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【新型コロナを巡る米中対立・激化と中国の『戦狼戦外交』の波紋】

ようやく週末。
1週間お疲れ様でした。😉💕

今日は、【コロナ危機からも見える各国 シリーズ2、中国とアメリカ】です。

1、 「新型コロナウイルス・ワクチン開発を巡るサイバー攻撃」

6月6日、河野外務大臣が、「NTTコミュニケーションズがサイバー攻撃を受け、 防衛省に関する情報が流出した可能性があると報告を受けた」とツイッターに投稿した。新聞各社も追って報道した。

防衛省など政府機関や企業へのサイバー攻撃は、実は日常的に行われているが、多くは防衛されており、情報流出にいたり、かつ、それが発表されるのは珍しい。
しかも、安全保障に直結する情報が含まれていたかもしれない、というのは気になるニュースだった。

総務省の研究機関(NICTER)によると、2018年1月1日から8月31日までの海外の送信元からの日本に向けたサイバー攻撃は1140億4986万4595パケットで、1日平均約4億6934万回を超え、毎年増加しているという。
ちなみに、海外からの日本へのサイバー攻撃の大半は中国からだ。

中国のサイバー攻撃に関しては、アメリカの FBIと国土安全保障省が、5月13日に「中国政府がワクチンの研究内容を盗もうと攻撃を仕掛けている」と告発した。

司法省の国家安全保障担当部門も11日、「中国人ハッカーによるアメリカの病院や研究所への不正侵入」への強い懸念を表明している。

サイバーセキュリティ企業大手「ファイアアイ」によると、感染拡大が始まった数ヶ月間中国からのアメリカに対するサイバー攻撃が激増しているという。

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                      (写真はCNNから)

企業の知財を盗むことを常習としている国なのだから、ワクチンを狙ってきても「ま、当然か」という気もするが、今の国際環境を考えれば、「盗んででも、自国が先駆けよう」という発想には、怒りが湧く。

世界中で需要のあるワクチン開発に成功し、他国に先駆けて特許をとってしまえば、多大な利益を得られるとの思惑が透けて見えるからだ。

中国には、新型肺炎の情報発信を故意に送らせ、他の国々の警戒感が高まる前に、大量のマスクや人工呼吸器を世界中から、段ボール箱で買い占めたという前歴がある。

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                       (写真はゲッティ・イメージ)

世界では「各国が協力し、できるだけ早くワクチンを作ろう」という機運が高まっているが、「協力し」というのは互いの信頼性を欠いては成り立たない。

サイバー攻撃で他国の研究結果を盗み出し、他国より先にワクチンを開発し、高く売りつけよう、あるいは外交上の武器に使おうとしているかもしれない国と、どうやったら信頼関係を築き、情報を共有できるのか、私には見当もつかない。

ワクチンや治療薬に関して、中国などからのサイバー攻撃が激化し、ワクチン開発を進める英国オックスフォード大学も攻撃にさらされた。そのため、アメリカ以外の国もセキュリティ強化に乗り出している。

英国の情報機関でサイバーチームを抱える政府通信本部(GCHQ)は英国民保険サービスなどを含めたネットワークの守備を徹底するよう指示を出した。

米英両国のサイバーセキュリティ担当部局は、5月初めには「新型肺炎にあたる組織へのサイバー攻撃が続いている。標的には学者や地方政府も含まれる」との警告を発した。


2、「激化する米中対立」

「WHOは中国よりだ」としてアメリカなどが、拠出金支払い停止や脱退もちらつかせながら非難しているが、6月2日、AP通信は独自に、WHOの会議の音声記録を入手。
早い段階で中国からの情報が十分に共有されていないとの不満を多くの人間が会議で発言し、結果「表向きは中国の処置を礼賛しつつ、中国のさらなる情報共有を促す」という路線に落ち着いたと報道された。

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                           (写真は AP通信)

日本人から見てもWHOの発言や対応は奇異に移ったが、議事録という具体的な物証が出てしまっては、 WHOへの信頼はさらに失われることになる。

テドロス事務局長の辞任を求めるインターネットの署名運動で、賛同者が6月1日までに102万人を超えた。発起人は「テドロス氏が新型コロナウイルスを過小評価したため、感染拡大を防げなかった」と批判している。署名運動は終了し、近く国連とWHOに提出される予定だ。

アメリカでは、5月のハリス社の世論調査で、国民の75%が「感染拡大は中国に責任がある」と考えているという結果が出ているが、これはあながち、トランプの大統領戦を見据えての中国叩きのせいだけではないだろう。

