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惹かれたあの人との春

「今夜、自分をとことん甘やかすなら何をしますか?」

と質ねた時に、

「何をしてもいいのなら、そうだな、僕は数学をやりたいです。あの数式を解き進めたい。」

と彼は言った。

私は、職業として、算数を教えている立場にいながら、実は物心がついた時から算数が大の苦手。

「1+1=2」

小学1年生で習うこの数式を、私は今でも疑っている。

疑っている、というのか、思考している、というのか、ある種の哲学なのか、まだ多くの謎に包まれていて、あの時私の頭の中をザアアアッと覆った霧が未だに晴れない。

「1+1=2」という一部的な真理、またその真理とやらを教え込む者、またそれを真理と信じ込もうとする者、それらを内包する社会全体、さらにそれらを築き上げてきた人類の歴史そのものに、思いを巡らせた当時を思い出す。そして、今日、また思いを馳せる。

だからこそ、「数学」「算数」「数式」「数字」などの「数」を含む言葉には敏感で感度高く反応してしまう私がいる。

ちょうど半月前ほどに、映画「博士の愛した数式」を観て、こんなことをつぶやいていた。

#そういえば大学に行ったら白衣を着てポケットにチョークを忍ばせている学生や教授が普通にいてキャンパスの壁も通路も数式で埋め尽くされていると思っていたのにその一つも見つけられなかった時の虚無感を思い出した 

#数字の美しさを延々と力説してくれる人に出会ってみたい

#春風

このつぶやきから半月後に出会ったのが彼だった。

彼に好きな数式とその理由を、私が普段使いしているノートに書いてもらった。

○彼の好きな数式

「E = mc2」

○好きな理由

「色々な実験をした結果わかったこの世界の真実」

私の万年筆で書いてもらったので、彼は書き辛そうにしていたけれど、ゆっくり、丁寧に、やさしく語りかけるように、書き記してくれた。



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