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モノカキがちょこっとアドバイスします(4)

 先月末に新刊が出たと思ったら、もう10月ですよ。僕は、秋深まる外の世界を眺めつつ、イテテイテテと足を引きずって歩いております。いやさ、脚の小指にピンポイントでガラス瓶を落っことしてしまいまして。
 幸い、骨は大丈夫そうですが、ぷっくり腫れて、二日ほど歩くのに難儀しておりました。みなさま、落下物にはお気を付けくださいませ。

 閑話休題それはさておき

 今回もまた、アドバイスご希望とのことで、掌編作品を投稿していただきましたー その作品がこちら!

 拙著、『名も無き世界のエンドロール』もお読みくださったとのことで、ありがとうございます。ただその、怖いのでぇ、、、あんまり分析とかしないでくださいね、、、、(震え声)

 質問文では、不足があるとはわかりつつも、とおっしゃっているので、なんとなく自分の書いたものに物足りなさを感じていらっしゃるのでしょうか。今回、ちょこっとではございますがアドバイスをさせていただこうかなと思いますので、なにか見つけるとっかかりになればよいかなと思います。

 毎度のことではございますが、甘口・中辛・辛口にわけてお話させていただきますね。

 では、いってみましょー。

■アドバイス~甘口~

 さてさて、質問文の冒頭に、文学賞の一次選考を突破した、とのお話がありましたけれども、さもありなん、文章はしっかりと書けていらっしゃると思います!

 まあ、多少の誤用みたいなもの(「風体」の使い方など)もありますが、全体的にはちゃんと小説として読むことのできる文章だと思いますね。非常にこう、描写がこまやかで、主人公の視界から入って来る情報と記憶とのリンクで紡がれていくお話は、情景がすっと浮かぶ感じがしました。

 個人的にとてもよいなあと思ったのが、書き出しでしたね。「私は散歩の時、前を見ない。」せっかくの散歩なのに、なぜ下を向いて歩いているのだろうか? 風景も見ずに? という想像が膨らむ一文だったと思います。とてもいい一文ですし、次の「道路の上の~」は、改行して間を取ってもいいかもしれないですね。改行は好みの問題ではありますが、書き出しの後に続く文章をもう少し工夫すれば、さらに引き込まれる感じになったんじゃないかと思います。

■アドバイス~中辛~

 さて、今回の作品は、どちらかというと純文学テイストなのかな、と思うんですけれども、あいにく、僕はゴリゴリのエンタメ系作家なので、エンタメ目線でお話することになります。ちょっとね、純文学として読むのは畑違いなもんで、なかなか難しくてですね。

 なので、質問者さんが純文系を志向するのであれば、以下のアドバイスは「エンタメだとこういう考え方をするのか」という感じで読んでいただけるといいのかなと思います。

(1)モチーフを絞ろう
 今回、作品の中ではとても重要なモチーフがありますね。「」です。冒頭、道路の上に横たわる雀の亡骸は、鳥好きの僕には悲しい限りなのですけれども、今回のお話では主人公を動かすキーアイテムとなっています。

 なので、この「雀」というモチーフをできる限り物語の中心に据えた方がいいのですが、途中で、「ひよこ」のエピソードが出てくるんですよね。おそらくですけど、終盤、「雀の重さは単三乾電池一本分」というところで、主人公が実際に触れた雀の重さ触れなかったひよこの重さを対比させて、「命の重さ」を表現しているのかな?なんて思ったのですけれども(違うかな)、雀とひよこって「小さな鳥」という同属性のモチーフなので、掌編という短いお話の中においては、存在がバッティングしてしまう気がするのですよね。

 読み手は、冒頭から「雀」という存在と寄り添おうとしながら読み進めるので、いきなりひよこが出てくると、そっちに意識が持っていかれてしまうというか。なので、何か別のモチーフなりエピソードなりで、「ひよこ」の役割を置き換えた方がいいかなと思いました。

 同様に、モチーフとして登場するのが「花・木」。冒頭では、雀の亡骸を「白木蓮の花」と見間違えるシーンが出てきます。その後、雀の亡骸を埋める場所として、「沈丁花」と「梅」が出てきます。

 が、白木蓮と沈丁花って、「香りの強い花」という属性が、やっぱりバッティングしているように思うんですよね。同時に、沈丁花と梅も冬から春にかけて花が咲くイメージが同じですし、似たような花やら木やらが渋滞している気がします。

 もう一つ。主人公は雀を埋めた後、庭の水道で手の泥を流し、さらに家の中の洗面台でも手を洗います。質問者さんの中では重ねた意図があるのかもしれないですが、ほぼ同じ行動をとる場面が二場面続くので、ここも「手を洗う」という行動がバッティングしてしまっている印象ですね。

