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老いてのひとり旅、鞄の中に入れておきたいものは何ですか?(藤村公洋)

ラジオから流れてくる声

「フジムラさん、声がいいですね」

冒頭で小原くんが言ってくれたように、マイクを通した自分の声は電話でのリモート収録とは大違いにクリアで親密な温もりを持った音としてラジオから流れてきた。

2024年最初の放送は久しぶりのスタジオ収録だったのですよ。2020年の春からは基本リモートですし、その間に生放送は1回2回あったかしら。でも僕としては生で使うメインスタジオより収録スタジオのほうが音的には好きなんでね、今回の放送は楽しみにしておりました。

遠い昔、トランジスタラジオを手に入れて(両親に連れられて隣で少し出しちゃったパチンコの景品)おっかなびっくりスイッチを入れた小5のあの夜を思い出したりして。

手に入れたトランジスタラジオのダイヤルを回して初めてチューニングがあったのがTBSでね、『夜はともだち』という番組でした。ディスクジョッキー(パーソナリティではにゃい)はゆうじと小朝。イヤホン越しに聴こえてくる声は温かく、自分だけに語りかけてくるような親密さで何だかくすぐったい気持ちになったのを憶えています。

両親が揉めて家の中が荒れまくってた時期でしてね、怒鳴り声や物が壊れる音を伴う嫌な事ってたいてい夜に起こるじゃないですか。夕飯の途中か夕飯の後ね。昼間は学校というシェルターがあったんで安心でしょ。帰らなきゃいけない放課後は憂鬱だったなー。

夕食を済ませ、テレビを切り上げ、子どもである僕が2階に上がって寝たあとで母と父の言い争いは始まる。軽い諍いで済む日や父が僕を連れて家を追い出されるほどのヘビーな夜といった軽重の差はありましたがね、だいたい毎日ですよ。うつらうつらと浅い眠りで悪夢(多くはどこかに落ちる夢)を見てね、暗闇で目覚めると階下からの怒号。叱責。不快な物音。寝ても覚めても出口なしってな日々。物心ついてから10年くらいは続いたかしら。「どうかケンカをやめさせてください」と何度も何度も何度も何度も神様に祈ったけど叶えてはくれませんでした。だから「夜」は大っ嫌いだったのです。それがもとでバーテンダーとか夜の仕事に就くことになったのかもしれませんな。寝ずに仕事をしてれば「夜」に怯えることもないしね。

まあそんな時期に『夜はともだち』というネーミングのラジオ番組に出会ったわけです。夜は、ともだち、ですよ。ヤバいでしょ。今から考えると不思議な巡り合わせですよね。少なくともこのゆうじという人と小朝という人は僕の味方になってくれるかもしれない。彼らが喋っているあいだは「夜」とともだちになれるかもしれない。片耳にイヤホンにさし、もう片方の耳を枕にキツく押し付けて眠れない夜を過ごした小5の夜(15の夜にかけてみたが苦しいか)。

今はどうだろう。

若い人はラジオを聴くのだろうか。

コンセントも要らなければWi-Fiも課金も不要なラジオ。安価で世界と繋がれるラジオ。さまざまなコンテンツが乱立する現在であっても、ラジオから流れてくる声の温もりは「夜」に怯えるどこかの誰かに、孤軍奮闘するあなたに、勇気と想像力が届くメディアであると、2024年となっても僕は信じております。

そんなことを思いながら1月2日、自分たちのオンエアを聴いたのでした。

といったわけで、新年最初となる放送後記のはじまり〜。

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