中村天風「盛大な人生」
昭和30年代〜40年代にかけての天風会会員に対する講演録。上等な紙質、函入布張で90年に出版されているがなんと10,100円。金満会員が多いから吹っかけている。
またしてもきっかけは忘れたが、たまには読んでみるか、と馬鹿にしていた政治家や有名実業家の師である天風の本を選んだ。
講演録で1万円とは恐れ入る。文章は偉そうで自慢めいているし、会員を馬鹿にしている口ぶり。
この著者、実は前半生があやしい。明治9年の生まれ。
頭山満という右翼の親玉に弟子入りし、日露戦争当時は軍事探偵をしていたし(もちろん、場面では人も殺している)。もっと若い頃には喧嘩で人を刺殺しているのだ。
しかし、30代前半に結核を得て、それまでの傲慢な強い自分に自信を持てなくなり、人生への疑問が湧き起こってきたという。そして、密航してアメリカやヨーロッパに学び、学びえなかったのでその後、インドで修行をして開眼したという人である。
ちょっと生々しい人であり、人生に達観したというイメージがない。
したがって、話半分で読むつもりで読んでいたが、途中から「この人は違うな」という感じがしてきた。流石に、海千山千の実力者たちの師となった人だけのことはあると感じ始めた。
よくある人生訓や人生哲学をもう一段掘り下げているという感じがする。そして、今ようやく主流になっている思想と言ってもいいかもしれない。
1960年代で、すでにこれを考えていたのはすごいことだと思える。最もすごいのはインドの思想なんだけど。
以下、気に入った内容の抜粋あるいは抄録
第一章 人生の一番大切な自覚
欲望は消したくても消せるものではないが、楽しめて不満足を感じないで取り組んでいける欲望を求めること。霊性の満足がそれ(本能、感情、感覚、理性の満足ではダメ)。常にできるだけ自己の言葉や行いで他人を喜ばせることを目的とする。
しかし、それを義務とか責任だとかは考えずに、楽しんでやればいい。
第二章 信念と奇跡
宗教……人間が自分の心を自分で完全に統御、支配ができないから生まれたもの。
「信念」が人間各自の心の中にある宿願達成の原動力となる。宿願はデタラメなものはダメ、自分がやりたいと思っているが、人にできて自分に出来ないものを宿願とする。
病の時、治るかどうかばかり考えていては治らないそれを飛び越して、治っている自分を想像しない治らない。
*以降、他の章でも「自己暗示」の重要性を説く部分が多い。
念願や宿願が叶う叶わないということは自分の外にあるのではなく、みんな命に与えられている心の思いよう、考え方の中にある。
潜在意識の持つ力を信じること。信念を潜在意識のレベルに埋め込んでおき、いつもそれを思うことで潜在意識に働きかけることで現実化される。
実在意識は思考の源をなし、潜在意識は力の源をなす。
(潜在意識は「波」を吸収する、生命を守って満足に生かしていこうとする貴重な役割を実行する。)
信念煥発で非常に効果のあるのは暗示力の応用。自己暗示の反復が重要。
悪い考えも自己暗示の反復にかかると悪くなっていく。
第三章 理想の摩訶力
理想……継続せる組織のある連想。つまり、ある組み立てのある考え方がそのまま継続されてる状態のこと。
理想には信念が必要
神や仏は崇むべきもの、尊ぶべきもので頼るべきものではない。
「病であろうとなかろうと、生きている間は生きていろ」……何があっても、健康だろうが、不健康だろうが、生きていることは変わりがない。気持ちまで病ませてはいけない。
下等な考えを持たず、純信な尊さを感じる気持ちをしょっちゅう心の中に抱くこと。そうすると自然と気持ちや言葉が価値の高いものに変わっていく。思うとそれにそぐわない行動が取れなくなるから、純真になっていく。
サクセスとはサクシーディング(受け継いで、続けて生み出すこと)。絶えざる創造への活動がもたらす自然結果を「成功」という。
苦労は良くない。過去苦労(過ぎたことを悔いる)、現在苦労(たった今の苦労)、一番良くないのは取り越し苦労。
*道元のいう「今ここを生きる」に通じる。
ここまで読んできて、
「プラス思考の重要性。信念を持って理想を追求することが重要。信念や高い志を常に持ち続けて潜在意識に落とし込むことが大切(自己暗示の重要性)」
ということを理解した。
そのほか、宇宙霊、宇宙エネルギー、物質文明の否定と言ったことが出てくるのはインドでの修行時代に得た学びなのだろう。
第四章 我が人生観
苦しみを得て死んだあとは肉体がないので霊魂だけの苦しみになると永劫万代、苦しみの連続になる。