 物語の中で使うモチーフやシーンは、できる限り絞った方が一つ一つを読者に深く印象付けることができると思います。雀を埋めるのは白木蓮の木の根元でよかったんじゃないかなあ。命を散らしてしまったら二度と蘇ることのない雀と、散ってもなお、次の年には再び花を咲かせる白木蓮とは対比関係にありますし、冒頭でそのイメージを重ねたことで相似関係ともとれますから、この二つのモチーフに絞ってお話を構成した方がよかったかな、と思います。


(2)テンポの変化を丁寧に
 
さて、冒頭、静かで動きのないシーンから始まるお話ですが、中盤、雀の亡骸を抱えて主人公が家まで走っていくところで、大きくテンポ感が変わります。
 が、この主人公が駆けだす瞬間、つまり、物語のテンポが変わる始点となる場面の描写が作中にないのですよね。読者としては、主人公が走り出したんだ、とわかるのは、「駆け足に合わせて羽毛が揺れる」という一文を読んだときです。でも、これよりも前の時点で、質問者さんが見ている情景は変わっているはずですし、主人公自身も、「家まであと500メートル」の前になんぼか走ってるはずなんですよ。なので、そのテンポの変化の始点を読者にもちゃんと伝える必要があると思いますね。

 そして、ここでせっかくテンポの変化を入れているのですが、走っている最中にひよこのエピソードが挿入されることで、テンポがまた元に戻ってしまっています。その後、勢い余って門にぶつかるくらいのテンポにすぐ戻るので、読者としてはこの急激なテンションの変化についていきづらくて、主人公から離れた俯瞰のポジションに行ってしまう気がするんですよね。もっとこう、雀の亡骸を手に走る疾走感、主人公の心の衝動、荒くなる息遣い、といった臨場感を与えたほうが、心情的な共感を与えて、読者を物語に引き込めるのではないかな。

 なので、雀を拾い上げた瞬間から、家までの道のりを経て庭に穴を掘るところまでは、こまかい描写や回想への転換を控え、勢い、テンポ感を重視した方が物語にメリハリが出るのではないでしょうか。

(3)ラストの展開が不親切
 テンポの変化の部分とちょっと被る部分もあるのですが、今回の作品は、場面転換のしかたが不親切かな、という感じがしました。これは、質問者さんの書き方のクセだと思います。場面転換のタイミングで、心理描写や風景描写を先行させて、その後に行動の描写が来る、という傾向があるのですが、そうすると、読者は作者よりも場面転換の認知がワンテンポ遅れてしまいます。どういうこと? と、いったん読むのを止めて考えなければいけなくなるのですね。

 特にそれがはっきり出たのが、ラストの場面ですね。

 ラストシーンは、主人公が「雀の重さ」を自宅PCで検索する場面なんですが、前のシーンとラストとの間には、時間的な隔たりがかなりありますよね。

 洗面所で手を洗い終えた主人公は、自分の部屋に戻り、PCを起動して会社のPCとリモート接続をします。そしてWEBブラウザで「雀の重さ」を検索し、「単三電池一本分」という答えを得た後、その検索履歴を消去します。

 という、時間にして最低でも十分~数十分の行動が省略されて、いきなり「雀の体重は~」で場面をつないでいます。上記の行動は、その後に続く文章から読者自身が読み取って脳内補完しないとわかりません。

 でも、ここに至るまで、読み手には主人公の仕事や生活状況などまったく知らされないままになっていますので、まずは、え? 仕事中だったの? 主人公はIT系の人? と、初めて直面する情報につまずくことになると思いますね。僕も初読時は、ファッ? ってなりました。

 ストーリー上、主人公が「リモートワークしているプログラマ」という設定にあまり必然性を感じないので、このラストのシーンは物語から完全に浮いてしまっている気がしますね。夏の海辺や草木にあふれた庭、という冒頭からの世界観と、「コードエディタ」「リモート接続」といったワードのなじみもあまりよくなくて、読者的には「急に世界観が変わってしまった」という印象があります。この設定がどうしても必要なら、冒頭早めの段階で、「自分はプログラマである」「リモートワークの合間に散歩に出た」といった状況説明を入れて、世界観になじませておくとよいのかなと思います。

 読者に対して提供している情報を段階ごとに整理して、読み手がスムーズに場面転換に乗っかってこれるよう、説明になる文章もしっかり入れていけると、より読みやすくなるんじゃないでしょうか。

 余談ですが、僕は元SEなのですっと理解できたんですが、一般的には、「コードエディタ」と聞いても、なんのことなのかぴんとこない人の方が多いと思います。文章の読解に必要ないギミックとして使うのならよいのですが、本作では、この単語の意味がわからないとラストの場面の状況がまず理解できなくなります。
 こういうところで置いて行かれるのは読み手にとってストレスになるので、最低限の説明を入れるか、必要のない表現や設定は削るか、読者を突き放すのではなく、ある程度読者に寄り添った言葉を選ぶべきかなと思います。

