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老いても食べたいファストフードはありますか?(藤村公洋)

冷やし中華はこの世界から消えたのか?

かつて、中学に入った頃かな、お酒を飲んでいる父に「ねえ、哲学って何?」と訊いたことがある。詳しく覚えてないけど、読んだ小説かマンガに出てきたんだろうと思う。サラミを齧りながら父は飲んでいたグラスを指し、

「ここにグラスがあるだろ」
「うん」
「じゃあこうしたら」と言って手でグラスを隠す。
「これだと見えないよな」
「うん、見えない」
「ていうことはここにグラスはあるのか、それとも無いのか、さあどっちだ」
「いや、あるでしょ」
「ある?見えないのに?」
「(段々めんどくさくなり)わかんない」
「まあつまり、そういうことが哲学だ」と再びウィスキーを飲み始める。

ということがありました。それが本当に哲学の定義なのかどうかはともかく、これは典型的な父の目くらまし話法であり、人生の多くの曲面をこのような話法で乗り切ってきた父にとって大事なのはそのスピード感と虚実ギリギリを突くペテンのセンスでありました。芸は身を助く。彼にとって人生は大喜利のようなものだったのかもしれません。

そんなわけで、もし見えていないものが「無い」のだとしたら、小原くんと僕にとっては2020年の夏を境に冷やし中華は消えてしまったものといえる。

今回試聴した『渋谷のラジオの学校』アーカイブ、2020年9月2日放送回で「この夏食べていないもの」として小原くんが立ち食いそばと共にあげていた冷やし中華。

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