次会える保証はどこにあるだろう

「また必ず会おうね」

大学に通っていた1年間、私の前で1度も涙を流さなかった彼女が、私の右手を握って泣いていた。



大学を1年通ってやめた。それなりに友達もいた。大学をやめて半年経った頃、またみんなで集まろうとみんなが私に声をかけてくれた。

毎日大学で顔を合わせていたメンツ。バイトで来れないと初め言っていた仲の良かったあの子も、無理矢理シフトの代わりを探して、いつもの駅に来てくれた。


久しぶりに会うみんなの顔を見て、私は少し緊張していた。黙って急に大学をやめていった私のこと、みんなはよく思っていないと思っていた。

私は引きつった顔で、久しぶりと言って笑った。

みんなは元気だったかとハグをしてくれた。手を握ってくれた。1人の子が、会えて嬉しいと人目をはばからず泣いていた。

みんなで食事をして、タピオカミルクティーを飲んだ。その日はタピオカミルクティーが安かった日だったから。



髪を染めたのと私に背を向けて長い茶髪を見せてくれた子がいた。アクセサリー屋の鏡にカメラを向け、私とツーショットを撮ろうと声をかけてくれた子がいた。レポートの提出日いつだったっけと、左を向いて話しながら、私の左手をずっと握ってくれていた子がいた。

なんでやめたのと、誰も聞いてはこなかった。




車で来た子たちと改札前で別れた。

じゃあまたね、が重たい。次会える保証はどこにあるだろう。


改札の中に入って、電車で帰る残った1人の子とお互いの電車の時間を電光掲示板で確認し合う。

「私あと5分くらい」

そう言って私は、自分のホームへ向かおうとした。

体の向きを変えた瞬間、彼女は私の右手を握った。なんだかよく分からなくて、私は口角を微妙に上げたまま、ただそこに立ち尽くしていた。

彼女はしばらく目を合わせてくれなかった。

言葉を出せずに苦しんでるようだった。

頬に当てた手の甲。鼻をすする音。

彼女が泣いていることに気づいて、私は大袈裟に笑った。彼女の手を強く握り返す。

握られた右手が震える。

涙は伝播する。

彼女は私のことを苗字で呼び捨てにする。初対面のときは長く黒い髪で顔半分を隠していて一切笑ってくれなかった。おはようもバイバイも、いつも雑だった。

私たちの横を、何人もの人たちが通り過ぎていく。

何度でも思い出せる。エレベーターの扉の少し横。

「次はいつ会えるの」

彼女の声だった。よく覚えている。震えているけど、しっかりと響く。いつもの口調。とんがっていて、なのに優しい。

「ええ〜?いつだろう?」

そうおどけて言いながら、私も、言葉を出すのが苦しかった。無理に上げた口角が痛い。


「また必ず会おうね」

大学に通っていた1年間、私の前で1度も涙を流さなかった彼女が、私の右手を握って泣いていた。








あれから1年以上経つ。そんな彼女と、今日、いつもの駅で待ち合わせた。パンケーキが食べたかったらしい。

爪切りが壊れたこと、犬の散歩くらいしか外出しないこと、彼氏がほしいこと、大学のいつものメンツではしゃぎたいこと。

彼女の話すことは大体いつも同じ。飽きもせず2人で笑う。

彼女はいつものように、バイバイと言いながら笑いもせずすぐに進行方向を向く。見慣れた駅ナカのコンビニの前を、脇目も振らず歩いていく。


彼女の背中を、ずっと目で追う。

喉の奥がツンと痛い。なにかが詰まったように、言葉は発せられそうにもない。大きく息を吸っても、まだ足りなくて、吐く息が細かく震えて頼りない。





大学をやめて1年と少し経つ。

たったそれだけの私の話。





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