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おじさん天使のLondon Bar Visit   【世にも奇妙なモノ収集】が趣味のニコルの場合


一本入ると、オフィスビルの裏側のような感じのその道は
暗くて寂しげでロンドン、メイフェアーの華麗なイメージがまったくない

ここが本当にそうなの?

と思うような場所に、そのバーはありました。

初めて地球に来た追放天使のジンジャーとフラゴンから
彼らの仲間のニコルの噂を聞いて、もう数年経つかもしれない。

あれ以来、私はずっとニコルに会ってみたい、と思っていたのです
どうして、興味を持ったか、って?

それは、ニコルの天国での趣味?に興味があったから!
(天国でも、趣味に没頭している天使は沢山いるそうです…)

その趣味ってなんだと思う?
 
ニコル天使は…
【世にも奇妙なモノを収集】していたのですって!

そのニコルが今はロンドンに暮らしていて
日々、どんな生活をしているのか?
何を奇集しているのか?
貴方も、ちょっと興味がわかない?

私は、すごく知りたいと思って、先日ついにジンジャーから教えてもらった
彼が出没するというバーを訪ねて行きました。

「うん、こういうバーか…なるほどね」

話に聞いているニコルのお気に入りだというのが
店に入ってなんとなくわかる気がした、そしてあれが追放天使ニコルだと
後ろ姿ですぐに気がつきました。

その天使ニコル、バーカウンターで一人ギネスを飲みながら
使い古してボロボロになった革表紙の手帳に、
何やら細かく書き込んでいます…

「ニコルでしょ?  ジンジャーから聞いたんだけれど…邪魔じゃない?」
「え???…ああ、もしかして…ジンジャーの友達の…?」

こうして、私はやっとニコルに出会えて
そして興味深い話を聞くことが出来たのです
これから書くお話は、ニコルから聴いた
正真正銘嘘偽りのない本当の話でございます

*    *    *    *    *    *    * 
  
天使の子供時代は人間のそれよりも
ずっとずっと永遠に続きそうに長いらしい
ニコルは子供の頃から、ものを集めるのが好きでした。

面白いと思ったものは、なんでもポケットに入れるので
ポケットは、すぐに大きな穴が開いてしまいました。

一体、いくつのポケットをダメにしたことでしょう…

さて、そんな幼かったニコルが山歩きをしていたある日、
小川のほとりでとても美しい羽を見つけました
そして、それが、その後に起こる
すべての始まりになったのです。


その羽には、ビートルートから流れ出るような美しい濃いピンクと
夕日の黄金色と、嵐がもうすぐそこに来るような空の色とが混ざり合い…
そして、羽の縁には小さなピンク色の真珠の飾りが付いていたのです。

後でわかったことはその羽、
実は、階級のすこぶる高い野獣の目の周りに生えている摩訶不思議な羽で
数千年に一度ある大事な神会の時
とても重要な儀式に使う大層大事な羽だったのです。


選ばれた若い天使がその羽を右の足首につけて
ぐるぐると回りながら何時間、何日もの間
休みなく愛を祈りながら踊り続けるのです。

こうして数日、時には数週間の間、ずっと踊りづつけて最後
ついにその羽が右の足首から取れて飛び散る時
長い儀式は終わり、疲れはてた若い天使は雲の綿布団の中に
倒れこんで、ぐっすりと三日三晩眠り続ける、と言われているそうで…

ニコルが見つけたそれは、祈りの踊りをする天使の右足からとれて飛んで
ふわふわと何百光年の旅をして
ついに山道の小川のほとりに落ちたものだったのです。

それはそれは貴重な羽で
でも実はそれを見つけたものには義務がかせられる、
というおまけが付いているちょっと厄介なものでもありました。


その義務というのは、【物語を紡ぐこと】

一体、物語を紡ぐとはどういうことなのでしょう?


