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添削屋「ミサキさん」の考察|43|『文章の書き方』を読んでみた⑬
――味覚について
角田房子『味に想う』より。
まず光沢の美しい新鮮な茄子を選ぶ。料理の腕はないのだから、もっぱら材料のよさに頼る。茄子の皮に細かく縦に切り目を入れ、茶筅(ちゃせん)茄子にして、昆布と鰹節のだしで日にかけ、醤油とごく少量のみりんで薄く味をつけて、鍋のまま冷蔵庫に入れる。翌日、すっかり冷えて、とろりといい色になった茄子に、おろし生姜を添えて食べる。
食べたくなる文章ですね 笑。でも、味覚そのものを言い表す描写はないですね。
次に紹介されている甘糟幸子さんの文章は、その点もっと踏みこんでいると思います。
のびすぎて大きくなっているタラ芽は二つか三つに割って、まだこぶしを開きかけたような若いものはそのままにして、衣をつけ、ゆっくりと揚げます。揚げたての熱いのにお塩を少しつけて食べると、ほっくりした豊かな歯ごたえと濃い味がして、木の芽というより、まだ名前を知らない動物の肉でも食べているような気がします。
さて、私のほうから例文を。
お料理や味覚の描写の名手といえば、この人ではないでしょうか。
柚木麻子『BUTTER』より。
……雪景色のようななめらかさだが、目には見えないものの、上質な動物性脂肪の粒子が内側からみっちりと深く輝いているのが分かる。
……直前まで冷やしてあったせいか、バタークリームにはこりっとした硬さが残っていた。舌の熱で溶けていく甘いバターはじゅうっと広がり、身体中の旨みを感じる細胞を浮き上がらせるようだ。ふわふわした甘酸っぱいショートケーキでは、きっともう満足できないだろう、濃く重たい乳の味としっかりした焼き菓子部分。
……鼻に抜けるような香ばしさとぱりぱりと壊れていく表面の歯触り、そして口の中の肉という肉をぺたんととらえて離さない餅のなめらかさ。熱いバターが砂糖としょう油を溶け合わせ、ほの甘く柔らかく形のない塊に絡みついて、輪郭を得ようと泳ぎ出す。バターの脂っこさと砂糖のしゃりしゃりとした食感、しょう油の強い味が一つになる。餅をかみきった歯の付け根が快感で大きく震えた。
味覚・食べ物の描写のこのある種の執拗さ、すばらしいですね。この作品のテーマでもある、食と官能とをこの描写においても濃厚に感じさせます。
この章の最後に。
「今まで、わざと、聴覚とか味覚とかに分けて説明を続けましたが、実際に文章を書くときは、五感は重なります。」
然り、かくありたいですね。
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