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未来形の御神輿、はじめの一歩

今年は特別な年。様々なイベントの「やり方」が一変した。密にならない、大声を出さない、飲食を伴わない。そんな形になっても、できることから少しずつイベントは再開していった。

ところが。
御神輿の渡御は、こうしたNG条件をすべて満たしてしまう。かつては、これらはよきこととされていたから。人々が密になって一体になり、重たい御神輿を上げる。お互いを鼓舞して、リズムを合わせるために声を出す。御神酒をいただき、同じ賄いを食べる。それが祭り。だから、今年の御神輿は、どんな町会でも上げることができなかった。

ただ、そこで「何にもしないまま」ではいられなかった人たちがいた。リモート渡御という形で、オンラインで御神輿を上げたのだった。

一本立睦リモート渡御2020

リモート渡御

御神輿の渡御によって、通った道が、家が、町全体が清められる。渡御の大事な目的。それと同時に、重い御神輿をともに上げることで、町内に住む人のつながりを作り、きずなを確かめ合うことが目的でもある。

重い御神輿を上げるためには、相当な人数が必要となる。町内の若者だけでは足りない場合もある。だから、ふだんから交流のある町会同士が、お互いに手伝い合う。

御神輿、祭りの目的が、「つながり」や「交流」にあるのなら、オンラインでもできるかもしれない、それが発端だった。

というわけで9月20日、本来なら東京都葛飾区にある立石熊野神社の例大祭の日に、リモート渡御を行ったのが、一本立睦会(いちほんたてむつみかい)。

当日は、おととしの渡御の様子をみんなでオンラインで見て語る、というスタイルで行われた。これ、通常の御神輿と近い行動でもある。わいわい語り合いながら、よっしゃ担いでくるよ!と行ってくる。今年は、その担ぐということだけができなかった、ということ。

当日、いくつかの町会ごとにパート分けしつつも、毎年顔を合わせている多くの人たちが一緒に「担ぎ」にきてくれた。
実家でリラックスしているひともいる。
数人で誰かの家に集まっての参加もあり。
拠点にしている店に集まっていた人たちもいる。
遠く離れた場所からの参加。
赤ちゃんが生まれたばかりの家庭。
仕事の合間に顔を見せてくれた人も。

もしリアルに祭りが開催されていたら、顔を合わせられなかった人たちもいた。
今年は、インターネット上の場所で、御神輿の場で合わせるいつもの顔が集まった。

一本立の会長はいつも、御神輿を担ぎに集まった人たちに、まずこう声をかける。「おかえりなさい」。
年々、担ぎ手が減っている町会は多い。でも、気持ちだけでもつないで、つながっていたい人たちがいる。
自分の出身地ではないけれど、またあそこに「帰る」そんな気持ちでつながっている場所がある。

古い歴史、しきたりのある御神輿を担ぐということ。新しい技術で人と人とつなぐこと。相反するような事柄はいつでも、発想があってはじめの一歩さえ踏み出せたら、いつか、いつのまにか、グラデーションになってつながっていく。

ことしの祭りはできない。でも何かしておきたい! そんな思いが集まって行われたリモート渡御。もしかしたら未来の御神輿の形の一部になっていくのかもしれない。
できない、と思ったことを、とにかく小さい一歩でいいからやってみる。それを果たした一本立睦、かっこいいぞ!と思っている。


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