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専業主婦について

近年、共働き世帯が増加する一方、専業主婦世帯は減少しているのだという。80年代では専業主婦世帯は1,114万世帯(夫婦のいる勤労者世帯の64.5%)で共働き世帯(614万世帯、同35.5%)の2倍弱を占めていたが、90年代半ばに共働き世帯が上回り、22年には専業主婦世帯(569万世帯、同29.9%)は共働き世帯(1,262万世帯、同70.1%)の半数に満たなくなっているという。

興味深いのは、妻が外で働くかどうかに関して、夫の年収分布による大きな差異は認められないことである。何となく、「夫の稼ぎが少ないから、妻が働くことになる」と考えがちであるが、そういうものではないということになる。

実際のところ、僕の周囲でも、夫婦そろってガンガンと稼いでいるような、いわゆる「パワーカップル」は少なくない。同程度の学歴の男女が出会って結婚するパターンが多いということであれば、高学歴者は高学歴者同士で結婚することになる。結婚したからと、それまで築いたキャリアを捨てるのはもったいないと考えるのは当然であろう。実際のところ、銀行時代の若い部下などを見ていても、ある時期から、「寿退社」は絶滅している。

一方で、婚活マーケットに登場する女性に関しては、年代問わず、専業主婦願望を持つ人が多いらしい。

ソニー生命保険が全国の20 ~69 歳の女性に対して行った「女性の活躍に関する意識調査2019」によれば、現在仕事している女性のうち、本当は専業主婦になりたいと考えている女性の割合は全体の36.7%にのぼっているとのことで、特に20代では53.2%が「非常にそう思う」「ややそう思う」と答えており、専業主婦への憧れが強いという。

20代であれば、「妊活」「育児」等のライフイベントを想定するならば、仕事よりも家庭を優先したいという気持ちは理解できなくもない。でも、実際には、共働き世帯が増えているということは、それを許さない事情、つまり経済的な理由等で、共働きをしないと生活できないケースが多いということだろう。

その延長線上で、「専業主婦は、贅沢だ」「家で旦那に養ってもらうなんて、サボっている」といった考え方を持つ人たちもいるのであろう。

そもそも、大昔の一般庶民家庭においては、専業主婦などは存在しなかったという。農家においては、女性も子どもも貴重な労働力であるから、一家総出で働くのが当たり前であった。都市部においても、町工場や商店などは同様である。今でも、福井県、山形県、石川県などでは、過半の世帯が、共働きであるという。

「給与所得者の夫と、専業主婦の妻」という組み合わせは、戦前であれば、ごく一部の恵まれた階層でしか見られなかったものであるが、高度成長期に急速に普及し、一般化したと言える。

夫1人が働くことで、妻子を養うに足る稼ぎが得られるというのは、考えてみると、なかなかたいしたものである。夫の所得レベルがそれなりに高くなければ、実現できないことである。終身雇用を前提として、「配偶者手当て」とか、「扶養手当て」等があったのも大きい。

先ほど、福井や山形、石川といったエリアで共働き世帯が多いと書いたが、地方においては、1人の稼ぎに依存せず、世帯所得を確保する方が現実的、合理的だったからという説明は成り立つかもしれない。同じデータでは、奈良県、兵庫県、大阪府の近畿3県の共働き比率が低いことがわかるが、これらのエリアにおいては、地方に比べると、そこそこ稼げる職業への就労機会が多いこと、あとは保育園問題を考慮する必要があるのかもしれない。近畿に比べて、東京の共働き比率が高いのは、住居や生活によりおカネがかかるからという理由が考えられそうである。

共働きが増えていることも、生涯未婚者が増えていることも、少子化も、いずれも根本的な原因ははっきりとしている。日本の経済成長が長らく低迷しており、所得が増えないことである。

GDPにおいて、25年にも、日本はインドに抜かれて、世界第5位になるという記事を読んだ。

人口14億人のインドにGDPが抜かれても、それはそれで仕方がないと思うのだが、1人当たりGDPが、先進7ケ国(G7)で最下位であることや、アジア圏内でも、台湾とか韓国よりも下位であることについては、もっと真面目に心配するべきであろう。

実際のところ、アジア諸国から来た観光客にとっても、もはや今の日本は、「安い国」であるという。

少子高齢化が進む日本において、我々が豊かな生活を送りたければ、まずもって経済成長して、パイを大きくするしかない。30年以上も、日本経済が停滞している間も、海外各国は成長しているのである。

パイが大きくなれば、労働者1人当たりの取り分である所得も増える。あとは、シニアも女性も働いて、世帯収入を上げていくことであろう。

誰かの稼ぎに依存するだけの人が減れば、世帯収入は増える。世帯収入が増えれば、消費も増える。世間におカネがたくさん回るようになれば、日本経済全体も成長する。税収も増える。悪いことは何もない。

家族皆んなで頑張って、世帯収入を上げるという戦略は、もっと見直されて良いと思う。高度経済成長期に、日本人は核家族化が急速に進んだが、昔の日本人は、3世代くらいが、まとまって生活するのが普通であった。「サザエさん」とか「ちびまる子ちゃん」の一家を見れば歴然としている。

1人1人の稼ぎはたいしたことなくても、足し合わせれば、バカにならない。一方で支出面に関しては、住居費とか食費、光熱費等は、単身世帯がいちばん効率が悪く、不経済である。

「「1人口」(ひとりぐち) ならば 、食えぬが、「2人口」(ふたりぐち)は食える」という言葉がある。生計は夫婦で営むほうが、独身よりも経済的に得策であるということを意味する。

そういう意味では、若者世代の婚活推進は、経済活性化にも資する。別に法的に結婚しなくても良い。事実婚でも同棲でも構わないが、パートナーと共同生活を営むようになれば、世帯収入が上がり、消費も促進される。中長期的には、少子化対策にもなる。

いずれ遠からず、「専業主婦」という言葉は、「死語」になるに違いない。というか、「死語」にすべきである。

父親が外に出て働き、母親は家庭を守って、子どもを養育するといった姿を、「日本の伝統的な家族制度」だと思っている人がいる。与党の頭の硬い議員さんたちである。先ほども書いたとおり、専業主婦というものは、高度成長期にたまたま一般化しただけであり、伝統的な家族制度とは必ずしも関係ない。むしろ、老若男女問わず、働けるものは家族総出で働くのが、一般庶民にとっては当たり前だったのだ。

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