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【閉店】SUNAMACHI DIARY vol.2「桃山食堂」

長かった緊急事態宣言が開けた。

私たち世代は戦争を経験しなかったが、ウイルスが蔓延し未知の恐怖と戦い続けるという歴史的な出来事を体験している。一体全体だれが予測しただろうか。私は楽観的なタイプではないため「ウイルスが〜!」と叫び、コロナに罹患してしまう夢を何度となく見た。自覚症状がないにもかかわらず、外出したあとには何度もPCR検査を自費で受けた。10万円ほどははたいただろうか。陰性であると通知がきても「検査を受けた帰り道で感染してたら意味ないよな…」とまで、思うほど、敏感というか強迫観念にかられている。

コロナ以前、ワーカホリックである私のなけなしの給料がほぼ酒場で溶けていっていたほど、酒場にいりびたる時間が至福であり生きがいであった。しかし、2020年4月の緊急事態宣言以降、慎重に慎重を重ねたスタンスもあり、2〜3回しか生ビールにありついておらず、魂が抜けた1年半だった。

2021年4月に1度だけ緊急事態宣言が解除になったとき(確かそんなことがあったはず)ままよと酒場へ行けばよかったのだが、なにせ仕事が忙しいうえ酒が理由でウイルスに罹患しては、私は酒飲みである自分を一生恨んでしまうことになるであろうと思い、慎重になり機会を逃してしまったのだ。

かくして、ことあるごとに「生ビールが飲みたい」「酒場に行きたい」「生ビール…」をうわごとのようにつぶやくようになってしまったのだが、2回のワクチン接種を済ませ、感染者数も(なぜか)減り、満を持して生ビールを飲もうと意を決した。

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西大島駅から徒歩15分「桃山食堂」

ああ、失敗した。あの趣深い外観を撮影し忘れるとは…

明かりのともった赤青白の提灯が軒下に等間隔にならび、店先には小さなアサヒビールのロゴが入った電光看板が控えめに設置されている。そう、この感じ。緊急事態宣言下にこの地に引っ越してきたため、小名木川でもみにいくか〜と頻繁にブラブラ散歩しているときに通る道ぞいに存在していたにもかかわらず、営業を停止していたのだろう。10月1日にその明かりを目にすることとなった。なんだ、なんだ、なんだ〜!! これは…絶対にいい店な気がする…と数回にわたり店の外からモニタリングした結果(いいことではないのだが)店内は客がまばらというか、1名程度しか入っておらず、酒盛りが行われている中で肩を小さくしてそそくさと飲む、みたいなことにはならなさそうだと察知した。

かくして、先の写真を撮影するに至るのである。

それ以上でもそれ以下でもない接客による最高の居心地

滞在時間は30分程度であったが、結論最高だった。

「ちゃんと対策していますよ〜」という無言のアピールなのか、透明のパーテーションはガチガチに設置され、等間隔にアルコール消毒のボトル。そして、二酸化炭素濃度計。歴史と年月が店内の壁の色や什器に如実に出てはいるが、不潔でないことはわかる。『大豆田とわ子と7人の夫たち』にて揶揄された「床がヌルヌルな中華料理店」とは違う。

(こういう下町の酒場の平均からすると比較的)若い女の一人客がおもむろにカウンターに座っても動じず、過剰に話かけてこない。そして、生ビールがうまかった。

あまり掃除のいきとどいていないサーバーから注がれた「クサ〜」というビールもさほど嫌いではないのだが、なんとも。菅田将暉がそそいでくれたのではないかと思えるほど、サワヤカなアサヒビールであった。500円くらい? 生ビールの値段は800円とかアコギな金額の店以外はヨシとしているので、あまり気にしない。

ハムエッグを食べるべし

序盤に記せばよかったが、同店はラーメン店である。壁には手書きで15を超える豊富なラーメンメニューが書かれているのだが、私は酒が飲みたかった。かの井之頭五郎先生が、下町の定食店で「ハムエッグ」とオーダーし、ごはんでがっついているのを見て以来、わたしはどうしてもそれをビールでいただくということがやりたかったのである。

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最高だった。半熟のちょっと固め、そして適度な塩気。キャベツ、千切りだけじゃない。ニンジンとかコーンとかがすこしまぶしてあって、それにマヨ。そういう気遣い、泣く。

醤油をすこしたらしていただくと、もう、世界の色彩が3倍鮮やかになって、ラ・ラ・ランドでした。

優しい王道ツマミたち

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「キュウリとワカメの酢の物」って言われて出てきたけどこのボリューム。380円とかだったような。なるととチャーシューおるやんけ。優しい。

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その場でジュージュー焼いてくださった鉄板餃子。中はキャベツ。餡は間違いなく手作りの味がした。

生ビール2杯とハムエッグ、酢の物、ギョーザでお会計、2240円。

ああ、また来るよ。

「競馬最高、パチンコ最低、組閣の通知うるさい」

入店時は10席ほどのカウンターのみの店内に私ひとりだったが、フラっと訪れた常連さん。

店にあるテレビで流れている「ちびまる子ちゃん」をなんとなくみつつ「pピロロロン」と流れる組閣の人事を決定を速報する告知に対し、穏やかそうな店主が「うるせえな」と悪態をついていて、人間臭さに好感をもった。

常連さんはずっと砂町銀座商店街の1円パチンコの店は景気が悪く、どうせ10万溶かすならパチンコみたいなつまらんものではなく競馬のようにロマンがありワクワクするものに金を突っ込めばいいのに、と論じていた。

店主も穏やかに「最近のパチンコは知らないが、すぐなくなるんだろうねえ」と同調した風の相槌を打っており、そうか、ギャンブルで金を溶かすなら競馬なのか…と素直に受け取り店をあとにした。

桃山食堂


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