「朝(あした)に笑えば夕べに死すとも可なり」人生をタフに笑い飛ばす教養 199/360
※「教養のエチュード賞」、応募作品です。
バタコのご近所さんで心友のジョーさん (70代女性) が、末期がんで
ホスピスに「死にに」行ってしまったハナシを先日書きました。
やや「えぇハナシ」に寄せ過ぎてしまった感もあるので
生身のジョーさんのバイタリティ、
アメリカ出身ながらイギリスで嫁いで、
「名門パブリックスクール卒」かつ軍人だった夫の妻として必要になった
イギリス流「タフな教養」、そして
バタコが愛してやまない「地に足の付いたクレイジー」さをたたえながら、
笑いで締めくくろうと思います。
※今回は一部、下ネタありですので苦手な方はご遠慮ください
あの朝の状況
最後に会った日の朝、
患者輸送車の到着予定時刻、少し前にご自宅にあいさつに立ち寄った私は
ジョーさんと、先客のご近所ダフネさんの会話の輪に加わりました。
登場人物:ダフネさん
ダフネさんは推定65歳、これまでずっと独身。
イギリスのオペラハウスで活躍した本職のオペラ歌手だったそうです。
彼女は (バタコが思う) 現代イギリス女性の (ひとつの) 典型例
「人並み以上の教養や才能を持ち
誇り高くタフで何事にも動じないタイプ」です。
晩さん会で異性と会話が続くために必須な教養?
そもそも (バタコが勝手に名付けてみた)「タフな教養」 ってどんなものなんでしょうか?
労働者階級の夫婦2組が集まると、男性同士はサッカーの話、女性同士はショッピングの話で盛り上がり、中流階級だと夫婦同士で話すが、上流階級はディナーの席順は必ず男女交互となり、夫婦以外の異性と会話を楽しむのが定石。 コリン・ジョイス「『イギリス社会』入門」より
(この●●階級と言うのがそのままズバリ当てはまるというよりは、
グラデーションなような気がしますが)
改まったディナーの席では確かにこの「男性・女性が交互に着席する」というのはお決まりで
↓国賓トランプ大統領を迎えての晩餐state banquet
出典:王室公式YouTube動画
いまどき、この晩餐に出席した人が全員「上流階級」なはずはなく
色んな方が集っているわけですが、見事に全員が男女交互に着席してます。
(アメリカ側はトランプ一家の娘イヴァンカさんと夫、息子エリックさんと妻、など。イギリス側は王室の主だったメンバーや、メイ首相、政府要職のヒトビトや経済界の大物などが参加)
このような場に呼ばれることになっても恥ずかしくないマナーと矜持と
どんな異性と隣合わせになってもそれなりにスムーズにアドリブで数十分間、会話が続けられるのに必要なもの、それが
「タフな教養」とバタコは勝手に定義してみました。
男性に混じって、幅広い話題について丁々発止と会話をこなすハラの座り方
「やまとなでしこ」とはまたずいぶん違った
(日本の女性に例えると武将の妻みたいな?)
気後れしない度胸と、しなやかさが求められているのだと思います。
タフな教養に含まれるもの?
ちなみに田舎ではさらにこの上に
馬・犬・猟のようなキーワードが関わってきて、話題もタフです。
(基本的にこのような「動物」「自然」「いのち」にかかわる営みは
繊細さとタフさが同時に求められる場面が多いのではないでしょうか)
※田舎に邸宅を持つ貴族の妻。
ナショナルトラストで公開されている邸宅Chatsworthのオーナー
デヴォンシャー公爵夫人デボラさん (故人)
ご出身は「平民」です。 画像はアマゾン著書ページより
あるノーサンバランドの女性 (タイトル*持ち) が何気なくバタコに言ったセリフ
「このポニーの母は血統書付きだったのだけど
父は暴れ馬、血統書なんかない駄馬でねぇ
だから、この子も『制御しにくい』ところがあるのよねぇ」
*タイトルも、上は「女王陛下」「公爵夫人」から
Lady「閣下」や、職業に基づくDr. 等いろいろ
↑これ、都会派リベラルな人の口からは絶対でないような発言ですよね
つまり一歩間違えば優生学的な・・
しかし、馬の世界ではこれは常識なのか・・?
