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『雪女後日譚』【朗読フリー台本】

(1300文字) 『雪女』伝説の後日譚を書いてみました。Stand.fmの「朗読パーティ」冬の部用に書き下ろしたものです。気に入った方はどうぞ朗読にお使いください。

雪女後日譚 作:奥村薫&ChatGPT

あの夜、巳之吉(みのきち)は話すべからざる秘密をつい口にしてしまった。雪女お雪は、巳之吉の命を奪うことはしなかったものの、白い霞(かすみ)となって去っていったのである。

お雪が去ったことは、再び村の噂となった。常にかわらぬ若さと美しさを保っていたお雪は、以前から謎めいた女であった。突然現れた女がある日ふといなくなったのだ。だが巳之吉は、皆の憶測に一切弁解もせず、その真相を誰にも語らなかった。

巳之吉とお雪との間に生まれた子らの中でも、長女の小雪は大変に母親に似ていた。冬の訪れとともに、小雪は雪が積もる庭へと駆け出し、白い世界で戯れるのを好んだ。巳之吉は、時折、お雪の血が強く小雪に受け継がれていると思わざるを得なかった。

純真なばかりではなく、その年齢に不釣り合いな美しさ、十歳になる頃には既に語り草となっていた。小雪の立ち居振る舞いに、村人たちはただ美しさだけではなく、なにか尋常ではない、不吉なものを見ていたのである。

ある冬の夕刻、一人の少年が家へと戻らなかった。家族は不安に駆られ、探しに出た。長い時間を経て、ついに少年の姿を見つけたとき、少年は何者かに憑かれたようにふらふらと歩いていた。両親は、急いで冷たく冷え切った彼を寝床へと運び、布団をかけて温めた。少年は、まるでうなされるように、「雪の中で舞う可憐な少女の姿を見た」と語った。そしてそのまま気を失って眠りに落ちた。

家族は、すぐさま、ある娘を思い浮かべた。美しく、冬の寒ささえも楽しむかのように雪と戯れる娘、小雪。

彼らは、巳之吉の家へと走った。しんとした夜の静けさを破って、扉(とびら)を激しく叩いた。
「小雪は今日どこにいた!」「小雪を出せ!」「恐ろしい雪女だ」
騒ぎに驚いた巳之吉は、戸惑う小雪をかばって、「小雪は雪が好きなだけじゃ、けっして村人をたぶらかすようなことはしておらん」と誓った。しかし、村人たちの疑念は晴れず、彼らの目は巳之吉一家への怖れに満ちていた。

小雪は、あまりにも村人たちが自分を怖がるのを見て、自分は雪女という恐ろしいものなのでないかと疑いだしていた。母、お雪のことを思いおこすと、つじつまが合うことも多い。小雪は深い悲しみに沈んだ。そして、ある雪深い夜、皆が寝静まったのちに、ひとり、ひっそりと家を後にした。

巳之吉は娘の失踪に気づいて、慌てて後を追った。雪に覆われた大地を、小さな足跡を頼りに進むと、その足跡は、激しく流れる川の岸で途絶えていた。かつて渡し守の小舟があったあたりである。小雪も、また、白い霞(かすみ)となって、川向こうの雪山にいってしまったのだろうか…。

数年後、厳しい冬の嵐の夜、遭難しかけた村人が、美しい少女の幻に遭遇し、救われるという出来事が起こった。小さな雪女は、雪に迷った者たちに優しく声をかけ、帰り道を教えてくれたのだという。そしてまた翌年の吹雪の日にも、小さな雪女はあらわれた。

いつしか、この村の雪女の物語りは、このように語られることとなった。
「吹雪の中で、小さな雪女に出会えたら、その子の言葉に耳を傾けよ。優しくて美しい雪女が導いてくれる。そして、生きて里に戻れるのだ」、と…。

(おわり)

音声版

うらないナベちゃんのラジオ

https://stand.fm/episodes/65d69f51d32e493af79cf0ef

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