ご質問にお答えします(25)盗作を防ぐためには
さてもさてさて、大変にお久しぶりのモノカキTIPSでございます。最近はちょっと放置気味になっておりましたけれども、今回久しぶりにご質問をいただきまして。
それがこちら!
『できたてごはんを君に。』のうつのみや大賞の件、ありがとうございますー。本棚に飾っていただけているなんて嬉しいですね。装丁も、前作に引き続き杏耶さんにご担当いただきまして。めちゃくちゃおいしそうな仕上がりになりましたので、『本日のメニューは。』と並べて飾っていただけると、これからの季節、夏バテ解消、食欲亢進によいのではないかと思います。
それはさておき。
なんと、今回は質問者さんが盗作に合われたということですけれども、ネットか何かで公開している作品が盗作されてしまった、ということでしょうか。どんな作品でも、作者にとっては子供のようなものですから、盗まれて雑に扱われたらやっぱり悲しいですよね。なので、盗作されないようにするにはどうすればいいか、というご質問。
これ、非常に難しい問題ですが、僕も復習がてら、著作権とか「盗作」の考え方についてお答えしようかなと思います。
ではいってみましょー。
■僕の場合
さて、作品が盗作に合わないよう、何か気をつけていることはありますか? というご質問ですけれども、結論から言ってしまうと、「何も対策は取っておりません」というのが正直なところです。というか、「対策の取りようがないのでどうしようもない」が正確なところかもしれません。
そもそも盗作に合わないようにするには「公開しない」ということが一番なわけですが、さすがにそれは本末転倒なわけでして、本を刊行するとか、ネットで公開するということをした以上は、盗作されるリスクを負うことになります。これはもう「不特定多数の人に読んでもらう」ということと、「盗作されない」というのはほぼトレードオフの関係なので、どうしようもないわけです。日本の法律で、著作権を侵害する行為と認められれば対応できるわけですが、実際に盗作されるまでは手の打ちようがありません。
作家の場合、著作権というのは作家に帰属しますけれども、「出版権」というのが出版社側にありますので、その権利を侵害された場合は、出版社さんと協議の上、対応を考えることになります。場合によっては出版社さん側が訴訟に動くこともありますから、作家が自著の盗作について意識することはあまりないかもしれないですね。
僕はむしろ、しらずしらず自分が他の方の作品をパクっていないか、という方が心配で、わりといつも神経質に確認しています。作品のタイトル、キャラの名前とか団体名、社名・店名などは事前にググって被りがないか確認しますし、プロット段階で担当者さんと一緒に類似の作品がないか確認したり、編集部の人にも聞いて回ってもらったりとかします。それでも他の作品と偶然設定が被ってしまったこともあって、盗作だ、って言われたらどうしよう、とドキドキしたこともありますね。正直、パクられるより、パクってしまうほうが怖いんですよね。
唯一やっていることと言えば、「温めているアイデアは人に詳細を語らない」ということでしょうか。自分の作品が先に世に出ていて、盗作した作品が後から出ている、という状況なら対処のしようはあるのですが、自分のアイデアを盗まれて先に作品として発表されてしまうと泣き寝入りするしかなくなるので、自分の作品のコアになるアイデアについては、信頼できる人にしか話さないようにはしていますね。話す場合は、あらかじめタイムスタンプなどが残るもので制作メモやプロット、アイデア帳などを残しておきましょう。
■現実問題として盗作はある
作家さんはだれしも自分の作品で勝負したいと思っているので、盗作なんて実際はそうそうないよ、と言いたいところなのですが、過去、出版界隈でも盗作騒動というのはちょいちょいありました。
やっぱり、作家と言うのは著作が売れないとおまんま食い上げですし、毎年何作も書いているとネタも尽きてきてしまいがちなので、「盗作」というのはわりと麻薬のごときものであったりします。原稿を上げなければならぬという重圧に耐えかねて、その麻薬に手を出してしまう人はどうしてもいるのですよね。もちろん、大多数の作家さんはそんなことは恥ずべき事、と思っていますが、中には常習的にやってる人もいないことはないので、作家個人の倫理観の問題でもあるのでしょう。
もう一つ、引用したのに引用元を明記しなかったことで盗作になってしまった、というパターンもありますね。作中で他者の作品から文章なり設定なりを引っ張ってきた場合は、引用元を明示してことわりを入れるのが通例ですけれども、これを入れるか入れないかって、作者とか出版社に判断がゆだねられています。そもそも、一冊の本と言うのは、作家の膨大なインプットの蓄積の中からアウトプットされるものなので、どこまでを引用と位置付けるのかって結構難しいんですよね。ただ、「引用元を明示しなかっただけ」というのは、前述のモロ盗作の言い訳に使われることも多いので、業界でガイドラインみたいなのを設けてもいいんじゃないかな、とは思います。
