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「コロナ危機から見える各国 シリーズ3 インド 」

インドでは12日、新たな新型コロナウイルス感染者が1万0956人とこれまでに最も多くなり、英国を抜いて累積感染者数で世界4番目になった。
死者は8498人。
3ヶ月近くに及ぶ厳しいロックダウンは解除されたばかりだが、早くも再封鎖の可能性も出てきている。
そんなインドの現状を見ていきたい。

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 (ロックダウンにより都市から故郷に慌てて帰る人々 写真はロイターから)

1、 封鎖解除に動き始めた南アジアの国々ー地球人の5人に一人

6月に入り、インド、パキスタン、バングラデシュなど南アジアの国々が、コロナウイルス対策の全国的な都市封鎖の解除へ動き出した。
この三つの国だけで、人口は約17億人を超える。つまり地球上の約5人に一人が、この地域で封鎖解除に伴い、自由に活動を始められることになったわけだ。

しかし、状況は甘くない。
都市封鎖は感染の速度を緩めたかもしれないが、感染を封じ込めたわけではないからだ。

英国誌エコノミストは、「現在約35万人の感染者が、このままのペースでいくと、毎週倍になり、7月の終わりには500万人にいたり、死者の数は15万人に至る可能性がある」としている。

感染者が毎週倍になるようでは、安全な日常生活が戻ってきたとはとても言えない。

いずれの国でも十分な検査は行われておらず、研究者によれば、感染者の数は公表されている数の数倍から十数倍との見方もある。
現状、多くの発展途上国では、実際の数字は、想像に頼るしかないというのが正しいところなのだろう。

2、 インド、3月25日に厳しい都市封鎖(ロックダウン)導入

インドは、3月25日から、世界でも最も厳しい部類に入る都市封鎖を行った。
告知の翌日から公共交通機関はとまり、首都ニューデリーや大商業都市ムンバイに出稼ぎにきていた日雇い労働者は職を失った。
一夜にして数百万人が住む場所も食料を買うお金も無くなった彼らは、警察による厳しい制止を振り切って、家族のいる故郷を目指した。
その多くは車もなく、何百キロの道を徒歩で歩こうとして、暑さと疲労で命を落とした。

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(260キロを徒歩で歩く家族 写真は BBCから)

結果は最悪だった。
警察は、パニックに陥った何千万人もの人々を止めることはできず、4日後バスを用意したものの、人々の混乱は治らなかった。
数千万の人々が帰郷し、結果としてウイルスは、都市から地方にーーそして、国中に広がった。

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(写真はBBCから

3、 ロックダウンによる経済的ダメージ

しかも、厳しい都市封鎖はインド経済を直撃し、3月だけで1億4000万を超える人々が職を失った。
日本の全人口を超える数の人々が、あっという間に仕事を失ったのだ。

失業率は、それまでの約8%から、26%にまで上昇し、企業の倒産も相次いだ。
多くの場合、なんの補償もない。
海外に出稼ぎに出ているインド人からの送金も激減し、ゴールドマンサックスによると、この四半期の経済は45%のマイナスになるなると試算された。

4、 6月になり、ロックダウン解除

政府は慌ててロックダウン緩和を決め、6月から公共交通機関や店舗を再開させ、8日からはショッピングモールやオフィス、礼拝所が再開した。
しかし、三ヶ月近く続いた厳格な封鎖が解除されると感染は急拡大し、6月11日には、死者数は1万人を超えた。

ジョンズホプキンス大学の集計によると、6月11日までに、27万6千人を超える感染が確認された。
1日の新しい感染者数も約1万人に上る。

デリーの病院では、デリー出身者しか治療しないという驚くべき政策も打ち出された。
病院の外には、受け入れてもらえない患者があふれる。

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(封鎖されたインド門  写真は共同通信)

5、 全国に広がった感染と医療崩壊

経済的ダメージも大きかったが、何より感染した労働者が地方に帰り、全国に感染拡大を招いたことが痛かった。

結果として起こったのが、ロックダウンを解除した途端に急上昇した感染者数と医療崩壊だった。
なにしろ、医療機関の整っていない地方では、医者の数が6000人に1人というところさえあるのだ。

