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「独りよがり」に別れを告げたい

(京都ライター塾 第4期アドバンスコース受講レポート 
 第2回 読者を知り企画を立てる)

課題はハードだが、わかりやすい添削に納得

 第1回の講座後の初課題は、500字を目安に書く「推しの記事」。
自分の経験エピソードも挿入して、まとめるようにとの条件つきである。
 そのお題を聞いたとき、「500字でその記事を仕上げるのはキツいっす、おねえさん!」と心の中で叫んでいた。
 すかざず私は「写真とそのキャプションを入れてもいいですか?」と質問した。写真があれば、描写説明を補うことが出来て、500文字数の縛りが緩和されると思ったのだ。
 江角さんからは「じゃあ、1枚だけなら」という回答。2~4枚ぐらいの写真を入れたいと考えていた私の思惑は外れた。が、仕方がない、なんとかやるしかない。

 さて第2回の講座は、その提出課題を添削した江角さんの解説から始まった。私と同じく他の受講生のみなさんも、500字でまとめることに苦労されたようだ。
 やはり執筆前に、文書を組み立てる設計図「構成」を入念に練っておくことが肝だと再認識した。
 そして500字でまとめるには、書く項目を絞り、書かないと決めた部分はバッサリと切る覚悟がいる。書かないところにセンスが出るのだと思う。中途半端にあれもこれもと項目を詰め込むと、何を伝えたいのかわからない、ゴールにたどり着けない迷子みたいな記事になってしまう。

 しかし驚いたのは、江角さんの添削箇所の解説である。添削の理由を述べて、こうすればどうかなという具体的なリライト例まで挙げてくださるのには、ビックリである。

 ここで私は、30年前にタイムスリップ。私が社内報の記事を書いてた当時に受けた原稿チェックは、こんな具合だった。
「展開がベタ過ぎてオモロない」
「独りよがりで意味がわからん」
 タレントの俳句を査定するテレビ番組『プレバト』の夏井いつき先生のように、容赦ない言葉が飛び交っていた。(ちなみに私は夏井先生が大好きで、句会ライブに足を運んだこともある)
 このように記事から受けた全体の印象を述べられるだけで、夏井先生のような丁寧な添削や解説はほぼなく、後は自分で考えて書き直せという場合も多かった。
 しかし大まかでも、訂正すべき点を指摘されるのは、まだ助かる。
 何より困ったのは、次のようなパターン。
 「この原稿は使えないから書き直して」
立ち去る上司の背に、私は声を振り絞って問いかける。
「具体的にダメなところ、書き直しが必要な箇所を教えてください」
「こっちはてにおはの使い方まで、説明している時間はないから」と、放り出される。
 このご時世なら「モラハラ野郎で職務怠慢じゃないですか!」と、私は上司を訴えることが出来たかもしれないが… 

 何はともあれ、江角さんの添削のように、リライト例まで挙げて説明されると納得できるし、伝えるべき本来の意図も改めて見つけられる。
 「なるほどこの表現や展開では、独りよがりでわかりにくい。読者に想像力を駆使させる負担をかけているのだな」という具合に。
 添削者の江角さんの視点が入り、文章の流れや意味がクリアになっていく過程は、すっきりとして気持ちがいい体験だった。
 私の「推し原稿」も江角さんの指摘とアドバイスを生かして、リライトしよう。

読者を幸せにする企画を立てる

 今回のテーマは「企画を立てる」。
 企画書のゴール、つまり採用される企画は「読者へのメリットが感じられること」である。
 これは一見当たり前のようだが、とても難しいことだと思う。自分の興味が先行したテーマに取りつかれ、媒体の特徴やその読者のことをおざなりにした企画を立ててしまうことは、ありがちなのではないか。
 ここでも気をつけなければいけないのは、「独りよがり」になってしまうことだ。

 またタイムスリップしてしまうが、20代の頃にある上司から諭された忘れられない言葉がある。
「自分好みに書きたいことは、誰にも見せへん日記とかそういう場所でやれ。ここ(社内報)は、君らの思いを吐き出す場所とちゃう。組織として伝えなアカンこと、読者(職員)が欲しいもんを踏まえて、企画や記事を考えろ」

 企画立案するには、自分だからこそ書けるテーマ、書きたいことを見つけなければならない。だから自分の考えや疑問、感情などを見つめながら、アイデアを出す。さらに、そのアイデアを実現したいという熱意も必要だ。
 しかしそれよりもっと大切なことは、読者を知り、その読者により幸せになってもらいたいという気持ちで、テーマを探すことなのではないか。

 直木賞作家の万城目学さんは、次のように語っている。
 作家をまず突き動かすのは「独りよがり」な情熱ですが、厄介なのは、その「独りよがり」から脱却できなければ、「人を楽しませるものを書く」作家にはなれない、ということです。

 江角さんは「媒体研究」の必要性を強調された。媒体読者の特徴を把握すること、その読者が読みたいものや知りたいことを考えること、そしてまだその媒体で書かれていないことを見つける。これらすべてをクリアできた企画でなければ、採用に至らないのだ。
 なんて高いハードルなのだろうかと怖気づいてしまう。しかしだからこそ、やりがいがあるのだと発想を転換し、企画を考える課題に挑戦してみよう。
 どうか「独りよがり」に陥りませんようにと念じながら。

※万城目学『べらぼうくん』 
第4章 べらぼうくん、無職になる  終わりと、はじまり 
このエッセイの「独りよがり」からの脱却過程の描写が秀逸です