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『神無月の猫』【朗読フリー台本】

(800字)猫好きの書く、少し古風な、何も起こらない物語りです。気に入った方はどうぞ朗読にお使いください。

『神無月の猫』

テキスト版

東京の秋も深まってきたある日、神田の裏路地にある小さな古本屋に、村上と名乗る男が足を踏み入れた。

「古い猫の本を探しております」
彼の声は柔らかく響いた。
「猫の本ですか?うちには、このくらいしかありませんよ」
店主は、いったん奥に消えてから、一冊の薄い本を持って、戻ってきた。

「これは、明治時代のものでね。猫と神さまにまつわる物語が載っておりますよ」
村上は、慎重にその本を手に取り、表紙を撫でる。
「ほう、『神無月の猫』ですか」
店主は微笑む。「神無月、神々が出雲に集い、わたしたちの住む所を留守にする月ですね。この本によれば、その間、猫たちが神さまの留守を守るのだとか」

村上はゆっくりとページをめくる。

―― このお話は、何代かまえのばあさまが語っていたものでございます。神無月の夜、ある若い娘が、家の前の井戸で、一匹の黒猫と出会うのです。そして、その猫は闇の中に光る眼で、娘を見つめて、『神々の留守のあいだに、あなたの家に危険が迫る』と告げたのです。

「ああ、奇妙な伝説ですね、でもなんとなく、猫ならば、とも思えてしまうか。どの地方の言い伝えなのでしょうね」
しばらく読み進めたのちに、村上はこの本を買うことにした。
 
店主は、釣りを渡したのちに、彼の耳元でこっそり告げた
「この物語の作者、それはわたしの先祖でございます。そして、この伝説は、実際に我が家でも起こりましてね、その猫のおかげで、大火から我が家だけが逃れることができました。」

村上の目が驚きで広がった。「では、その猫は本当に……」
店主は優しく微笑んだ。「ええ、このお店には、ずっとおりますよ。そして、神無月の夜にだけ、その姿を見せてくれるのです…」
 
以後、村上は時折、その古本屋を訪れ、店主と不思議な話に花を咲かせるようになった。そして神無月の夜には、彼の耳に、かすかな猫の鳴き声が聞こえてきた。しかし、村上が実際に猫の姿を見たかどうかは、定かではない。

音声版

薫のつらつら語り: https://stand.fm/episodes/651fb7181c13c3e2d5eabb83

朗読あんさんによる、関西弁バージョン『神無月の猫』https://stand.fm/episodes/652757b57a5ddc28519775d4

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