初めての羊の毛刈り⑴

去年から羊を1頭飼っている。

なぜか。

羊から、羊毛がどうやって作られていくかを学びたかったから。

石徹白洋品店という服屋を始めたのが2012年。
服作りに関われば関わるほど、その原材料の背景が知りたくなる。

それで、これまで、様々な「原料」に関わるものを育ててきた。

まずは、絹をとるためのお蚕さん。

お蚕さんは昆虫なので、正直、最初は抵抗があった。幼虫なんて、触れるかしら・・・ましてや、手のひらに乗せるなんて!と思っていたけど、始めてみると、なんて可愛らしい生き物なんだ!と思うように。私にお蚕さんの育て方を教えてくれたYさんは、「お蚕さんは、人がシルクをとるために品種改良を重ねてきた子たちだから、人が愛着持てるようにできているのよ」と言った。

お蚕さんの歴史的背景も含め、そして、糸をとりやすいよう長い年月をかけて改良が重ねられてきたことも実感した。一方で、無数のお蚕さんが必死で口から吐く糸で作る白くて美しい繭から糸をとらせてもらうという絹の貴重さを深く理解した。

今は学び程度に年に1度だけ、少し育てているのだけど、それだけでも絹に対する意識がずいぶん違う。毎年できる限り続けて行きたいと思っている。

そして、コットンのための棉花も育てた。

これは2年くらいで挫折した。なぜなら、この石徹白の土地は棉花にとっては寒すぎて、コットンボールが弾ける前に冬が来てしまうから。そういえば、石徹白には自家製の木綿布は残されていない。ほとんどが外から買ってきたもの。戦後のGHQによる指導のもと禁じられた大麻の栽培が、それまで衣料の自給のために長くされていたものだった。

麻の栽培に興味を持ったこともあるし、市内で麻を育てたいという人たちのムーブメントも一時期はあったけれど、大麻の栽培は現状では国内においてはハードルが高く、計画も何もない状況だ。

6年前からは、藍染のための藍の葉っぱを栽培している。

まだまだ全く量が足りないけど、藍の葉っぱを育てるところから試みていて、すくもの仕込み、藍甕への仕込み、自社での藍染など徹底的に背景がわかる形でやっているし、これからもやっていきたいと思っている。

藍の栽培はそれほど難しいことじゃないんだけれど、農家ではない私にとっては畑仕事はなかなか大変。かつ、とにかく量が必要なので、収穫量をあげるために四苦八苦し続けている。(子育てが落ち着いたらもうちょっと畑に時間を割けるのかなあ、、、)

とはいえ、それほど苦心なく簡単に育つ緑色の藍の葉っぱによって、あれほどの藍の色が現れてくるとは感動的で、不思議で、先人の歴史の積み重ねの上で試行錯誤して生み出されてきた技術にいつも感銘を受けている。

染めは、藍染に加えて草木染めを。周りの植物から染めている。

私たちの染めは、周りにある植物を使うので、どこかから輸入したものではなくて、背景がわかっている。どんな場所で、いつどのような花を咲かせる植物が、こういう色を出してくれるのか。その神秘的な変化にいつも心奪われる。

生のものを使うことが多いし、自分たちでその時に自生しているところから採取してくるので色は安定しづらい。採取の季節によっても、採取した場所の土質や日の当たり方によっても出てくる色は違う。けれど、農薬もいらないし、普段誰も必要としないもの(というか、むしろ厄介者)を中心に染め材料にしている。

栗のいが、杉の葉っぱ、セイタカアワダチソウ、折れた桜の枝など・・・背景がわかる上に、経済的に不要と言われてきたものを色という恵みに取り出してものづくりができることにも喜びを感じる。


こうして服作りのための学びにもなっている「材料から知る」、というスタンスは、私自身が単純に好奇心でやっている部分もある。

でも、それだけではなくて実際に、こういう学びなしでは、アパレル業界が抱える様々な問題(大量廃棄・産業別でCO2排出量2位、化学染料による環境汚染、児童労働などなど)を解決するどころか、それに便乗したものづくりしかできない・・・それだったら何も作らないほうがいいんじゃないか、とさえ思えてしまう。

だから、石徹白洋品店として、当然のこととして、これからの明るい未来・希望ある未来を築くための服作りを続けて行きたくて、服作りに関わる私たちが、まずは学ぶことを第一歩としている。

学びがあると、作るものが変わってくる。作る物の量や質、デザインなども変化してくる。それが、物を責任持って作って、責任を持って売る人の役目であると思っている。


ここからようやく羊の話。

私は肌が弱いので、ウールはチクチクして、着られないとずっと思ってきた。実際に私が今まで触れてきたウール製品は、首回りや手首に触れるとかゆいだけではなく痛いこともあって、ずっと避けてきた。

でも、デザイナーをやってくれているひとみちゃんが、上質なウールだったらチクチクしませんよ、と教えてくれて、確かにそれは本当だった。

カシミヤ並の細い糸を引くことのできる紡績技術を持つ国内の工場さんにお願いして、去年初めてウールの製品を開発した。ものすごくあったかくて、しかもチクチクしなくてふわふわで私でも着れた。獣毛って体を寒さから守ってくれる素晴らしい素材だと感じた。

石徹白は寒いので、一時期だけれど戦後、物のない時代においては羊を飼って、毛を刈り取って、それと交換に糸を手に入れ、セーターを編んでいた、という方もいる。だから、この土地で羊の飼育と、ウール製品の生産というのは理にかなっているのかもしれない、と思って始めた製品開発だった。

でも、実際、どうやってウールができるのか私は知らない。羊飼いのDVDを見たり、本を読んだりしたけど、いまいち具体的な想像ができない。

だったら、羊を飼ってみよう、と思い立った。知りあいづてで教えていただいた県内の牧場の方から羊を分けてもらったのが去年の春。1年経て、ようやく毛刈りができるようになったのだ。


そうそう、毛刈り自体は1日で終了したのだけれど、それ以上に大変なのは、羊という動物を育てること。毎日掃除をして、餌を食べさせること。私は1頭しか飼っていないので(+ヤギ1頭)全然比べ物にならないと思うんだけれど、羊をウール生産のために飼っている人たちの規模を考えると、物凄いこと。

チベットの羊飼いのドキュメンタリー映画を見たけれど、最近は羊飼いが減っていると話していた。皆ホワイトカラーの仕事がしたくて街に出て行きたいから、羊を飼うなんて大変な労働は、報酬に対して見合わないと思う人が増えてきたからだ、という話だった。

1頭であっても羊を飼っている私はものすごくそれを理解できた。かつ、ここより厳しい環境(草が生えにくく、常に移動しなくては餌が足りないやせた土地、かつ寒さが厳しく越冬が大変な地域)で100頭以上の羊を育てている人のドキュメンタリーだったのだ。

1頭を1年間(実はこの冬は、近くの方に預かってもらっていたから、実質半年ほど)飼育して、そして毛を刈りとる。それで、2枚半くらいのセーターをとるための羊毛が取れるだけ・・・。

それって・・・市場に出回っているウール製品の量と、そして価格をみるとめまいがする・・・。と感じる。

毛刈りの話の続きはまた次のnoteにて・・・


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