SUNAMACHI DIARY vol.3「銀座ホール」
意図せず任命された出張やギリギリ2点足りずに受けた夏休みの補習のように「なんとなくの連帯感」をもってだましだまし乗り切っていたパンデミックは非日常から日常へスライドした。
テレビからは「2年ぶりの制限なしの大型連休です」というナレーションとともに混雑した空港の映像が流れるが、東京の感染者数は2年前の約20倍だ。「はやくコロナ終わらないかなぁ〜! 今日は仕方がないからUber Eatsでちょっと豪勢に注文しちゃうぞ」なんて部屋でゴロゴロしていたころが懐かしい。今日も、静かに飲みに行った。
豪勢な注文はここで。「銀座ホール」
生ビールが三度の飯よりも好きな私。連休最終日の「なんだかなあ」「ソワソワ」を「ワクワク」に変えてくれる魔法を求めて今まで「甘味処かな?」と勘違いしていた「銀座ホール」へ入店した。「生ビール」の文字を発見したからだ。
明治通り沿いの砂町銀座からすぐ、いわゆる「モダン風」なフォントで書かれた「銀座ホール」の看板。店先には「巴焼き」というあんこの入った甘味が鉄板に並んでいるうえ、ソフトクリームの模型がディスプレイされていたのでここはお茶するところなのかな? と思って素通りしていた。
しかし、2週間前…「生ビール欲の限界」を迎え「どこかに生ビールはいねが」と血眼になって歩いていたところ、店先へ置かれたメニューにその文字を発見。「純レバ丼」という江東区お得意の下町グルメメニューもあったので「ここは飲める店だったのか…」と心に刻み、足を踏み入れる瞬間を楽しみにしていたのだった。
音のよいスピーカーからラジオ
「RCサクセションというバンドを率いる忌野清志郎さんを特集していきましょう…」という女性の澄んだ声。下町風の店では店の隅に置かれたブラウン管テレビがお決まりの風景だが、この店にはない。天井にスピーカーが埋め込まれており、夕暮れの静かな店内をあたたかいものにしていた。
提供された生ビールはクリアで美味しく、刺し身は新鮮。
羽がついた餃子は…美味しかった。ちゃんと、パリパリでジューシー。餡の味もよい。
美味しさのあまり半泣きでほおばっていたら、マスターが「これ」と巴焼きを机にそっと置いていき、感激。会計を済ませ店を出るときには「そのヒョウ柄のパンツいいな!」と服装もほめてくれた。
タンメンや麻婆豆腐、酸辣麺や定食、とにかくメニューが豊富な銀座ホール。
一言一句正しく覚えていないが店内のそこかしこに「気合い」「もてなし」など、店主の哲学を明るく記した標語があるのだが、不思議と目にした人がイヤにならない程度の「気合い」で、押しつけがましさは皆無だった。
いわゆる「大正ロマン風」みたいな演出がかったお店だったらどうしようかと思っていたが、非常に…「粋」な空間であった。
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