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Fear & Greed Indexを用いたトレード手法検証 ~〇張りはダメでした~

やったこと

Fear & Greed Index に基づいた取引の有効性を定量的に検証した

動機

家計の余剰資産を中長期投資で運用しており、逆張り的に使える指標を探していました。相場の強弱の指標である Fear & Greed Index であれば相場の底をおおよそ捉えられるのではないかと期待し、 Fear & Greed Index を用いた取引手法について検証しました。

Fear & Greed Indexについて

同名の指標はいくつかありますが、CNNのものが有名ですね。

CNNのFear & Greed Index(恐怖と欲指数)は株価やオプション取引の需給、債券利回りなど異なる7種類の指標を統合して算出され、市場の恐怖と欲の度合いを表現した指標です。
恐怖が強くなると指標の値は小さくなり、欲が強くなると指標の値は大きくなります。
今回はこちらの指標を「悲観で買って、楽観で売る」ような取引に活用できないか検証します。


Fear & Greed Index のヒストリカルデータ取得

対象とするデータ

CNNのFear & Greed Index のページで確認できるヒストリカルデータは直近約1年に限定されています。

そのため検証のためのデータ数を稼ぐため、今回は代替指標として "Fear & Greed Index-Buschi" を利用させてもらいます。これはTradingView上でMagicEins氏が開発したインジケーターで、CNNのFear & Greed Indexをmimicしたものです。

TradingView上で表示されるこちらのインジケーターの値を過去約20年分取得し、それを用いて検証を行います。

TradingView上からインジケーターの値を取得する方法については、いずれまたの機会にまとめたいと思います。

CNNと代替指標の比較

検証の前にCNNオリジナルのFear & Greed Indexと氏の"Fear & Greed Index-Buschi"を比較します。CNNに合わせ、直近約1年の比較です。


これを見ると騰落の方向性はなんとなく合っているものの、絶対値は正確には合わないことが分かります。特に本指標を用いる上でよく基準になる80%ラインと10%ラインをクロスするタイミング・頻度が異なるのが気になります。
といっても始まらないので、今回はとにかくこの"Fear & Greed Index-Buschi"を対象に検討を進めます。

CNNオリジナルの値をより良くmimicした計算方法は自分もいずれ検討してみたいと思います。


Fear & Greed Indexを用いた取引手法の有効性検証

検証方法

テクニカル指標などを用いた取引手法の有効性検証としては、バックテストを用いる方法がありますが、個人的にあまり好きではありません。
理由としては、

  • 取引頻度が疎になりやすく、調整するパラメータに対して結果のばらつきが大きい。

  • テクニカル指標と一緒に損切りルール等を併用することが多く、そちらの設定の影響が大きい場合がある

  • 複利の効果で、テスト対象期間初期のリターンが過剰に評価される。

  • 市場のボラティリティに大きく影響を受ける。ボラティリティの大きい期間にたまたま上手く取引できたパラメータの評価が高くなりやすい。

そのため、テクニカル指標の良し悪しを検証するために、今回は「将来x日間に対するストキャスティクス」を用いたいと思います。
通常のストキャスティクスは過去x日間の終値全体を、最高値を1、最安値を0として正規化した際の現在値です。
一方、今回用いる「将来x日間に対するストキャスティクス」は逆に将来x日間の終値全体を、最高値を1、最安値を0として正規化した際の現在値です。例えば、この値が0ということは将来x日間に渡ってその日の値が最も安く、ドローダウンがゼロであることを表します。また、この値が1ということは将来x日間に渡ってその日の値が最も高く、含み益がプラスになる日はないということを表します。0.5であれば将来x日間の中で、含み益と含み損の絶対値が同じになる日があるということです。

優れたテクニカル指標であれば、買いシグナルが出た際の将来ストキャスティクスは0に近く、売りシグナルが出た際の将来ストキャスティクスは1に近くなります。

今回はこの将来ストキャスティクスを用いて、以下2つの方法でFear & Greed Indexの有効性を検証しました。

  1. Fear & Greed Indexと将来ストキャスティクスの相関

  2. Fear & Greed Indexのシグナルと将来ストキャスティクスの平均

将来ストキャスティクスはSPX(TradingViewでのシンボルSP:SPX)に対して計算をしました。

Fear & Greed Indexと将来ストキャスティクスの相関

今回Fear & Greed Indexに期待するのは逆張り指標としての有効性なので、Fear & Greed Indexが低くなっている(Fear)際に将来ストキャスティクスが低く、Fear & Greed Indexが高くなっている(Greed)際に将来ストキャスティクスが高くなっていれば嬉しいです。
そのため期待する2変数の関係は正相関で、分布としては以下の図のようになります。

では実際に具体例としてFear & Greed IndexとSPXの将来252日ストキャスティクスの分布と相関を見てみましょう。


負相関になっちゃいました。

ストキャスティクスの値が0近辺に多いのは、SPXが過去長期的には右肩上がりに成長してきたためです。それは良いのですが、そのストキャスティクスが0近辺に対応しているFear & Greed Indexは0よりも100の方に多く、分布が右下に集中しています。

