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「死の谷」について

スタートアップ企業を取り巻く資金調達環境については、前にも書いたことがある。

日本ではVCマーケットの規模が米国に比べて小さく、IPO準備段階での大規模な資金調達には限界がある。スタートアップ企業は銀行融資を得られないか、得られても少額で、資金難から倒産の危機に瀕する「デスバレー」(死の谷)を乗り越えづらい。

創業初期の「アーリー・ステージ」は、まだ調達金額も小さくて、何とかなることが多い。創業資金を支援してくれる「エンジェル投資家」とかもいる。

本当に大きな資金が必要になり、企業として勝負をかけないといけない中・後半期になると、資金調達がだんだんと難しくなる。

<日本では、事業化の初期に投資が偏っている。起業投資会社による投資額の割合は、創業期が全体の61%を占めるのに対し、事業が伸びるかどうかの分かれ目となる成長期では33%に下がり、経営が安定する成熟・安定期に至っては7%にすぎない。>という記事もある。

<資金を国内外から調達できず、「死の谷」と呼ばれる大きなギャップを乗り越えられずに失速してしまう。成長期~成熟・安定期に90%以上の資金を集中させて事業規模を拡大させる北米とは対照的だ。前年度末からの起業の増加割合を示す開業率も、欧米に比べて低水準で、起業意欲に乏しい現状がみてとれる。>

せっかく育ってきたスタートアップ企業が、中途半端な状態で、「尻すぼみ」になってしまったり、資金ショートを起こして、「突然死」してしまうことだってある。

社会的に見ても、ホントにもったいない。

日本の場合、IPOのハードルがあまり高くないというのもあって、スタートアップ企業の「出口」=IPOという格好になっているが、何とかIPOにこぎ着けたとしても、IPOは単なる通過点に過ぎないので、そこから成長しようと思えば、さらに資金が必要になる。

結局のところ、事業規模を拡大させるべき時期の企業を、うまく育てる仕組みが存在しないというのが、いまの日本の問題なのであろう。

じゃあ、政府主導でおカネを投じれば、うまくいくのかとなると、そういう話でもないと思う。

政府は、「スタートアップ創出元年」とか言って、「10兆円投資」等の数字とか掛け声ばかりが独り歩きしているようだが、日本政府にベンチャー育成のノウハウはない。

結局のところ、ベンチャーキャピタル業界も狭いムラ社会みたいなもので、そうした狭い業界の一部の人間が、スタートアップ支援予算に群がっているだけのような様相を呈している。

ベンチャー投資は、10社に投資して1社が成功すれば「御の字」というようなハイリスクな世界である。プロの中のプロでさえ、打率はそんなものである。ギャンブルに近い。役人が何のノウハウもなしに、手を出しても、まさに税金をギャンブルで溶かすだけであろう。

やるのならば、どうせ審査する能力なんか持ち合わせていないんだから、下手な判断はせずに、「カネは出しても、口は出さない」というスタンスで腹を括って、主要な大学とか研究機関に思い切って資金提供をして、その中から何か新しいビジネスのネタが1つでも2つでも生まれてくるのを待つくらいしかない。

文字どおりギャンブルである。何が当たるかなんか、たぶん誰にもわからない。大勢の有識者が集まって、喧々諤々と審査をして、「これならば大丈夫」なんて太鼓判を押したような事業は、いちばんうまくいかない可能性が大きい。誰もが大丈夫だと思うようなものは、既に似たようなものが世の中にあって、ネタとしては陳腐な部類に属するだろうからである。

それくらいならば、くじ引きでもやって、当選した事業には、「〇年間で〇億円」みたいな感じで、資金をばら撒き、所定の期間内に一定の成果を収めた企業に対しては、また新たに追加投資を行なうといった具合の方が、まだ期待できるかもしれない。

トヨタだって、ホンダだって、ソニーだって、創業期において、お上のお世話になったところは1つもない。むしろ、「うまくいくわけない」と、邪魔をされたり、足を引っ張られたことならばあったかもしれない。それくらいに、人間というものは、先のことなど予測できないのだ。



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