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老いてもまだ、老いてこそ、怖いものはありますか?(小原信治)

「おばけなんてないさ」

 おばけなんて ないさ
 おばけなんて うそさ
 ねぼけたひとが
 みまちがえたのさ

 幼少の頃、NHK「みんなのうた」でよく流れていた童謡のせいだろうか。お化け屋敷で物陰から現れたオバケに驚きつつも「お、お仕事ご苦労様です」と言ってしまう子どもだった。あるいはこの歌のように存在を否定する言葉を口にすることで怖さを拒絶していたのかもしれないけれど。

 以前、藤村くんに「小原くんはロマンチスト」と評されたが、ぼくは超がつくほどのリアリスト。現実主義者だ。加えて、猜疑心が強い。水道水を口にする前に異臭がしないか確かめるほどだ。時に人を不快にさせるほど疑り深い。

 たとえば、高校入学前の春休み。小・中通じての同級生に家に誘われたときの話だ。何の用だろうと行ってみると団地の六畳間に入れきれないくらいの中学生が集まっていた。

「実はみんなが小原くんの合格体験記を聞きたいって言うんだよ」
 嘘だ嘘だ嘘だ。そんなこと絶対あるわけない。自分を見つめる中学生たちの目が怖くなって「用事あるから」と足早に帰った。母に報告して真相が分かった。

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