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老いたあなたが光を当てたいのは?(小原信治)

マリオン・ドハティとの出会い

 彼女とぼくの出会いは1982年に製作された映画「ガープの世界」だった。原作であるジョン・アーヴイングの小説に夢中になったのは中学の終わりか、高校の始め頃だっただろうか。出生からして異常な(*「普通なんてない」と言うとこの物語を全否定してしまうことになるのであえてこう書いています)主人公ガープの数奇な生涯。奇妙な登場人物たちが織りなす不条理な物語。あらすじを語るのは難しい。暴力。強姦。セックス。浮気。交通事故。性転換。そして暗殺と次々に事件が起きる。「人生は二流のメロドラマだ」という著者の哲学をそのまま落とし込んだ物語には「人生は相対的には悲劇だが、ひとつ一つの場面は喜劇でできている」という思想家ショーペンハウアーの言葉が腹落ちするような読後感があった。今、読み返すと「現実離れしているのに真実味があるのは文学だからじゃないか」「現実離れした人物造形と物語は映像化するとコントになってしまうのではないか」とも思う。が、10代のぼくはそんな危うさに思いを巡らせることもなかった。夢中になった小説を映像で観てみたい。その純粋な欲求だけでレンタルビデオに手を伸ばした。映像化が難しい小説だったにも関わらず裏切られた感じがまったくしなかったのは、彼女———マリオン・ドハティの配役術による部分が大きかったのだということを当時のぼくは知らなかったし、おそらくこの先も知ることはなかっただろう。『キャスティング・ディレクター〜ハリウッドの顔を変えた女性〜』というドキュメンタリー映画を観ていなければ。

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