はじめに/伝えるということ

私は、20代の終わりにOLをやめてフリーのライターとなり、紆余曲折を経て、今は小さな編集プロダクションを経営している。

自分で取材をして書くこともあれば、書籍(主に小説)の編集をすることもある。文字を使って人に「伝える」のが私の仕事だ。

その私が、世界が新型コロナウイルスによって危機に陥って思うことは「伝えること」の大切さと難しさ。

小さい頃から私の周りは本を読むのが大好きな人であふれていた。でも、ある時、10歳以上年下の女性に「本って、文字ばっかりでつまらくないですか?」と言われて愕然とした。世の中には文字を読むのを苦痛に思う人いることを初めて知った。

今、この文章を読んでくれている人は、多分、もともと文章を読むのが好きな人、好きでなくても苦にならない人だろう。そういう人には、私が考えたこと、感じたことを文字によって伝えることができる。でも、どんなに気持ちを込めて言葉をつづっても、そもそも、文字を読むのが苦痛だという人には情報も思いも届けることができない。

新型コロナウイルスの感染を拡大させないためには、症状が出にくいと言われる若い人たちが、迂闊に出歩いてウイルスを拡散させないように気を付けることが不可欠だと言われている。でも、残念なことに最近のニュースでは若い人たちがお花見をしたり、居酒屋で飲んだりしている映像を見かける。

若い人がいけないと言っているのではない。彼らにきちんとした情報が届いていないのではないか。届いていたとしても彼らの心に響くような形になっていないのではないか。それが心配だ。

新聞やテレビのワイドショーを見るのは中高年以降の世代がメインで、若い世代の情報は主にネット動画やニュースだろう。彼らは、一見、自由にネットで情報を探すことができるように見えるが、必ずしもそうではないと私は思っている。

ネットの情報は知らない間に選ばされているから、一度、何かの記事をクリックすると、それに関連した情報が次々と表示される。結果として、自分の興味のあることの周辺情報はどんどん蓄積されるが、興味のない情報からはどんどん遠ざけられる。

新型コロナウイルスに関してもそうだ。怖くて気になる人が、ウイルスに関する記事を読む。すると、内容が正しいか誤っているかに関係なく関連記事が次から次へと表示されて、それを読む。読むからますます怖くなって、買いしめに走る。

反対に興味のない人たちは、ウイルスに関する情報に触れる機会が極端に少なくなるため、平気で外出もするし、手洗いもおろそかになる。

これは情報の発信側にも問題があるように思う。多くの人に確実に性格な情報を伝えたい場合、どうするのが一番いいのか? SNSに書き込んだり、メディアで発信したりするだけでは、届かない人たちもいるのではないか?

伝えることを仕事にしている私が、今やれることはなんだろう?

今回のことを機会に、「伝える」ということをテーマに時には真面目に、時には全力でおちゃらけて文章をつづっていきたいと思う。これは文章を書くテクニックについてではなく、読んでくれた人の声を聞き、「伝える」とは何か、その答えを私が見つけるための記録です。


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