プロの場合は、読者が「盗作」を指摘して判明することがあって、そういうグレーな行為が多い作家は訴訟リスクもあると判断されて出版社がしり込みし、結果として仕事が減る、というのがまあ、自浄作用というか、ストッパーみたいな働きをしているんじゃないかな、と思います。ただ、こんな事例はないと思いたいですが、名のある作家さんが無名作家の発表前の作品のプロットをパクる、なんてことがあると、盗作された側は泣き寝入りするしかないよね、、、と思いますね。
■アイデアに著作権はない
あくまで僕は法律の専門家ではないので聞きかじりの知識で、誤っていることもあるかもしれない、という前提で読んでいただければと思うのですが、そもそも「盗作」というものは、「著作権の侵害」に当てはまらないことが多いです。一番の理由は、「アイデアには著作権がない」からですね。
例えば、僕の著作の文章を丸のまんまコピーして他の著作に使ったり、HPに掲載したりするときに、版元や僕に許可を取っていないものは、明確に「著作権の侵害」とされますのでアウトになるわけなんですが、僕の作品のコアとなるアイデアを模倣して書かれた小説については、僕は「著作権の侵害」を問うことができません。どんなにオリジナリティのある設定でも、斬新なトリックのアイデアでも、アイデアそのものには著作権と言うのは認められないからです。
なので、登場人物の設定やストーリーラインの一部が被っている、というくらいだと、法律的には違法性を問えないわけです。もう、最初から最後までほぼストーリーそのままで、微妙に改変したくらい、というほどの丸被りであれば、「翻案権の侵害」とみなされることがあります。つまり、著者や版元にことわりもなく勝手に二次使用し、さらにちょっと改変した、という扱いですね。が、少しでも盗作者のオリジナルのアイデアが入っていたら、アイデアだけ丸パクリしたところで、著作権侵害にはならないのです。
今回、質問者さんがどういう程度の「盗作」をされたのかはわからないのですが、「結構似ている」くらいのものは法的には制限できません。仮にコピペレベルの丸パクリであっても、アマチュアの作品は金銭的被害がないので、訴えたところで被害に対する賠償などは得られません。これは自分の作品だぞ、と示すための少額訴訟的なことをすることはできますが、訴訟費用を考えれば現実的ではなく、泣き寝入りしかできない、というのが実際のところなんですよね。
なので、アマチュアの方は特に「盗作は防げない」ということを前提に、執筆し、公開するかしないかを検討しなければならないということです。一番危ないのは、webで公開したアイデアをもとに盗作された物語が、新人賞などを獲って本として刊行される、ということですね。これは揉めると思いますが、盗作された側は結構勝ち目がない、と思っておく必要があります。
■盗作に対抗するために
ということで、ここまで、「盗作」に対しては有効な対抗手段がほぼない、というお話をしてしまったので、質問者さんの創作意欲を大きくそいでしまったのではないかと思うのですが、ちょっと前向きにとらえられるようなメンタル面のお話もしておこうかなと思います。
僕も、実際に盗作されてしまったら腹立たしく感じると思いますし、なんとかできないものかと考えると思います。が、現実問題として、法律は盗作から著作者を完全に守れるようにはできていません。そこで書き手側としては「やれるもんなら、盗作してみやがれ」と思いながら書くしかないのかなあと思います。
盗作されたとしても、自分のほうが絶対に面白いものを書いているぞ、盗作なんかする人が書いたものになんか負けないぞ、という自負が、盗作に対抗する唯一の武器になるんじゃないかなと思います。アイデアを持っていかれたくらいでは揺るがない、自分にしか書けない物語、文体、キャラクター。そういうものを追求していくしかないですよね。
質問者さんも、今回は「ファン」と言っていた方に盗作された、というお話でしたが、きっと、その人が盗作したくなるくらい質問者さんの物語が面白くて、自分でもああいう話を書きたい、と思った結果、盗作というレベルのものになってしまったのかもしれません。人にそう思われるものを自分は書いたのだ、と、(よいこととは言えませんが)前向きにとらえることで、創作に対するモチベーションを維持するとよいのかなと思います。
■結論
小説においては、「盗作」というものは線引きが難しく、偶然似通ったもの、オマージュ、二次創作、引用、などなど、そういったものと区別する必要はあります。が、たとえ完全な盗作であったとしても、アイデア自体には著作権はありませんので、法的措置をとることはとても難しいことです。
書き手側としてはなかなかできる対策は少ないので、最低限、自分が温めているアイデアなどは、形にできるまでは人に明かさないほうがいいと思います。あとは、できるもんなら盗作してみやがれ、という気持ちで、誰にも盗まれないオンリーワンのセンスを磨いていくしかないですね。
盗作なんかに負けずに、ゴリゴリ書いていきましょう。
書けば書いた分だけ自分の個性は強まり、固まって、人に認知され、どんどん盗作しにくくなりますからね。
ということで、お久しぶりのモノカキTIPSでしたが、いかがでしたでしょうか。
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