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「ITゼネコン」について

「ITゼネコン」という言葉がある。「建設業界のゼネコンと同じように、情報処理産業において官公需を寡占する大手のシステムインテグレーター(SIer)のこと。またはそれらが形成する多重の下請け構造のことである」という(Wikipediaより)。

政府、各官庁、地方公共団体等の公的機関や企業が、何かシステムの改修や刷新を考える場合、こういった業者にまずは声をかけることになる。はっきりと言えば、多くの場合、丸投げである。

で、「SIer」(システムインテグレーター)が、公共工事と同様に元請けになって、プロジェクトの規模に応じて、下請けや孫請けに仕事を割り振っていくことになる。現在、大手の「SIer」としては、国内大手ITベンダー(日立、NEC、富士通)3社に加えて、IBM、HP、Oracle等の外資系ITベンダーが代表銘柄である。

発注者側にとっては、大手の「SIer」に発注するのは一種の「保険」でもある。インフラ構築からコンピュータ機器の設置、納入後の運用メンテナンスに至るまで全部丸ごと引き受けてくれる。大手であれば開発リソースに関しても心配ないし、何かトラブルがあっても責任をもって始末をつけてくれる。

その代わり、デメリットも大きい。いわゆる顧客の囲い込み(ベンダロックイン)である。メインフレーム時代はもちろん、オープンシステムが普及した時代になっても、過去のプログラムの内部仕様を開発元以外の「SIer」が把握することは難しく、昔から出入りしていた企業の既得権益が守られることになる。

あと官庁の場合は天下りの問題もある。今はさすがに是正されていると思うが、昔はOBの受け入れと案件発注とが露骨に抱き合わせみたいな感じだったらしい。

同じ霞が関でも官庁によってそれぞれ出入りのベンダーが異なったり、地方公共団体ごとにそれぞれ特定のベンダーがべったりと張り付いていたりしているのは、過去からのいろいろな経緯を抜きには説明できない。

しかしながら、たぶんそんなことよりも、「SIer」に丸投げするクセが染みついてしまうことによる最大の問題は、官庁にしても企業にしても、システム関連のことに関して、自前で主導権を取ろうという意欲も能力も失せてしまうことではないだろうか。「SIer」におんぶに抱っこで依存している上流工程での「システム企画」「要件定義」「基本設計」「詳細設計」等やプロジェクト全体の管理その他の業務は本来ならば自分たちで仕切らなければならないことなのに、長年にわたり、「良きに計らえ」といった具合に何でも丸投げするような仕事を続けているから、だんだんと何もわからなくなってしまい、「SIer」に言われるがまま、やりたい放題にされてしまうのだ。

今回、政府が地方自治体のシステムの仕様をそろえてクラウド化するための基本方針を閣議決定した。税や年金など20業務のシステムを政府のクラウド上に移し、自治体ごとにシステムがバラバラな現状を改めて、政府の仕様書に沿ってつくったシステムを共通システム基盤「ガバメントクラウド」上で運用することを求めている。移行期限は25年度末という。

政府としては「やれ」と号令して、期限を設定すれば、あとは自治体の仕事だということであろうが、結局、自治体は丸投げに慣れてしまっているので、もちろん自前で何かやれるわけでもなく、政府に言われたままのことをスルーパスのようにITベンダーに丸投げすることになる。結果として各ベンダーは日本各地でちょっとしたバブルみたいに活況を呈することになるのだろう。これも一種の補助金かと勘繰りたくなる。

クラウドに移行した後のシステムを仕切るのは、おそらく大手業者ということになるだろうから、結局は業界のピラミッド構造はそのままということになるだろう。

仕様がバラバラだったものが、「ガバメントクラウド」なる共通システム基盤に集約されることは悪くはないし、各官庁・自治体のインフラが共通化されることのメリットは将来的には期待できるのかもしれない。

しかしながら、そこに乗っける業務フローの見直し、効率化、共通化はどうするのだろうか。同じような仕事であっても、自治体ごとに業務フローや帳票、事務手続き等はまちまちである。使っているアプリも違う。そういうのもセットで25年末まで(あと3年)に解決できるのだろうか。

「IT業界のサクラダファミリア」と呼ばれるくらいの大規模な基幹システムの刷新を行なった某銀行で何度もシステム障害を起こしたのは、たぶん偶然ではない。

全体像を見渡して理解できる人がいない(少なくとも内部にはいない)状況で、某銀行みたいに業者に丸投げするような無責任な仕事をやっていると、次は自治体でも似たようなことが起きるような気がする。そうなったら政府は、自治体に責任を押しつけるつもりであろうか。


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