アメリカやカナダで新型コロナウイルスにより被害の損害賠償訴訟を起こそうという動きが加速している。

ミズーリ州は4月21日、「中国が感染拡大を防止する策を講じなかったため、深刻な経済的損失を引き起こした」として中国政府や中国共産党を提訴した。

訴訟しても成功するものなのかは不明だが、この動きに、ヨーロッパで最大の被害を出したイタリアの地方政府も加わる方針を打ち出した。北部のロンバルディア州とベネト州だ。

イタリアは G7の中で唯一、「一帯一路」構想で協力する署名を行った国。
しかし、今回のコロナ禍で、最初の間はマスクを供給してくれた中国への「感謝」が取り上げられたが、実はその後、高い医療器具や不良品を売りつけられ、怨嗟の声も大きくなっていた。

 EUの中でも、中国の「マスク外交」に不快感を示す国が出ており、オランダなどは中国からのマスク130万枚のうち、60万枚を「医療用の基準を満たしていない」と回収している。


3、「鬼のいぬ間に実績作りーーー安全保障をめぐる鞘当て」

ニュースでご存知の通り、米空母「セオドア・ルーズベルト」艦内で4月に、100人を超える新型コロナの感染が発見され、艦長の解任劇にまで発展した。
他の空母などでも感染者が見つかり、米軍は、一時、太平洋で緊急に動くことができない状況に陥った。

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その間、中国がここぞとばかりに「実績づくり」に乗り出した。

今年に入って5月までの尖閣諸島沖への中国公船の接近は月平均100隻。
そのうち1隻は機関砲のような物を搭載しており、47日以上も連続して尖閣周辺を航海している。

南シナ海でも、中国の漁船や公船の動きが活発化し、ベトナム、インドネシア、マレーシアで艦船出動の事態が頻発している。

マレーシア沖に4月下旬から、中国は海洋調査船とその護衛艦などを派遣している。

このような中国の行動は、一時冷めていたフィリピンとアメリカの関係改善に繋がった。6月2日、フィリピンはこれまで破棄を検討していたアメリカとの「訪問軍地位協定」と続けると表明し、これにより「アメリカーフィリピンの軍事同盟」が維持されることになったばかりだ。

中国にとっては痛い誤算だ。

しかし、現在、何より気になるのが、インドとの国境での両軍による睨み合いが続き、一触即発の状態に発展しているということだ。
原因は、中国とパキスタンの間を結ぶ一帯一路構想の目玉「中国―パキスタン経済回廊」の工事などで、中国の動きがインドを刺激しているためだ。

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                     (写真はブルームバーグより)

インドは現在はコロナ禍で多くの犠牲者を出し、国内も混乱しているが、立地や人件費の安さなどから、今回の強硬措置で外国企業からの信用を失った中国からのサプライ・チェーンの工場などを移す代替地候補と目されている。
すでにベトナムなどが代替となっているが、どうしても規模的に小さすぎるためだ。

中国の影響力がインドの周辺で強まるに従い、インドは、かつての「非同盟主義」から態度を変化させつつある。

6月4日、インドはオーストラリアと修理や補給のため相互の軍事基地を使用できるとの協定を結び、今後サイバーや軍事技術、水源管理などでも協力していく方針を明らかにした。

オーストラリアは、中国への警戒心を最も高めている国の一つだ。

国内の状況が思わしくない時に、対外的に強く出て、国内の愛国心を煽る、というのは外交の常套手段ではあるが、世界を未曾有の大混乱に巻き込んだ当の国が、火事場泥棒のような行動をとれば、周りの国の反発は必死だと思うのだが。。。


4、「戦狼外交」

中国の「戦狼外交」と呼ばれる積極的すぎる外交が、今、各国で波紋を引き起こしている。

例えば、「中国称賛の意を表明」することを求めた書簡を 各国に散らばる中国大使館が各国の政治家に送りつけ、アメリカなどの議員が反発、文書の公表にまで至っている。

元はと言えば中国発のコロナウイルスにより各国が大被害を受けている最中に、そういうものを送りつける神経は理解できない。

しかし、どうやら、このあまりに偏った自己主張に基づく好戦的外交は、共産党政権のプロパガンダとして、国内ではかなり成功しているようだ。
中国の SNSなどで「戦狼外交」という言葉がかなり使われ、愛国心を刺激している。

