見出し画像

「スタートアップ企業」について

いわゆるスタートアップ企業の5年後の生存率は15%、10年後6.3%、20年後は実に0.3%だという。細かい数字は別としても、創業10年後に生き残っている会社は10社のうち1社もないというのは、体感的に納得いく数字である。

もっと身も蓋もないデータによれば、最初の3年で9割以上が廃業するという説もある。で、失敗の原因は主として5つの理由だという。いわく、

  • 誰も欲しがらないものを作っている

  • 採用不振

  • 営業・マーケティングの失敗

  • 適切な共同創業者がいない

  • 顧客ではなく投資家を追いかけている

このうち、1つ目と3つ目は、同じ話の裏表のような感じである。「プロダクトアウト」と「マーケットイン」という言葉がある。前者は、会社が作りたいもの、得意なものを作ることに注力して、どうやって売るか、誰に売るかは後から考えるパターンである。後者は、逆に顧客ありき、誰に何を売るかを先に考えるパターンである。

技術畑の社長が自身の得意分野で勝負しようと思って起業すると、「プロダクトアウト」に陥りやすい。良いものを作ったのだから、売れるはずだ、売れないのはオカシイというスタンスである。これはたいていうまくいかない。どんな良いものを作っても、買いたいと思うお客さんがいなければビジネスとして成立しない。

2つ目と4つ目も、同じような問題である。スタートアップ企業の場合、どこも人材不足である。スーパーマンのように全方位で傑出した能力を発揮できるような創業者であれば別だが、普通は得手不得手がある。苦手な分野については誰かに補ってもらうしかない。トップをサポートできるタレントを集められない会社はどこかで躓いてしまう。

5つ目は、実は意外とよくある話である。スタートアップ企業の場合、最初は赤字からスタートする。投資家に出してもらったおカネで赤字を補填しながら、事業を早期に軌道に乗せて黒字化できるところまで持っていかなければならない。事業によってはなかなか世の中に認知されず、黒字化するまで時間がかかることも少なくない。そうした場合、投資家に追加投資をお願いしなければ会社が潰れてしまう。ついついスポンサーからのカネ集めに注力してしまうのは人情としてやむを得ないことではあるが、手許のキャッシュがいくら潤沢であっても、肝心のビジネスの方がいつまで経っても浮上しないようでは、起業した意味がない。まったくの本末転倒である。

期待先行で投資家からおカネだけはたくさん集まるというケースは、IT系とかバイオ系に多い。最近だとコロナワクチンといったキーワードはキラーコンテンツになりやすい。何だかよくわからないけど、大化けしそうだという投資家の期待感だけでとりあえず資金は集まるのだが、事業が思ったように軌道に乗らずにいつまで経ってもモノにならなかったり、結局、ダメだったりといった話はよくある。

集まった投資家のおカネはタダで貰ったものではない。でも、分不相応なくらいに多額のキャッシュが手許にあったりすると、経営者はどうしても気が大きくなる。本来のコア事業に注力して、少しでも早く結果を出すことが期待されているわけだが、あれこれと新規事業に手を出してみたり、お洒落なオフィスに入居してみたりと、余計なことにおカネを投じ始めたりする。

そんなふうに経営者が暴走しないように目を光らせるのが社外取締役とか監査役の役割なのだが、お友だち感覚で集まったようなメンバーばかりの経営陣だと、健全な牽制機能を発揮できず、結局、こういう会社はたいていダメになってしまう。

ここ数年、デジタル関連技術を中心としたスタートアップ企業がマーケットを牽引して、IPO市場は日本でもわりと活況を呈していたのだが、去年あたりからリスクマネーの流入が減ってきており、IPOの件数も調達額も小ぶりになってきている。

ここ最近がミニバブルだっただけで、普通モードに戻っただけだと考えれば、現状が当たり前ということになる。単にアブク銭が欲しくてIPOをめざしているようなスタートアップではなく、ちゃんとしたココロザシのあるスタートアップだけが残れば良いし、投資家もちゃんとした投資対象をじっくりと目利きすれば良いだけである。

そもそも企業の発展段階において、IPOというのはゴールではない。プライベートな段階から、パブリックな立場になるための通過点である。大学入試にたとえれば入学試験みたいなものか。企業として真価が問われるのは、むしろそこから先になる。四半期毎に業績を問われ、まるで中間テスト、期末テストを受けているようなものである。学校のテストであれば赤点とっても、追試を受ければ良いが、マーケットで不合格となれば投資家からソッポを向かれて、株価は下落、最悪は会社が潰れてしまう。そういう試練がこれから先もずっと続くのだ。そういうのは面倒だと思えば、IPOなど目指さない方が良い。

大企業でも敢えて上場を目指さない会社もあるし、MBO等の手段を講じて上場廃止する会社もある。非上場の方が、株主の意向に振り回されずに機動的な意思決定ができるし、IRに余計な手間や労力を割く必要もない。考えようによっては賢明な選択である。

話は戻るが、IPOを目指さなくても、若い人たちが起業にチャレンジして、スタートアップ企業が数多く出て来ることは、世の中を明るくするし、日本経済を活性化するための原動力にもなる。ゾンビみたいな企業はさっさと潰してしまえば良いが、スタートアップ企業はどんどん出て来てもらいたい。

これらがすべてIPOを目指す必要もなく、適正規模を維持しつつ成長しない選択をするのも悪くないし、副業とか週末ワーカー的なポジションのままの「趣味としての起業」もあっても良い。大企業に新卒で入って定年まで勤め上げるのが正義というようなステレオタイプな価値観はもうオワコンであろう。

MBS毎日放送で月1回の深夜番組で「TOKIOテラス」という番組がある。TOKIOの国分太一さんがMCを務める番組で、スタートアップ企業の取り組みを対談形式で取り上げている。月1回だし深夜だし、しばしば視聴するのを失念するが、「TVer」でも配信している。

他にもポッドキャストであるが、エンジェル投資家の千葉功太郎さんが注目するスタートアップ起業家を紹介する「 Angel Radio for Visionary Startups」というコンテンツも毎週更新されるのを楽しみにしている。

徐々にではあるが、若い人たちの価値観や人生観が変革しつつあることを感じ取ることができるのは、たいへん心強いし、僕のようなオッサンはどうにかして彼らをお手伝いしたり応援したりできればと思う次第である。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?