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「エーミールと探偵たち」エーリヒ・ケストナー

1929年に出版されたケストナーの処女小説。
子供向けの作品、この岩波少年文庫でも小学4、5年生向きとなっています。

ケストナーについて興味があったので彼の児童文学をとりあえず読んでみました。

子供向けだから、と軽んじた気持ちで読んでいたのですが、なんのなんのとても面白かったです。

主人公エーミール少年(母一人子一人でノイシュタットで暮らしている。学業優秀、性格も真面目で素直。つまりは、良い子)が休みの期間中、お祖母さんと叔母夫婦の住むベルリンへ向かうことになります。

エーミールは油断していたわけではないけれど、列車のコンパートメントで居眠りをしてしまい、叔母さん渡すための現金140マルクが同室の客(山高帽の泥棒、グルントアイス)に盗まれてしまうのです。

盗まれたことに気づいたエーミールはグルントアイスを見失わないよう途中下車し、グルントアイスの乗った路面電車に同乗し、彼が入ったカフェまで尾行します。

そして、「探偵たち」となるベルリンの少年たちに事情を知ってもらい、助けてもらうことになるのです。

カフェの店先でエーミールから事情を聞いた少年がクラクションを持ち歩き、タイミングよくそれを鳴らすガキ大将グスタフ。彼はエーミールの捕物話に乗り、仲間を集めて協力することになります。

グスタフの呼び掛けで集まったのは、今回の作戦参謀となる「教授」、電話のある自宅で地道に連絡役を担当する「ちびのディーンスターク」など、十数人。

「教授」の立てる作戦がなかなか綿密で巧妙、連絡役を置いたり、行動のための現金をみんなから徴収したり、子供の考えとは思えないほどの細やかさですが、これらの策がこの物語を盛り上げていきます。

カフェからホテルまでグルントアイスを尾行します。
そして、彼が泊まることとなったホテルで偶然そのホテルのボーイから借りられた制服を身につけ、グスタフが見張りをします。

話がうまくできすぎてるように思われますが、この辺は子供向きの素朴な文章表現を用いているせいか、あざとさを感じさせませんね。

エーミールたちは、一晩を越してグルントアイスを見張り続け、翌朝、ホテルを出たグルントアイスを、探偵たちの呼びかけに野次馬的に集まってきた100人の街の子供達全員で取り囲んで尾行します。この辺は笑えました。

さすがにグルントアイスも、何事かと驚きます。
慌てた彼は、逃げるように銀行に入り、140マルクを換金しようとしますが、「教授」とエーミールの訴えでそれをなんとか阻止し、銀行員の協力を得て、グルントアイスを警察に突き出すことに成功します。

さて、現金140マルクがエーミールのものだとどうやって証明したのでしょうか?
もちろん、お札の番号を控えたりしていません。そのお札(三枚)がエーミールの持っていたものだとどうやって証明したのでしょうか?

それは、読んでのお楽しみ。
伏線に気が付かなかった私は思わずニヤリとしてしまいました。

話はそれで終わりません。
なんとこのグルントアイスはお尋ね者、銀行強盗犯だったのです。
おかげで銀行が犯人の首にかけていた賞金1000マルクがエーミールのものになるのでした。

ストーリーは単純なようでところどころに工夫が凝らされており、とても楽しめました。
でも、前半のエーミールがお金を失くすあたりのくだりは、フラグが立っていたこともあり、読んでいてハラハラしてしまいました。

なお、この作品に出てくる地名やカフェ、ホテルは実在したものだそうです。
表紙はベルリン中心街の交差点、上に描かれているカフェはベルリナーたちなら誰でも分かる「カフェ・ヨスティ」だそうです。

230821


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