「親の素質はほぼ確実に仔に引き継がれる」
望まれる資質とは、
■御しやすくヘンに怖がりだったりせず
(例えば乗馬の障害競技で、馬が騎手の命令にもかかわらず
ジャンプを「拒否」すると大幅な減点です)
■乗り手と信頼感で結ばれ、指示通りに行動する
■もちろん足が速くてスタミナがあり、見た目も良ければさらに良し
「みんな仲よく生まれつき平等で。
運動会では公平を期するためにメダルなんかは廃止して」
っぽいリベラル左派な見解は蹴散らされる
独特の、カントリーライフ・弱肉強食な世界観。
※ジョーさんはコチラの記事で書いた通り
延命措置の無意味さを知る、テキサスの田舎育ちで、
飼い猫が病気になると「父は銃殺(≒安楽死)を選んだ」
と言うエピソードの持ち主。
イギリスの保守党支持者とくに年配層ではこのタフな世界観は健在な模様。
一方で、日本でも時々耳にする
「ノブレッス・オブリージュ*」のような硬派なチャリティ概念も根強く
*裕福で社会的に力のあるひとほど
寄付やボランティア活動をする義務があるという考え方
ウィリアム王子ハリー王子その父や叔父も全員・軍隊経験があるという
「ミリタリーな連帯感」も混じって
さすがに歴史の厚みがあるマルチレイヤ―な世界だと思ってます。
オペラ関係者は「EU残留派」?
また、ダフネさんがどこまで右派なのかについては、バタコは存じ上げませんが・・
オペラ愛好者やクラシック音楽業界全般では
■イタリアフランスドイツ (はじめ、大陸各国) への親近感
および
■演奏家が国境を越えて行き来する自由度の高さへのこだわりから
(若い世代・都市在住・リベラル派が支持基盤である) 「EU残留派」が多いような印象はありますが
彼女との会話を通して
「(基盤は) タフ・タイプだな」とバタコは思いました。
と、ここまでですでに息切れしそうですが、
実際の会話は短いものでした・・
笑って別れたハナシ
そんなダフネさんと、ジョーさんのあの朝の会話:
ジョーさん「いやもう、本当に食欲なくてね
な~んにも食べたいと思わないのよね、
この私がビッグマックだって欲しくないと思うんだから」
※テキサス出身のジョーさんは
ビッグマックファンのようです
ダフネさん「はぁ?どうしてビッグマックなんか食べたいと思うわけ?」
「私なんて最後にビッグマックたべたの
何十年前だっけ?
Le Grand Macabreっていうオペラに出演した時以来だわ
オペラ座のパトロンである●●公爵がね、
←「パトロン」は王族や貴族が務める
いわば『マスコット』的存在
←タイトル「公爵」は適当につけました
毎回、公開初日の夜には
舞台裏にお花を送ってくれる習わしだったんだけど」
「この公演の時はビッグマックが差し入れだったのよ」
注:le grand macabre = the big ‘mac’!?!?というダジャレ
macabreは「死神」っぽいメインキャラ
またこのオペラが変わった作品でねぇ
written out org**m オーガxxを再現した?みたいな
アリアを歌う羽目になったのよね
・・・といいつつ、5~6音符ほど歌うダフネさん (さすがプロ)・・
どんな作品なのか、YouTubeで探してみたら、
かなりどぎついお下劣?さでした・・
好奇心ある方は、4分05秒あたりから見てみてください、
※破廉恥?系統がイヤな方はスルーで!
そこから、ジョーさんが
「私はこの土地が好きよ。ゆかりの芸術家も居るし
そのせいか何なのか、寛容度が高くて
よそ者やはみだしものにとって住みやすい気がするの」
という持論を展開し
その流れでLGBT+Qあたりの話題が登場し
そこからダフネさんが笑い話を披露。
「私も子供の頃はそんな世界全く存在すら知らなかったけど
ショービズに入った途端そっちのヒトばかりで
早々に、知る羽目になったわね」
「にしてもさ、私、本当にウブだったっていうか、
女性に言い寄られてたときも
男性にアタックされてた時も
ち~っとも気が付かなくて、スルーしてたらしいのよ」
「女性の音楽教師がなんどもタダで補講レッスンしてくれてたの、
私の『才能』に惚れて、サービスしてくれてたんじゃなくて
どうも私に気があったみたいなのよね・・
後から知ったんだけどさ~」
「あとね、もう何年も経った後で、ある男性にも
『あの時言い寄ろうとしたのにちっとも相手にされなかった』
って言われたんだけど私、全然、気が付いてなかったのよ!!」
ってみんなで笑ったところで
ジョーさん「あ~あ、笑うのが一番ね。
朝に笑えば、その日はいちにちOKになるわよね」
と、言っているうちに
ジョーさんのお迎えの車が来て
そこでお開きになりました。
じゃあね、またねってハグして別れたきり、
今に至る・・
タフで、笑うのが大好きで、悲しい話をするときはおおらかに涙を流す*
情愛に満ちたジョーさんと
「朝に笑えばその日は一日OK」
の言葉通りの、朝の思い出です。
*イギリスのタフ女性は人前では
あまり泣かないかも・・
そこがまたジョーさんの良さでもあると
涙もろいバタコは思うのでした・・
今日、あなたはどんなことで笑いましたか?
最後まで読んでいただいてありがとうございます!