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長男の修学旅行の話 1

高2になって

高校になってからはできるだけ登校し、授業ごとの差はあれど、教室に入るようになった長男。
しかし、元々のコースからも変わり、知っている友達はほぼいなかった。
高1を過ごし高2になっても、その状態は変わらなかった。
中1の3学期以降の2年2ヶ月の空白の時間、当然と言えば当然だが男子とはいえ、コミュニティもほぼできていた。

長男は、周囲の同級生と世間話程度はするが、新たに友達を作ろうと自ら動くことはなかった。
それどころか、私からするとそれを避けているように見えた。
2回の不登校を経て、彼は恐ろしいほどに自己肯定感を失っていた。
「自分なんて」という気持ちが何よりも先に立ち、もし自分から友達を作ろうと動いて、うまくいかなかった時の失望を想像したのだろう。
そんな辛い思いをするぐらいだったら最初から友達なんて作らないと思っているようだった。

2回も学校に行けなくなった自分。
本来なら中学校も卒業できるはずのなかった自分。
そんな自分を受け入れてくれる友達なんていないと思い込んでいたのだ。

「行くわけないでしょ」

修学旅行は高2の夏、4泊5日の予定だった。
担任のN先生は、私とは個別に連絡を取ってくださっていた。
「ちょっと行くのは難しそうですかね・・・本人、やっぱり不安ですよね」
「そうですね、さりげなく本人に確認してみますね」
夏が近づいてくる頃、私は軽い調子で修学旅行について聞いてみた。
しかし長男は「何を言っているのか」というくらいのそっけなさだった。
その時は、そっかそっかと返すことしかできなかった。

いよいよ修学旅行に関する手紙が配られ、最終確認の時期がきた。
ここで行くか行かないかを決めないとキャンセル料も掛かってくる。
私は努めて抑揚なく長男に聞いてみた。
「修学旅行、やっぱり行かないの?そろそろ最終決定だって」
「は!?そんなん、行く訳ないでしょ」

私自身、なぜこの時だけ自分の歯止めが利かなかったのか、いまだに明確な理由はわからない。
しかし、長男の答えを聞いた瞬間に私は涙が止まらなくなった。

私が長男に変なプレッシャーをかけてはいけない。
長男に気を使わせてはいけないし、これ以上傷つけたくない。
そう思って静かに問いかけていたはずなのに、瞬間的に感情が爆発した。

中学の修学旅行はコロナでなくなった。
「みんなには悪いけど僕と揃ったね」と少し安心していた長男。
高校の修学旅行は、友達と楽しく行きたかったはず、本当は楽しい思い出を作りたかったはずと思うと、長男が不憫でどうしようもなかった。

ひたすら泣いている私の様子を見て、長男は相当驚いていた。
基本的にはよく泣く私ではあるが、学校や行事に参加できないことに関して、長男には泣いている姿を見せていなかったから。
困惑した表情を浮かべる長男。
そりゃそうだ。ごめんね・・・と思っても、涙がいっこうに止まらない。

「・・・わかったよ。行くってば」
長男が言った。
「どうなるかわからんけど、行ってみるわ」

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