医療従事者は、24時間、休日もなく働き、十分なマスクや防護服もないため、治療中の感染も増加している。

医療崩壊はとっくに起こり、病院の中で、患者が横たわるベッドの隣に死亡した患者がそのまま放置されているテレビの映像は、現実の悲惨さを物語る。

死者の焼却も間に合わず、禁止されていた薪による火葬も再開させざるを得なくなった。

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(写真はAFP)

モディ首相は様々な経済対策を打ち出したものの、その効果は多くの経済学者から疑問視されている。

ムンバイでは感染者が5万千人を超えを超え、発生源となった中国の武漢を上回った。

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(ムンバイの様子 写真はゲッティ・イメージより)

12日には1日の新しい感染者数が1万1458人、累計の感染者数は29万7535人となり、英国を上回り、世界のワースト4を記録した。

ロイター通信は、インド全土での封鎖の再開の可能性もあると伝えている。

6、 10年前旅したインド

10年ほど前に旅したインドは、まさに天国と地獄が隣り合っているような世界だった。
豪華なホテルは贅を尽くした庭や調度品で飾られていたが、ホテルから一歩踏み出すと、地べたに座り、物を乞う人々の姿に胸が痛んだ。
たった一つの壁が、二つの世界を分けていた。
あまりに残酷な光景だった。

旅をしてこれほど悲しくなった国はなかった。
二つの世界を隔てる壁は絶対的に見えた。
13億の民の重さ。。。

その二つの世界の格差が、今、さらに開きつつある。

7、 コロナ禍の残酷さ


新型コロナウイルスによる悲劇の最たるところは、弱い人々に最も大きな被害が出てしまうというところだ。
例えば、病院も足りず、スラムに住み、安全に自己隔離しようもない人々。
感染の危険を取るか、飢えの危険を取るか?という過酷な選択を迫られる人々。

まだまだ、本当の脅威は見えていない。
多くの新興国や発展途上国では、どのくらい感染が広がっているか、把握すらできていないだろう。
また、ようやくアフリカの一部の国の状況が伝えられ始めたが、アフリカ大陸の多くの国では検査体制も医療体制も整っていないだろう。
それでも、中国がアフリカへの関与をこのところ強め、多くの人的交流があったことを考えれば、アフリカ大陸がコロナ禍を免れているとは考えにくいのだ。

一体、このコロナ禍は、これからの世界をどう変えていくのだろう?

医療保険もない。薬もない。手を洗う清潔な水すらない。。。
そんな人々の近未来。

考えれば考えるほど、暗澹たる気分になる。

しかし、だからこそ、日本のような国は、早く回復し、先を見据えて動かなければならないのではないか?
少しでもゆとりがあるのなら、きっと何か出来ることがあるはずだ。
ただ、暗い気持ちに流されることなく。

どんなに辛くても、世界を見れば、自分の置かれている状況が「最悪」なんかじゃないことが、こんなにもはっきり判るのだから。


どうか、素敵な1週間をお過ごしください!😊💕


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大石慶二
5つ星のうち5.0「 ぜひ多くのみなさんに読んで欲しい。」
2019年9月6日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
本書を読んでいる間にも世界ではいろいろなことが起こっている。ほとんど情報源は新聞とテレビである。
ところが本書を読みながら、それらの情報を見聞きしてると自分の視野が広がっているのを感じる。
やっと読み終えて(実は結構しんどかった)振り返ると、本書は実にいろいろなことを考えさせてくれた。
筆者が「まえがき」の最後に書いている「トルコで起こりつつある変化を通し、今、日本を取り巻く世界全体で起こっている諸々の出来事にも思いを馳せるそんなきっかけになれば」の願いはピタリ自分には当たった気がする。
筆者は言う、「現代を生きる私たちにとってアジアだけを見て日本という国の行く末を論じてはならない」と、又、長い期間を日本の国の代表という立場に近い環境にいて、滞在するその国の政治や文化、外交のトップの人たちと身近に接した経験から得た筆者は言う「偏狭なナショナリズムに陥ることがあってはいけない。
しかし,あまりにも無垢で無防備な国であり続けることも現在の日本には許されない。悪意あるプレーヤーから身を守る知恵や術も備えなければならない」と・・・
日本の立ち位置に警鐘をならす本書が自分に与えてくれたものは大きかった。



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