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ダイルクロコダイル氏と謎のピータージェイムスE 最終話 【正体が判る…】

そこに一歩入った途端に、ダイルクロコダイル氏は
ロンドンにいる事を,忘れてしまい、
懐かしい、子供時代に戻ってしまいました。
水の流れる音と、小鳥のさえずり、そしてガラスの天窓まで届く
椰子の木には、ココナッツが沢山ぶら下がっています。
バナナの木にも、マンゴの樹にも、沢山実がなっています。

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壁の一面には、埋め込まれた巨大な水槽がり、そこには沢山の熱帯魚が泳い
でいます。
ダイルクロコダイル氏が近づくと、魚達が集まって来て

「こんにちは!こんにちは!」
と口をパクパクしながら
小さな声を張り上げているのが聞こえました。
水槽の壁と向かい合って反対側には、シダの生えた岩で出来た壁がありまし
た。
真ん中には小さな滝もあります。
滝壺で泳ぐ魚も水から一匹づつ顔をだして、「こんにちは!ダイルさん!」
と、次々に挨拶をしてくれます。
すっかり楽しくなってしまったダイルクロコダイル氏は

子供の時にナイル川の滝壺で遊んでいたことを想い出し 魚と一緒に水の中に飛び込みたくなってしまいました!

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すると、一羽の九官鳥が、椰子の木のてっぺんから飛び降りてきて、
ダイルクロコダイル氏の頭の上にとまり
「お茶の時間、お茶の時間」

と大きな声で騒ぎ立てました。
ビックリしたダイルクロコダイル氏に向かって、 すでにテーブルに座っていたピータージェームス E が
「ダイルさん、こちらへどうぞ」と声を掛けてくれました

白いクロスが掛かっているテーブルには、良く磨かれた
銀食器と美しい陶器がきちんと並べてあります。
テーブルの中央には3段重ねのお皿。
その一番上のお皿には、
数種類のフルーツタルトとチョコレートケーキ
2段目のお皿には美味しそうに焼けているスコーン
3段目には、キュウリのサンドイッチとやはりそこには卵サンドがありまし
た!

ピータージェームス E が自らお茶を入れてくれました。
とても良い香のダージリンティーです。 

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2人は、お茶を頂きながら、壷の話にはながさきました。
壷の話から、始まり、最後にダイルクロコダイル氏は、
自分の生い立ちや、養父母の話までして、とても楽しい時を過ごしました。
しかし少し気になることもありました。
それは、なぜか、家族の話になるとお喋りなピータージェームス E の口数が少なくなったことです。
そして、ダイルクロコダイル氏がつい思い出して
ドアの外にいたあの大男とのことを話した時、なぜか、話をそらしたのでし
た。

「さてと、そろそろお暇頂しましょう」
ダイルクロコダイル氏は、もう5時になっていることに
気がつき、立ち上がりました。
「本当に、こんなに楽しい時間を過ごした事は、久しぶりだった。
また是非会いましょう。今度は私のところへいらっしゃい。
こんな立派な家ではありませんが、それでも、お見せ出来るものは
色々とありますよ」と、言うと
「ダイルさん、それは嬉しいのですが、私はもうすぐ国に帰らなければ
ならないのです」と、少し悲しそうに言いました。
「あぁ...、それは残念です、今度はいつ戻って来ますか?」という
質問には、少し首を振りながら
「さあ、いつになるでしょうか...」と言ったきり、だまってしまいました。
ダイルクロコダイル氏が、もう一度素晴らしいお茶の時間にお礼を言って
帰ろうとした時、
「ダイルさん、これを友情の印として受け取って下さい。
でも、絶対に...、そうですね...今月最後の月曜日までは、開けないで下さい」と言って 小さな箱を差し出しました。
「ああ、それは嬉しい!本当に、どうもありがとう、ピータージェームス。
その日までは、絶対に開けないよ。君からもらったものだ、宝物にするよ」

ダイルクロコダイル氏は、ピータージェームス E の家を後にすると
チャーチストリートを少し入った所の、お気に入りの美味しいお惣菜屋さん
で 夕食の買い物をしました。そして、ホランドパークを通って家へ戻りました。

 
ピータージェームス E と別れた後は、いつも何かもやもやするものがありました。 今回は特に、そうです。 家族の話はしない、帰国の理由もなにも話してくれない 。家の前に停まっていた車と その中から出て来た大男のことも、気なる... 

そして最後に、この意味ありげなプレゼント!
何が入っているか、判らないけれど
今月の最後の月曜日までは、開けてはいけない、と、言う。
ピータージェームスには、なにか普通ではない、 変わっているところがある...、 


それにしても、素晴らしいコレクションだった、それとあのガーデンルーム! あんな暮らしをしている彼は、いったい、何者なのだろう... 


ダイルクロコダイル氏は、その夜ピータージェームス E
について、色々なことを想いながらベッドに入り
そういえば、私は、ピータージェームス E のことを、
何もしらないのかもしれない... 


と、思いながらダイルクロコダイル氏は、気持ちの良い深い
眠りの世界へはいっていきました

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ピータジェイムス E と最後に会ってから数週間がたちました。
約束の月曜日まであと2日、という土曜日。
ダイルクロコダイル氏は、日の当たる明るいキッチンで朝食
(週末スペシャルで、フルイングリッシュブレックファーストです)
をとりながら新聞を読んでいました。 


ページをめくり、ビックリしました。
アッ!と、声をあげてしまいました。
そこに写っているのは、あの若いおしゃれな象でした。
記事によると、ピータジェイムス E は、お忍びで
この国を訪れていた、某国の若きプリンスだったのです。
国王である、お父上が急死され、急遽国に戻らなければならなくなったので
す。 


ピータージェームス E は、国に戻り、国王になるのです。
ピータージェイムスと初めて公園で出会ったとき、
無邪気に、私の卵サンドをヒョイット食べてしまった事
ミュージアムショップで、こともなげに
ポストカードを、全種類3枚づつ購入してしまった事
どこに行くのも,とても丁寧なドライバーとその大きな黒い車で…
そういえば、家の前に停まっていた黒い車の怪しい大男は、
SP だったのでしょう

「これは国宝級だね」とダイルクロコダイル氏が言った時に、
苦笑いしていたピータージェームス E...

あの大きな壷は、まさしく国宝だったのでしょう。
そして、あの文様は、一家の歴史、
その他の素晴らしいコレクションと、その屋敷全て...
ダイルクロコダイル氏は、全てを納得したのでした。

それから2日たった、月曜日の夕食後、ダイルクロコダイル氏は、
小さなプレゼントを開けてみました。
今にも壊れてしまいそうな、古い箱に、そっとしまわれていたものは
ふわふわのわたに包まれた
それはそれは美しい金色の小さなラクダの壷でした。

国王になるピータージェームス E には、もう二度と会えないかもしれません
でも、ダイルクロコダイル氏は、決して彼等の友情を
忘れる事はないでしょう。
そして、その思いは、今はもう遠く離れてしまった
ピータージェームス E にとっても、きっと同じなのでしょう…


プレゼントを見ながら、ダイルクロコダイル氏はそんなことを思うのでした。

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