幼いニコルが、どうしたらよいものか…???と
困って藻の生えた大きな石の上に座っている時でした。

向こうから雲師のおじいさん天使が歩いてきて
そして、ニコルにそっと教えてくれました。

「どうしてよいかがわからなければ、羽の声を聴くことだ」


こうして、ニコルは羽の声を聴くために、いくつもの羽を集め始めました。

そのうち羽は
「満月の明るい夜に集めたものは語りだす」
と、物語を紡ぐことへのヒントをくれました。



こうして、ニコルは心に響くものを収集するようになったのです。

羽の他に、小さな金平糖ぐらいの流れ星や、
天国きっての奇獣ジューアンの牙、
ドラゴンの切れた尾や、空を泳ぐクジラのように大きな魚の小さな鱗やヒゲ
など、主に奇妙な生物が落としていったものを集めていたそうです。
 
そして、女神様の落とした大切なものまでを、ついうっかり
収集してしまった罪で追放天使となって地球に降り立ってからも
ニコルは心に響いたモノを集め続けました。

そして、それこそ、この収集が、神様の命じた罰
【この宇宙のどこかで何か良いことをすること!】に
ぴったりと、ハマっていることに気がついたのです
 
「え? どういうこと? 何を集めているの?
どうしてそれが地球のためになっているの?
どういうものを、何を集めているの?」

私は、話の意味がよくわからなくて、
ニコルに矢継ぎ早に質問をしてしまいました。

「そんなに知りたいの?
今日集めたものを、ちょうどこの手帳に書いていたんだ」

と、微笑みながら見せてくれたノートを覗くと…

これは天使の言葉なの?
全く読めない! 文字なのか?絵なのか?よく分からない図のような…?
困った顔をしている私に、ニコルは丁寧に説明をしてくれました。

「今日集めたものはね、赤ちゃんの蹴り落とした小さな小さな左足用の黒と白の革靴、クルミの殻、錆びて曲がったネジとサーディンの缶、敗れたヨットの帆布、ギターの線、綺麗な女性が落としたつけまつ毛、傘の骨
潰れたペットボトル、テディーベアの目玉、そしておばあちゃんの入れ歯ナドナド…」

こんなものを、ニコルは道で拾ったり、公園で見つけたり、テムズ川の岸辺で探したりしたそうだ。

そして、それらをニコルは部屋に持って帰って
大小さまざまな瓶に詰めて溜め込んでいる。
 
普通の人間には、ただのゴミでしかないモノも、
ニコルにとっては世にも珍しい、
集めないではいられない心に響くものばかり。

ゴミだなんて、とんでもない!

ニコルのボロボロ革表紙のノートブックに記されている地球ゴミ収集記は
天使語で書かれているので、私には理解できなかったけれども
でも、図のような、絵のような文字は美しく
私も、ぜひこのゴミ収集記をコピーしてもらって
これを手元に置きたいと思ってしまった!

それを、ニコルに言うと
「つまりこれが、僕の義務、物語を紡ぐことなんだ、僕がこの惑星に来てからは地球で収集したモノ一つづつが、物語を紡いでくれている。
特に、満月の光にあたると、瓶の中に入っているものもが
僕に向かって、奇妙な物語を話してくれるんだ」

私は、いてもたってもいられずに
「ニコル! 私にニコルの瓶のコレクションを是非見せて!!!」
と、頼むと
「じゃあ、今度の満月の夜に来てみたら?君にもきっと
瓶の中から地球のゴミの声が聞こえるはずだよ」

と、言ってくれたではありませんか!!!
あと750年は地球で暮らす予定のニコルは
750年間、地球人が捨てたり落としてゴミになったものを収集するそう。

「でも、その貯まったゴミはどうするの???
人間は、燃やしたり、土の中に埋めたりするのだけれど…」
ニコルは、私がそんなことを訊くと、
「ックックック…」と、笑ってギネスをもう一杯頼んだ

地球に来て、心に響く(普通の燃やしてはいけないゴミ)を集めて
それらに満月の晩になるとおとぎ話を語らせ
物語を紡ぐおじさん天使のニコル
 
私はその晩、ニコルとの出会いと、世にも奇妙な収集記と
そして、次の満月の晩のことを考えると
ドキドキドキドキと胸が高鳴り
「ああ、もう決して眠ることができない!」とベッドを飛び出だした。

そして、家中にあるゴミ箱を覗いてみた
これらのゴミも、もしかしたら満月の夜
素敵なおとぎ話を語ってくれるのかしら?
ゴミから生まれる夢物語…
あ~、約束の満月の夜が、待ちきれない

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