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このたび、お料理カンパニーの社長に就任しました。

はい、あなた、今日から社長です。社員ではないですよ。社長をお願いします。スムーズに事業を回すために私がお仕事のご説明をいたします。

事業内容は「家庭料理製造業」となります。ご家族の食事を作っていただく仕事です。ちなみに社員は今のところいないので、社長みずから作業もすることになりますが、状況によって家族に仕事依頼をすること、家事代行を雇用いただくことも可能です。

いけません、いきなり料理をはじめてはいけません。人材や時間のリソースは有限です。きちんと事業計画を立てましょう。
まず、予算を決めて献立を考える企画経営室が必要です。栄養計算もここでしておきましょうか。それから買い物をしてくる仕入れ部門。事業のメインとなるキッチン製造部門。器を選んで盛りつけ、食卓まで運ぶ物流部門。食卓にみんながついたらサービスも必要です。後片付けは食洗器にアウトソーシングしてもいいですけど、調味料をしまったり残った食材を片づけたりなど、締めの役目はきっちりやってくださいね。そうそう、在庫管理もあります。ここは週単位、月単位の中期的視野が必要です。

えっ、大変ですか?でも、お客さまは人数も少なくて常連なので集客は不要ですし、シェフほどの腕は望まれていませんから楽勝ですよ。アレルギーや病人もあなたの家庭にはいませんしね。好き嫌いの多いお客さんだけ、うまく対応してくれたらいいです。

社長の報酬…?それはもちろん、家族の笑顔と健康です!なんて素敵な仕事でしょう。

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料理を引き受けるということは、つまりこんな会社の社長をやっているのに近いんですよね。料理情報はテレビもネットの動画もレシピ本も、「作る」というところに集中しているため、いかにさまざまな要素が絡み合って食卓が作られているかがわかりにくいのです。

多くの人は「献立を考えるのが」「買い物が」「在庫整理が」など、目に見えるところを取り上げて(つまり従業員視点で)たいへんと言うのですが、実は「作業」よりも全体の「マネジメント」がたいへんなんです。すべては自分の采配ひとつ。社長の重責をたったひとりで負うのが辛いと感じているんだと思います。

家庭料理の仕事はプレイングマネージャーというか、マネージングプレイヤーみたいなところがあります。二世帯、三世帯同居が多かった時代はここを嫁と姑が協働的に行っていました。ところが核家族になった途端に一人の肩にのしかかってしまいます。最近は家事参加する男性も増えたものの、企業に女性の経営者が少ないのと同じぐらい、家庭には男性の経営者が少ないです。コインの表裏ですよね。

買い物は宅配、調理はレトルトや調理済みのおそうざい、洗い物は食洗器など、アウトソーシングできる部分は年々充実してきました。でも、マネジメントの問題が解決しない限り、おそらくキッチンの悩みは減りません。

最近流行っているミールキットは、そのマネジメントにあたる部分を多少補助していることによって伸びているように感じます。そうしたサービスはたぶん、もっと増えてきます。
サービスを受ける側からすると、食べるということのマネジメントを外部に委託して家庭を子会社化することで楽になるか、それとも経営を見直すことで小さいながらも自分たちで会社を継続していくか、そんな選択を迫られているのかもしれません。

今日はレシピはお休みにします。社長にだって休みは必要。たまには外に食べに行きましょう。

読んでくださってありがとうございました。日本をスープの国にする野望を持っています。サポートがたまったらあたらしい鍋を買ってレポートしますね。