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ホイコーローの木

何かの種を地面に植えます。芽が出て、ひょろっとした茎が少しずつ太い幹に育ちます。やがて枝を張り葉を茂らせ、花を咲かせて実を結びます。
料理が上達するイメージは、木が育っていくのに似ています。素材の下ごしらえや火の扱いが〈幹〉、調味料や食材を組み合わせていくのが〈枝〉、さらにそれらを発展・合体・変形させるのが〈葉〉や〈花〉や〈実〉。この順番でゆっくりやれば、無理なく身につくのです。

ところが、みんながよく知っていて食べたいな、作ってみたいなと思う料理、たとえばハンバーグや餃子、オムライスやコロッケはその枝や葉や花にあたる料理なんです。それぞれの食材の特性を知って扱えるようになって、初めてうまく作れます。種からいきなり枝が伸びたり花が咲いたりする木はありませんが、料理だといきなり難しいものに挑戦できるので、失敗する人が続出するというわけです。

回鍋肉(ホイコーロー)という、豚肉とキャベツの中華風の味噌炒めがありますよね。本格的に作ろうとするとわりかし複雑なんですが、この料理を木の幹のところまでたどっていくと、要するにキャベツと豚肉の炒め物になります。

冷たい野菜を大量に入れるとフライパンの温度が下がるので、野菜と肉を炒めるときは、別々に炒めるといいんです。まずキャベツをさっと炒めて取り出し、同じフライパンで今度は肉を焼いて下味をつけ、そこにキャベツを戻して合わせます。キャベツを入れる前にフライパンは十分温めたでしょうか。かき混ぜすぎても温度が下がります。こうしたことが料理の〈幹〉にあたります。

塩をぱっぱと振るのではなく、みそと砂糖とみりんを合わせた甘辛味にしてみると、ちょっとだけホイコーローっぽくなります。さらに、ピーマン、長ネギ、しょうがなどを入れるとこれはもう、誰が何と言おうとホイコーローと呼んでよいだろうという料理になります。このあたりは〈枝〉ですね。

プロの場合はさらに、薄切り肉ではなくかたまりの豚肉を茹でて切り出したものを使い、味噌は中華の甜面醤に変えたりして、本格的に作ります。ホイコーローの木に咲く〈花〉です。ゆで豚という別の木が接ぎ木されています。

難易度が高い料理というのはあくまで初心者がいきなりやると難しいよ、ということだけで、少しずつやれば子どもが大人になるのと同じぐらい自然にできます。

最近では、たとえば全てを耐熱容器に入れてレンジにかけるみたいな新手がありますよね。今夜の食卓をなんとかするという結果を求めるならこれでいいのですが、レンジでホイコーロー的なものが作れたとしても、ここから本格的なホイコーローは作れるようにはなりません。やっぱり根から幹が伸びていないと料理の木は育たないからです。目的にもよるので、良し悪しです。

ホイコーローの木と同じように、餃子の木、カレーやシチューの木、豚汁の木などさまざまな木があります。同じ幹からいくつかの料理に発展していくものもあります。それぞれの材料の特性をつかんで十分に扱えるようになると、少し複雑になっていっても柔軟に考えられますし、どこを省略していいかもわかりやすいと思います。

【豚キャベツ】
材料:キャベツ250g(約1/4個)豚肉薄切り100g 塩小さじ1/2 胡椒少々 サラダオイル大さじ1と1/2

1キャベツは芯をよけながら手でちぎり、芯の部分は薄切りにする。豚肉は4センチに切る。
2フライパンにサラダオイル大さじ1をひいて中火にかけ、キャベツを入れて3分ほど炒める。一度キャベツを皿に取り出し、その後サラダオイル大さじ1/2ほど追加して豚肉を炒める。ここに塩を加えて下味をつける。
3キャベツを戻して肉と一緒に炒め合わせる。塩と胡椒で味を調える。

読んでくださってありがとうございました。日本をスープの国にする野望を持っています。サポートがたまったらあたらしい鍋を買ってレポートしますね。