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相手の本質を汲み取ってカタチにすること・佐藤可士和展

日本を代表するクリエイティブディレクターのキャリアを振り返ると同時に、平成から令和にかけての日本のエンタメとビジネス界の様々な物語が集約されたような企画展で、めちゃくちゃ楽しかったです。就活中にいけて、よかったなあって、思ったり。

以下、写真はありませんが若干のネタバレが含まれます…

そういえば展示会って、ネタバレっていう概念あるのかな…

こどもの感性を冷凍保存すること

個展の冒頭から、一枚の絵を食い入るように見つめちゃいました。クレヨンと絵具を使ったアリの大群の絵。小学5年生の頃の作品だそうです。描写力、色使い、そして今にも飛び出しそうな迫力に驚きました。

ステップワゴンのクリエイティブしかり、ミスチルのアルバムデザインしかり、チビレモンしかり、佐藤可士和さんの作品にはこどもっぽいタッチのイラストを使ったものがあります。本人のイラストだそうです。

大人に画用紙とクレヨンを渡して、「子どもっぽい絵を描いてください」といっても、本当にこどもが描くような絵をかける人は少ないと思う。それができるってことは、プロとしてデザインセンスを洗練させる傍、こどものころの自由な感性も残していたってことですよね。感動しました。

「佐藤可士和さんっぽいやつ」…だけじゃない作品たち。

勝手なイメージですが、私のような一般人が思ういわゆる「佐藤可士和っぽさ」といえば、ユニクロのロゴとかsmapのキャンペーンに代表されるミニマリズム系と、前述した子どもの落書き系の二つが想像されるんじゃないかと思います。でも今回の展示には、それには当てはまらず「へえ、これも手掛けてたんだ」という発見が多くありました。

相手の本質を抽出して可視化する、という仕事をする中では、自分自身の美意識を保ちつつ自我を優先しないさじ加減が大切なのですね…

クライアントのいるデザインの仕事と、自らのスタイルを確立して価値を高めていくアーティストの違いって、こういうことなのかなあと思ったり…。

平面の力。空間の力。

平面のグラフィックデザインと同じくらい、空間づくりの奥深さも感じた個展でした。

前半の部屋が、いわゆるグラフィックデザインというかアイコニックなポスターや作品を次々と生み出してきた時代。後半になるにつれ、よりブランドづくりそのものや、空間のプロデュースに取り組むようになった最近の作品の写真や模型が展示され、キャリアの進化が感じられる構成になってて興味深かったです。

ふじようちえんやくら寿司浅草店のような、どうしても実物を展示できない作品が、映像やパネルで紹介されていましたが…アウトプットのフォーマットが変わっても、「相手のやりたいことを汲み取って、みんなに伝わるカタチにする」という仕事内容は変わらず必要とされているのだなと気づくことができました。

そして、コロナ禍の東京だったからこそ特に、フィジカルな空間の力を信じ続けたくなりました。

UNLimited Spaceについて

実物を展示しづらい近年の作品群の中で異彩を放っていた体験型展示がこれ。楽天とのコラボで新しく製作された作品らしく、この個展のなかでも私が特に印象に残った展示です。

暗い部屋のなかに大きなスクリーンがあり、楽天フォントのワードクラウドが来場者のシルエットに合わせて動く…というような趣向のもの。デジタル空間で私たち人間の生活がデータとつながっている様子を見せてくれる、鏡のようでした。

これが結構面白かったです。で、ちょっと怖い。音も不気味に感じた。

怖いのにもう一回入っちゃった。

パソコンが自分を丸裸にしているような…そして自分からデータがどんどんこぼれ落ちていくような感覚がしました。

説明がきには「スリルを味わって」と書いてあったけど…個人的には、バーチャル世界で自分ががデータとして把握され続けることって、若干の怖さも孕むんだなあなんて、勝手に感じてしまいました。

日本ビジネス界を動かした個展

とにも、かくにも。風刺作品でもなんでもなく、日本を代表する一流企業のPR広告とかコーポレートロゴの巨大オブジェが整然と並んでいる姿は圧巻でした。各企業のストーリーとクリエイティブの力を両方多面的に感じるすごい空間が広がっていました。

そして自身の個展の記念グッズまで、クライアント企業のPRの場に活かすあたり…。メインの展示を見終わり、さあ物販コーナーかと思った目の前にUTストアブースが出現した時は、「さすがユニクロ、抜かりないなあ…」とちょっと笑ってしまいました。

ここまで多くの一流企業を動かした企画展もそうそうないと思う。まさに「日本ブランドの担い手」として活躍されてきた歴史を感じました。自分の個展すらも器にして、クライアントのブランディングに活かす佐藤可士和さん…凄まじい…。


私はひとまず、自分の部屋を片付けるところから、始めようと思います。



最後に…

公式チャンネルを発見したんですが、人知れずめちゃくちゃ豪華企画が公開されてました…めちゃくちゃ面白いです。個人的には、展示を見た後に動画を見ることで、より理解が深まるかなあと感じました。


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