老いて、つい口ずさむのはどんな歌ですか?(小原信治)
M-1「実験4号」/Theピーズ
「確かに未来が昔にはあった」
そんな風に過去を振り返るようになったのは、Theピーズの6thアルバム「リハビリ中断」がリリースされた1997年の5月だ。ぼくは28歳になろうとしていた。その前年。27歳の夏に人生を途中下車したことがあった。ある朝、魔が差したようにすべてを放擲して海へ行った。人生にはそういう瞬間が何度か訪れることを10代の頃に何かの本で読んでいた。
カーステレオで「実験4号」をリピートしながら第三京浜を南に向かった。がむしゃらに走り続けてきた道を初めて振り返っていた。震えた。振り返ったところに戻る道はなかった。改めて前を見てもそこに道はない。たぶんここまでは誰かが作ってくれた道を走って来ただけだったのだと気づいた。ここからは自ら道を切り開きながら少しずつでも前に進んでいかなければならないのを痛感した。今思えば、この曲を聴き始めてからがぼくの老いの始まりだったんだと思う。
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