※この記述は、以前読んだ佐藤愛子・江原啓之「あの世の話」にも同じ内容のことが書いてあった。
心身一元論
「どんな医学でも生命を正しく扱わない者には、その生命を正しく守っていく力はない」心を蔑ろにしている。
宇宙エネルギーが霊魂に示唆を与える。
人生観「忍苦忍耐より自己の命のために喜びを多く味わわせる生き方」
人間、喜びを感じた時に幸福を感じる。
「天の声」……絶対に音のない世界、生命の中の本然の力が湧き上がる。
病があると考えると病がある。病なり運命なりから心が離れた時は、病があっても病人ではない。運命が悪くてもそういう人ではない。全てが心だ。
心が死というところから離れたら恐ろしさを感じない。確固たる覚悟の力で、無念無想へ完全に心機転換されていた。
享楽主義との違いはその喜びが絶対に他の人の幸福を妨げるものあってはいけない。さらにまた、人を喜ばせて自分がまたその人とともに喜ぶことが一番尊い。
第五章 大事貫徹
「十牛訓」
牛とは禅でいう「本年の自性」=「仏性」
1.「尋牛」……一人の牧童が牛を尋ねて深い山の中に分け入っている
状態、「初発心」
修行を志すものの三つの心……「喜心」「老心」「大心」
「喜心」……容易に得られないものを得て喜び、感謝する
(天風:感謝をした時の心が本当の喜び)
「老心」……思いやりの心、道元「老婆心」
「大心」……心を大海の如く広々ともつ(悟りの境地)
2.「見跡(けんせき)」……牛の足跡(仏祖の解いた経典や語録、
公案や説法を聞く)を見出した。でもまだまだ探し続けないと
いけない。
3.「見牛」……おぼろげながらも「本然の自性」に気づいた。
4.「得牛」……牛を捕まえたが思うようにならない。
5.「牧牛」……悟りを得た。が、悟りを継続することが難しい。
6.「騎牛帰家」……人生真理を捉え得て、その心と境涯が一致している状態。
教えを自らのものにして自在に操れるようになる。
人間の本当の幸福とは、病・煩悶・貧乏、この三つがない状態。
この状態を騎牛帰家という。
人間は現状に満足しないという自然性がある。そのため、進化と
向上があるわけだが、もっとより良い人生になるように理想を
持つことが大事。
7.「忘牛存人(ぼうぎゅうそんにん)」……無心無我の境
8.「人牛倶忘(にんぎゅうぐぼう)」……円相、一切の執着がなくなる。
迷いもなければ悟りもない。
「仏性独朗(ぶっしょうどくろう)」仏性は一人朗らか。
9.「返本還源(へんぽんげんげん)」……本然に帰るということ。
元の世界に戻る。「悟了同未悟(ごりょうどうみご)」悟って
終わってしまえば、(世間は)悟らない時と同じだ。山は山、水は水。
10.「入鄽垂手(にってんすいしゅ)」……街の中に入って迷う人を救う
ようになっている。あるがまま、であることが大事。
※ニーチェの「永遠回帰」と似ているというのは思い違い?
第六章 真人生の実現
神や仏というものは何か、それは宇宙の根本主体である。宇宙の根本主体とは、「永遠の生命を有する造物主」のこと。つまり、大自然。大自然の持つ力、「ヴリル(Vril)」=「神秘の力」
「神人冥合(しんじんめいごう)」神と人とが目に見えない世界で結びつく、大自然の持つ神秘の力を自分のものとする。
陰陽五行説など、迷信的な慣習の否定。
造物主のことをヒンズー教では「宇宙霊」という。宇宙霊の働きは人間の心に助長して働く(強いと思えば強くなり、弱いと思えば弱くなる)。それを上手く利用する。宇宙霊とはエネルギー。このエネルギーを多く取り入れる方法が神人冥合。
人間が人間らしく生きる……心身一如で生きる。心と体は同じ。心で思うと体もそうなる。
心を積極的にすること、「尊く、正しく、清く、強く」すること。利己的な遺伝子、排他的ではいけない。神経過敏な、迷信的ではいけない。これを普段通りするには慣れること。そのためには雑念、妄念を持たせないようにすること。雑念、妄念がないと「霊性意識」(=本心、良心)が発現する。
人間の心の二つの境涯
・実我境……五感を超越している境涯
無意実我/寝ている時、気絶している時のあるのは命だけという状態
有意実我/感情、情念を滅断した純真な心だけだ。
肉体と精神を支配している状態
・仮我境……肉体の五感とともに働いている境涯
順動仮我/明瞭な意識で五感感覚を支配している。
怒りや悲しみや恐れがなく泰然とした状態
逆動我我/煩悩、執着、無解脱の状態
以下少しだけど略。
以上、メモ的に。
20201121
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