■アドバイス~辛口~

 今回の作品については、「もっと研げる」というのが僕の印象です。逆の言い方をすれば、「削りが足りない」という感じですかね。
 
 細かな描写を重ねて文章を組み立てていく、というのが質問者さんの作風ではあると思うのですが、今回、掌編というくくりの中では、やはり風景描写にかけた分量が多すぎた、という感じがします。ちょっと空気感に頼りすぎかなと。

 掌編というのは、一本の物語をぎゅっと凝縮した「小説」なので、「長編作品の一場面の切り出し」とか「文章サンプル」ではいけないわけです。1600字なら1600字の中で、起承転結を入れ、物語をしっかり完結させる必要があります。今回の作品は、物語を一本読み切った、という感覚は薄かったかなと思いますね。

 エンタメ作家的な観点から言いますと、今作は「明確なオチがない小説」なので、多くの人は「結局、何が言いたかったのかよくわからなかった」という印象を持ってしまうかなと。行間に埋めた要素が多すぎで、かなりの読者IQがないと作品世界を楽しめないんじゃないかと思います。読者を打ち捨ててでも自分の世界観を押し通す、というのも書き手としての一つの選択なのですが、大多数の人が理解できない小説というのは、エンタメの世界では「ひとりよがり」という評価になってしまいます。純文系だとまた違った評価基準があると思いますが。

 質問者さんならば、半分くらいの文字数で、同じ印象、同じ読後感、同じ情報量の小説が書けると思います。本当に必要な描写を残しながら文章を半分に削って、その分、ストーリーやテーマをしっかり自分の中で作って書き込んだ方がよいのではないかなあ。読者は、雀の亡骸がどんな状態なのか、ということよりも、主人公がどうして下を向いて歩いていたのか、どうして雀を拾い上げて走ったのか、何を考えて重さを検索したのか、そういうところをもっと感じたい、知りたい、と思うはずです。

 いや、これは描写で読ませる小説なんだ、空気感が大事なんだ、みなまで書くのは野暮なんだ、と考えるのであれば、一つ一つの言葉、文章をもっともっと研磨する必要があると思います。似たような表現の重複や(例えば、雀の羽毛が揺れる描写が二か所、主人公の汗が垂れる描写も二か所ありますね)、不必要な登場人物(お母さん要りますかね?)など、スリムアップできるな、と思う箇所が結構あります。もう少し推敲に時間をかけた方がいいと思います。

 ストーリーやアイデア(オチ)抜き、文体や描写のみで読者の心をつかむほどの文章を書くには、圧倒的な語彙力と文章センスが必要になりますし、そのためには鬼のような読書量が必須になってくるので、かなりハードルが高いんじゃないですかねえ、、、

 なので、描写とストーリーのバランスを取って、質問者さん自身が書きたいことや伝えたい思いをもっと前面に出して、もうちょい読者フレンドリーな感じで物語を成立させるよう意識した方が、作品として面白いものになるのではないかな、と思いました。

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 以上、今回もほんのちょこっとアドバイスをさせていただきました。いろいろ書きましたけど、作品世界の雰囲気とか、舞台の設定、着眼点なんかは独特なものがあってよかったのではないかな、と思います。

 もう少し読者を意識しつつ、推敲を重ねて作品を磨いていけば、さらによい作品を書けるようになると思いますので、ぜひ頑張っていただきたいですね。

 さて、モノカキTIPSでは質問を随時募集しております。小説に関するご質問、その他答えられる範囲のご質問であればなんでも回答させていただきますので、どしどしお寄せくださいませ。

 なお、今回のような「小説読んでみてください!」系のご質問の場合は、以下ご注意くださいませ。

・長編は読めないので、2000字くらいまでの短文で。
・文章の校閲や校正はしません。
・具体的なストーリーの修正案やアイデアは出しません。
(今回出したかも)(要求しないで、ってことですね)
・あくまで、僕が自著宣伝目的もあって無料で受け付けているだけなので、
 他の作家さんにアドバイス依頼をかけるのだけは絶対にご遠慮下さい!

 毎度おなじみ、宣伝も少し。現在、新刊『明日、世界がこのままだったら』が発売中でございます。自分でやっといてなんですけど、細かく分析されるのはね、ちょっと怖いのですけれども、ぜひご一読いただければと思います。

 

小説家。2012年「名も無き世界のエンドロール」で第25回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。仙台出身。ちくちくと小説を書いております。■お仕事のご依頼などこちら→ loudspirits-offer@yahoo.co.jp