この言葉の元になった3年前に公開されたアクション映画「狼戦士(Wolf Warriors)」の内容はこうだ。

退役した人民解放軍・特殊部隊の司令官レン・フェン(Leng Feng)は、戦車で武装したアフリカの傭兵部隊と自分で作った武器で死闘を繰り広げ、彼らのボスであるアメリカ人を殺害する。

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このアメリカ人はひどい「人種差別主義者」という設定だ。現在アメリカ全土に広がっている反・黒人差別のうねりを見ると、妙なところでタイムリーだと感心する。


ただし、広州で働くアフリカ系の労働者が国際問題になり、国内でウイグル人を筆頭に50をこえる少数民族を差別し、ひどい待遇においている中国人に、それを非難する資格があるとも思えないが。


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また、人民解放軍の戦艦がアフリカの、疫病のパンデミックで苦しんでいる中国人を救出するシーンもある。それも、妙に今という時期にタイミングが合っている。

レン・フェンは、アメリカとその同盟軍を打ち破り、中国人とアフリカの難民を救出する。
この際、中国の医者が命を犠牲にして作ったワクチンを、中国人だけでなく、彼らのアフリカ系妻やアフリカ系労働者にも“寛大”に分け与えるのだ。

中国はアフリカへの進出を強めてきたが、現地では、差別を受けているアフリカの人々の反発の声が上がっている。どうやら、その辺のイメージ回復も狙っていたようだ。

しかも、彼らは「国際法」を極めて忠実に遵守し、敵を攻撃するミサイルは、戦艦の通信員が「国連からの発射承認が得られました!」と報告するまで、発射されない。

(実際にその通りだったらどんなにか良かったことだろう。日本人も、東南アジアの人々も、今よりはるかに心穏やかに暮らせたに違いないのに。。。)

かくして、映画の中のレン・フェンと中国人民解放軍は、自国民とアフリカの人々を“寛大”にも平等に扱い、国際法を遵守しつつ、アメリカなどの敵に勝利を納めるという素晴らしい英雄談になっており、シリーズ化されている。

公開されたときには感激した観客が自発的に(?)中国の国歌を歌い始めた、という後日談まで報道されている。


5、「まとめ」


実際の国際関係や報道をきちんと見ている西側各国の国民から見れば、疑問符だらけのこの「狼戦士」という映画だが、中国での人気は高い。

実際、呆れるほど居丈高な中国の外交手法は各国の反発を呼んでいるが、グーグルや FB、ツイッターやなどの西側の自由な SNSからほぼ完全に遮断された中国国内の人々には、自尊心をくすぐり、愛国心に燃える、という、現政府にとっては非常に好ましい効果をもたらしているようだ。

しかし、この自分の国に関する認識のズレは、とても危うい。

こういうプロパガンダを日常的に見せられている中国国民は、実力以上に自国が強いと考える。

本来なら、海外の環境が見える立場にいるはずの指導者たちも、国民からの圧力などに影響を受けて周囲を見る目が曇ることもあるだろう。

それどころか、国内からの圧力に負けて、危険を承知しながらも、必要以上の強硬姿勢を打ち出さざるを得ないところに逆に追い詰められる可能性すらあるからだ。

南シナ海に、一方的に防空識別圏などを設置しようとしているのも、危険な賭けだ。地域諸国だけでなく、アメリカなどをも過度に刺激しかねない。

インドとの間で、双方とも五千人を超える兵や戦闘機を出し、睨み合いが続き、この一月で数回、発砲事件が起こっているのもその一端だ。
こういう場所では、小さな偶発事件が大事につながりかねない。

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                           (写真はAFPより)

今回のコロナ禍で、アメリカの脆弱さも浮き彫りになり、黒人差別をめぐる経済や社会の歪みもはっきりと見えてきたが、それ以上に危険な綱渡りをしている中国の姿がくっきりと見えてきた。

感染初期の杜撰な対応、情報隠蔽、多くの国で顰蹙を買うことになった「マスク外交」、そしてピンチをチャンスに変えようとした好戦的な「戦狼外交」―――これら全てが重なって、世界中に、中国に対する不信感や嫌悪感を広げてしまっているような気がする。


この二大国の状況は、ともに日本にとっては不安を呼ぶ物だ。
何しろ双方とも日本とは隣国。
経済も安全保障問題も、日本に直結してくる。

こうして見ていくと、コロナ後の世界は、波乱に満ちたものになる予感がする。

ではでは、静かで心穏やかな週末をお過ごしください!😉💕

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