、08年度からスタートしている。だが、都市部と地方との税収格差の解消に関しては、もともと「地方交付税」という制度がある。「ふるさと納税」の赤字だって、「地方交付税」で穴埋めしているのである。だったら、「ふるさと納税」などという余計な施策で手間ヒマかける必要はなさそうな気がする。

にもかかわらず、「ふるさと納税」制度がいまだに運営されていることによって、以下のような問題が起きているように思う。

  • 都市部は単純に税収が減ることになる。

  • 地方も「返礼品」制度があるので、結局、4分の1の自治体は収支マイナスになってしまっている。

  • マイナスの補填は、結局、「地方交付税」頼みなので、政令指定都市等の都市部が尻ぬぐいをさせられることになる。

  • この制度でトクをしているのは、制度を活用している高額納税者(=富裕層)と、「返礼品」ビジネスで潤っている一部の業者である。

  • 結果的に、彼らが潤っている分だけ、世の中の税金が非効率な使われ方をされている可能性がある。

<制度の設計上、黒字になりようがない東京23区と指定市を除いた自治体で赤字額が最も多かったのは兵庫県西宮市で25億8千万円。次いで千葉県市川市の20億5千万円、大阪府豊中市の19億7千万円>とあるが、西宮市、市川市、豊中市は、いずれも大都市近郊のベッドタウンであり、わりと所得の高そうな住民が多く住んでいるエリアである点で共通している。こういうところは、「ふるさと納税」のおかげで、ストレートに税収を「取られて」しまっているということであろう。

逆に、<寄付を最も受けた自治体は北海道紋別市で152億9千万円。2位は宮崎県都城市で146億1千万円、3位は北海道根室市の146億円だった。いずれも肉や海産物などの返礼品が人気で、上位の20自治体だけで全体の寄付額の2割を占めていた。>とあるが、根室市、都城市は、僕も活用させてもらてもらっている。根室市からは、「ホタテ貝柱」、都城市からは、「和牛切り落とし」を、毎年、定期的に「返礼品」として送ってもらっており、我が家の冷凍庫には常にストックがある。

個人的には、恩恵を被っている側なので、文句を言える筋合いではないのだが、社会全体としては明らかに矛盾に満ちた制度であり、どこかのタイミングで見直しを検討すべきものなのであろうが、そうした声があまり上がってこないのは、恩恵を被っている人たちの方が今の世の中で実権を有しており、恩恵にご縁のない人たちの声を吸い上げる仕組みがうまく機能していないからであろう。


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