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私の履歴書 介護のお仕事編③-11

フランチャイズ系泊まりのあるデイサービス

「助けて!」

日々人手が足りない毎日…
業務に追われ
まともな休みが取れない…
月に夜勤は増え続け11回もこなす…(^^;

たまの休みが取れたら…疲れて寝る…
楽しみはたまに同僚と飲みに行く事ぐらい。

休み明けの日勤勤務の朝早く
携帯が鳴る…
夜勤の子からだ…

新たに職員になったWちゃん…
電話に出ると

「主任!助けて下さい!」

「わかった、今すぐ行くよ!」

時間は5時…電車も幸い動いている!
(シングルマザーな私は車を購入する事が出来ず…)
電車で向かった…

施設の扉の鍵を開けて…
玄関に入る

目の前に立っていたのは

包丁を片手に持った男性利用者Jさんだった…

(え!包丁持ってる!どうしよう…)

「Wちゃーん!大丈夫?無事~?」

台所に居るWちゃんに声をかける。

「ハイ!大丈夫です~!他の利用者さん、奥の部屋に避難してます。」

(良くやった!Wちゃん!)

廊下に静かにたたずむJさん…
重度の認知症…
普段の様子は、穏やか…
帰宅願望は強い…一度スイッチが
入ると、手が付けられない。

穏やかな日が続いてたのだが
スイッチが入ってしまった様だ…

「主任、ごめんなさい、こんな朝早くに。」

Wちゃんは、ろくに休みが取れてない私に気を遣う…部長に電話したのだが、出なかった…との事。

(何の為の上司か…)

心の中で中指を立てたのは言うまでもない。

とにかく…Jさんを何とかしないと…
靴を脱ぎ…Jさんに近づく…
無反応に見えるJさん…言葉も発せない。

「おはようございます、Jさん。朝早いですねぇ、何処かにお出掛けですか?」

声をかけた。
Jさんは、無言で廊下の左端に寄って行く。
私とは距離を取りたい様子だった。

「あれ?包丁持ってますね、朝ごはん作ってくれたんですか?嬉しいなぁ、皆で一緒に食べましょうよ。」

更に声をかける。

Jさんの表情は変わらない。

「もう、包丁要らないですよね?仕舞いますから預かっても良いですか?」

思いきって手を出すと
そっと包丁を渡してくれた。
廊下の上部に作り付けの棚がある…
私はそこに包丁を置き…

「朝ごはん、皆で食べましょうよ。今、用意しますから、ここで座ってお茶でも飲んで待っててくれますか?」

静かにJさんが居間に向かう…

(あぁぁぁぁぁっ!怖かったよぉぉぉぉぉ!)

心の中で叫んだw

「Wちゃん、大丈夫?」
台所に向かうと…
床にぶちまけられた味噌汁と鍋が転がっている。

私「怪我ない?」
W「無いです…ごめんなさい、お味噌汁…」
私「何言ってるの!怖かったでしょう。」
W「怖かったです…」
Wちゃんは、今にも泣きそうな顔をしていたが、
我慢していたと…後から聞いた。

Wちゃんは、床の掃除をして貰って
お味噌汁の作り直し
私は他の起きている利用者さんの誘導と
Jさんの様子を見ながら、お茶を用意する。

Jさんは、発語が出来ない…
思っている事はたくさんあるのに…
伝えられない…
(帰りたかったんだろうなぁ…)

こまめに声をかけ、様子が落ち着いて来たタイミングで上司に報告した…。

いくら少ない人数でも、状況が状況…
重度の認知症なら夜眠らない事もある
昼間より夜間の方が大変な事が多い…
中にはぐっすり眠る(投薬によって)人も居るが…

泊まりの人数は5名までなのに…
それ以上の受け入れをしている

職員1人では見切れない

とにかく、ルールを守って貰いたい。
そう上司に告げた…
軽く「わかった、わかった。」と言われ…
その後も上司は施設に来る気配は感じられなかった。

Wちゃんは、責任を感じていた。
「私がしっかりしてれば…主任が助けに来てくれなかったら、どうなっていたのか…」

落ち着いて話をした時に泣き出してしまった。 

「そんなことは無いよ、誰が夜勤でもきっとこれは起こったと思う。怖かったよねぇ、頑張ったよ。ありがとうね。ホントに誰も怪我しなくて良かった!」
Wちゃんは、その後も頑張って勤め続けてくれた。辞めちゃうんじゃないかなと…少し心配していた。

気になるJさんだが…
その後…施設入所が決まった。
奥様が我がデイサービスに来られ
入所施設の職員さんも来て
その場で入所の調査をした。

立ち会った私が見たものは…

「ごめんなさい、ごめんなさいね。」
ご主人のJさんに泣きながら抱きつく奥様の姿だった。

「本当に申し訳なくてね…捨てるみたいで…。」

この奥様の言葉…今でも忘れられない。

「皆さんには、本当にお世話になりました。心から感謝しています。ありがとうございました。と、続ける奥様…

「お宅で1人でご主人を見るのは…大変でしたよね、だからこその「施設」なんです。」
そう私は奥様に告げた…これで良かったのか…な。
複雑な気持ちで心がモヤモヤした。

入所までJさんは、ショートステイ(※1)を利用すると言うことで、その時に入所施設の職員さんと共に我がデイサービスを後にする…

家族が1人で見切れないのに
介護職員だって1人では見切れない

夜勤は2人体制が良い…
(きっとそう言っても…
聞いてくれないんだろうなぁ…
せめて、困難事例断ってくれないかなぁ…
5人までの泊まり人数守ってくれないかなぁ…)

ボンヤリそう思いながら
Jさんが乗った白いバンを見送った。

(どうか、穏やかに…過ごせます様に…)

(※1) 高齢者の心身の状況や病状、その家族の病気、冠婚葬祭、出張等のため一時的に介護をすることができない、または家族の精神的・身体的な負担の軽減等を図るために、短期間入所して日常生活全般の介護を受けることができるサービスのことである。

介護のお仕事編③-12に続く

☆最期までお読み下さり感謝します(*-ω人)
    あり得ない事が起こると…冷静になる事を
   この時初めて知りました。
   今後とも、宜しくお願いいたします♪︎



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