予想と違った結果が出てきて驚いてしまったのですが、もしかしたら将来252日という長期のリターンがこのようになるだけで、短い期間やより長い期間では傾向が異なる可能性もあるので確認します。

将来ストキャスティクスを期間1日から500日まで計算し、それぞれの場合のFear & Greed Indexとの相関を確認しました。

全体的に負相関。

ほぼ全ての期間に渡って負相関となりました。
結果を正直に受け止めるなら、Fear & Greed Indexが低い(恐怖)時に買って、高い(欲)時に売る手法は中期的にも長期的にも損をするという結果になりました。
逆にFear & Greed Indexが高いときに買うような順張り的な活用の仕方のほうが利益が出るということになります。

Fear & Greed Indexについては、2020年3月のコロナショックの暴落の際にFear & Greed Indexが1になり、その後相場が猛反発したという記憶があったたため、逆張りに有効というイメージがありました。

たしかに上記のコロナショックと同様に、Fear & Greed Indexが下がって底入れとなったタイミングは見当たります。

一方で、偏見を捨てて見てみれば逆にFear & Greed Indexが高いがそのまま相場は右肩上がりといったタイミングも無数に見つかります。特にFear & Greed Indexが高くなった後に、そのまま高値を更新し続けるという場面は多い印象です。

以上、将来ストキャスティクスとの相関の観点ではFear & Greed Indexは逆張りに用いるものではなく、順張りに用いるのが適当という結果になりました。

Fear & Greed Indexのシグナルと将来ストキャスティクスの平均

次にFear & Greed Indexのラインブレイクをシグナルとして用いた場合の有効性について検証します。

具体的には、恐怖側のラインを10、欲側のラインを80として、それを上抜けもしくは下抜けした場合に取引した場合にどういう結果になるかを定量化します。ラインブレイク時に取引した場合のリターンとロスの代替指標として、ここでも将来ストキャスティクスを用います。
良いテクニカル指標であれば、買いシグナルが出た際の将来ストキャスティクスは0に近くなり、売りシグナルが出た際の将来ストキャスティクスは1に近いものになるはずです。ここでは各シグナル発生時の将来ストキャスティクスの平均を見ることによって、そのシグナルが売り・買いにどれだけ有効かを定量化します。

まず80のラインの上抜けと、10のライン下抜けをシグナルとした場合について検証します。将来ストキャスティクスを期間1日から500日まで計算し、それぞれの場合の各シグナルの平均将来ストキャスティクスの結果です。

将来ストキャスティクスの平均値の関係はほぼ全期間にわたって「10下抜け>80上抜け」となっています。わかりにくいですがこれは80上抜け買いのほうが10下抜け買いよりも利益が大きくなる可能性が高いことを示しています。


続けて80のラインの下抜けと、10のライン上抜けをシグナルとした場合の結果です。

将来ストキャスティクスの平均値の関係はほぼ全期間にわたって「10上抜け>80下抜け」となっています。


この結果から言えるのは「このシグナルを用いて売り買いをするならば、10のラインは上抜けだろうが下抜けだろうが売り、80のラインは下抜けだろうが上抜けだろうが買い」ということです。
結局、相関を分析した際の傾向と一緒になりましたね。

個人的には10の上抜けくらいは買いシグナルとして有効かと思いましたが、それでも結果は反対だったことが驚きです。


結論

Fear & Greed Indexを取引に活用する場合は、恐怖で売って、欲で買うような順張り指標に用いるのが適当。

目的としていた逆張り指標としては使えないことが分かりましたが、まあこれはこれで…



検証に用いたデータの期間について

例えば将来ストキャスティクスの計算期間が252日の場合の上図ですが、分布の左上の点には2007年後半~2008年後半のデータが多く含まれます。Fear & Greed Indexが恐怖の状態にもかかわらず、その後下げが優勢だった。というよりもFear & Greed Indexが恐怖だろうが欲だろうが、その後下げ続けた時期、何かというと2008年9月のリーマンショックの影響がかなり出てしまっています。そのため、この時期以降のみのデータで検証をすると本記事の結果は大分マイルドになります。
本記事の内容はあくまで期間を選ばずとりあえず手に入った全期間を対象に分析したものであり、検証するデータの期間を変えれば異なった結果が得られる可能性については注意してください。

雑記

書き終わってからプログラミングについて話題にもしていないし、コードを一行も載せてないことに気づきました。
とはいえメインの部分でいうとストキャスティクスの計算したり相関分析しただけなので、特に面白みはありません。
TradingViewからインジケーターの値引っ張ってきたり、CNNからFear & Greed Index引っ張ってきたりする方法についてはいずれまとめたいと思います。

免責

ここで書いた情報は、読んだ人に投資や特定の取引方法を推奨・勧誘することを目的としたものではありません。
また、ここで書いた情報の正確性・有用性については保証をしません。


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