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カニを捨てて歩き始める⑦ 病気をしたら何にもできない、というのはウソ。では「健康である」とはどういうこと?

病気をしてから、あるところで出会ったことばに引っかかった。
「病気をしたら、何にもできない、だから健康のために○○をしましょう」というような文脈だった。
病気の反対語は健康なのか? それはほんとうか? そんなことをずっと考えてしまったのだ。

私が得た乳がんという病気は、内臓疾患ではないので食事制限はない。
一般的には乳製品がよくないとは言われているけれど、主治医からはそうしたことも一切言われていない。
これまで通りにしてくださいと言われた。
何かを急にたくさん食べたり、あるいは何かを急に食べることをやめたり、そういうことはしないでください、と言われただけだった。
乳製品がよくないんだって、という話は、乳がんの先輩から聞いたのだった。そのときにも、その人は「絶対食べちゃダメ、じゃあないのよ。がまんしてというのではなくて、ほかに替えられるものがあったらそっちを選んでみて、ということ」と言っていた。

乳がんが見つかるまでも見つかってからも私は、多少運動不足だったり、飲み過ぎ・食べ過ぎることがあったり(毎日ではない)、血圧が高かった時期があったり、更年期の症状があったり、ということはあった。仕事ですごくストレスを感じることもあった。おっちょこちょいだから、しょっちゅうケガはする。
それでも、おおむね健康だと思って生きてきた。
でも、小さい乳がんは見つかったのだ。そしたら「病気」の人ということになった。
なのにドクターは、今までと生活を変えなくていいという。実際の生活も、体調も特には変わらなかった。
手術後にホルモン薬を服用し始めてからは、少しだけ痒みなどの副作用っぽいものもあったが、それも今はあまり感じなくなった。

元気?と聞かれてどう答えたらいいの?

私の乳がんのことを知らない、久しぶりに会う人に「元気?」と聞かれると返答に困ることがよくあった。
別に乳がんのことは隠していないので、関係性によっては正直に話す。
話すほどの関係性ではない場合は、特にはこの話題には触れないでおくというくらいだ。
いずれにしても、「体調はいい」ということは伝える。

元気というのは元の気であって、本来、体の調子がものすごくよいときのことをいうのではなくて、フラットな状態、良くも悪くもないことなのだ、ということを古武術の稽古の中で習った。
元の気よりも状態が悪ければ、元の気に戻るように手当てするし、高揚しすぎているような場合には、元の気となるように鎮静させる。そういうことらしい。

だから、自分が感じている体調としては「元気」なのだけど、乳がんがあるとわかり、手術のあとでも治療中なのだから「健康」とは言えない、というなんだか居心地の悪い感じなのだった。

健康とは何か、の答え

そんなことをずっと考えているうちに、放射線治療も終わり、日焼けあとのような色素沈着も少しずつ薄れてきたような感じになり始めた。
相変わらず、再発防止のためにホルモン薬のタモキシフェンは毎日1錠飲んでいる。
鼻水が止まらなかったり、おなかの調子が悪い日があっても、発熱もなく寝込むようなことはないから、おおむね「元気だ」とは言える。

病気をしたり、感染症に罹ったり、ケガをしたりすることは、100%は避けられない。
そこから、治療をしたり休養をとったりして、回復していくこと自体が「健康」なのかもしれない。
健康とは、回復力があることなんだなというのが、今の答え。
回復力を保持するために、栄養をとるのだし、循環をよくするために運動をして、休養をとる。

最近よく聞くようになった「レリジエンス」ということばを、最初に自分の語彙として獲得したのは、2019年だった。そのときに編集していた本で、頻繁に登場する語句だった。
何かが起きても、なんとか適応してやっていく力、回復力、復元力。
いまどきっぽいことばで言えば、健康とはレリジエンスなんだな。

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