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実はあれが最期のお別れだったのだと思う一本の電話 190/360

※ご近所の心友、75歳ジョーさん (女性) のお話です。
 今年の8月に
 「結合組織の珍しいがん (サルコーマ?) が全身に広がっており治療不可。
 余命は3~6か月」
 と宣告されました。7月までは数キロ先の町まで徒歩で日曜礼拝にいき
 バタコと毎週お茶するくらいピンピンしてたのに。※

今思うとお別れの電話

ジョーさんは余命宣告からあっという間に寝たきりになりました。
(全身けん怠、食べても戻すのでほとんど食べられない、ふらつくので外出できない。) 朝晩、介護者がお世話に来ます。
誰とも仲良くなれるジョーさんは、お見舞いに来るご近所さんもひっきりなしい。家のドアは半開きにしてありました。

3週間ほど前の、ある日の夕刻に突然かかってきたバタコの家電。
     ※ジョーさんはスマホどころかガラケーも持ってません。
      テレビは見るけどパソコンやタブレット一切無し。

受話器を取ると、ジョーさんでした。
明るい声で、


「どう?元気にしてる?
いつでも遊びに来てね。愛してるわ。」

と。

私は、どうしてこのタイミングでわざわざかけてきたのかな?
数日、会っていなかったのは事実だけれども
朝晩、介護者は来るし。週末には娘さんたちも訪問するし。
平日はご近所さんが顔を出しにきたり
病気を知った人がお見舞いに訪れたりと忙しいジョーさん。
寂しいってコトなんかないだろうに・・

と、30%の不吉感にやや胸を高鳴らせつつ 


もちろん
「私も愛してるよ、また会いに行くよ」
と言って切りました。

あとから思うと、
吐き気や全身のだるさ、痛みなどで気分も落ち込んでいる段階から
「モルヒネパッチ」という
(喫煙者が禁煙補助に使う「ニコチンパッチ」に似たものかと想像)
微量のモルヒネを長時間にわたって経皮投与されるものを処方され
体調も気分もぐっと上向きになったタイミングで

(今思うと) 気力のあるうちに最後の挨拶をしてくれたんだと思うのです。


バタコは電話を切ってスグに
ちょうど帰宅した旦那にコドモ達を預けて
走ってジョーさんに会いに行きました。

  ※最近、耳栓をして耳からの刺激を制限している状態では
   実は「視覚」「触覚」などの、5感のほかの感覚の「感度」も
   落ちているのだという記事を読みました

それまで毎日外出していたヒトが、急に狭い部屋で景色も温度も変わらず
身体も動かさない状態になったことで刺激が極端に減り、
体調不良も重なって
ジョーさんはもうそれまでの人格ではなくなっていくのを
バタコも実は感じていました。

75歳ですが、記憶もしっかりしていてはきはきとよく話し
どんな球を投げてもビシッと投げ返してくれる聡明なジョーさんが
ときどき「あれ、あのこと忘れちゃってるんだな」
と感じる発言もするようになってきてました。


そんななか、モルヒネで不快症状を抑えたことで
いっとき、意識明瞭でクリアになった状態で「会いたい」と言ってくれた。


バタコは未練がましく
「余命3~6か月と言われているし
まだまだ話す時間はある (と思いたい!!)
という強力なバイアスの元に行動しているので

「電話かけてくるなんて・・どうしても言いたいことがあるのかな (そんなにあせること?)」
「いや、気のせいだろう、単に」

と自分の中に湧いてくるざらッとしたものをもみ消していましたが

このときが結局、誰にも邪魔されず二人きりで会話のできる
「最後のお別れ」だったようです。

ホスピスに収容され気軽に会えなくなってしまった

ジョーさんはこれを書いてる前の週にホスピスに収容されていきました。
    ※車で40分くらい、かかる距離です。
収容前日も、患者輸送車が来た朝も、会いに行きましたが
ご近所さんも同席で、二人きりにはなれませんでした。

いつもアポなしですぐ会いに行くことに慣れきっていたバタコは
深く考えもせずまたいつもの調子で
(近くまで行く用事があったので)
予約もせずにホスピス訪問したところ
「親族およびリストアップされた数名以外の面会はお断りです」
とのことで、手紙だけを残してきました。


You are the most impressive woman I’ve met.
I am truly privileged to have met you.
I love you, Jo. 

あなたは今までの人生で会った中で最も偉大な女性
あなたに会えて本当に光栄でした
ダイスキよ


まだ時間があると思ったてし
いつ行っても誰かほかの訪問者が居て
その場では言えずに胸にしまっていた言葉を紙に託して。

書いてるだけでボロボロに泣けてきたので
「やっぱりジョーさんは、湿っぽく泣いて別れるよりも
笑顔で会って別れたかったんだな」
(っていうか、バタコに、このセリフを面と向かって言う勇気はなかった。
ゼッタイ泣くから。)
と、あの日の電話の重みをしみじみ悟りました。
    ※ジョーさんと出会えて本当に良かったと思うコトの一つは
    「こんな話題どうよ?」ってしりごみせずに
     死ぬこと、イギリスで外国人として暮らすこと、子育て
     などの話題について、忌憚なく意見交換ができるコトでした。
     べつに、死ぬ前のお別れぐらいでひるむ仲じゃなかったよね、
     とは思うのですが、
     いつも会える仲だったからこそ
     わざわざ泣いて別れたくはなかった、かも。お互いに。


今まで会った中で最も「偉大」だと思った女性

置き手紙にバタコがこう書いたのは本当で
(読んでないけど) ここ10年くらいで話題になった女性の伝記
例えばヒラリークリントン、ミシェルオバマ、「リーン・イン」を書いたFacebookのシェリルサンドバーグ、
などを思いつ描きつつ

どんなに偉大な功績を上げたとはいえ、
バタコにとっては遠い国の知らない女性ではなく
      ※本には、ある程度「(誇張でも嘘でも) 何でも書ける」
       「たくさんの人に伝わる表現を選んだ結果
        こぼれ落ちる細部も沢山あるだろうし」
       「体温は伝わりにくい」と思っています
血の通う目の前の女性、つい先日ハグを交わして別れたジョーさんのほうが
「私もあんな人になれたら本望だ」
と思える、私のとっての「ヒロイン」だったのです。

なにか「歴史に残る」とか「職務履歴書に書ける」ようなことをしなきゃ生まれた甲斐がないんじゃないかとどこかで思い続けているバタコにとって
アメリカから移住してきたイギリスで3人のお子さんを育て上げ
旦那さんの介護10数年を経て看取り
住んだ町で療養中はひっきりなしに訪問者が訪れる人気者。
タフであたたかく、聡明で、「生や死についての深い話や政治のことも踏み込んで語り合える」ジョーさんは、
バタコにとっては残りの人生をかけて目指すに足る、ロールモデルとなる女性です。


今この瞬間もまだ多分ホスピスで息をしているジョーさんのこと
こんな書き方をするのは不謹慎だとは思いますが
「ピンピンしていつもの才気煥発なジョーさん」
とは最後のお別れを済ませたのだと思っています。




あなたの大切な人には、元気なうちから気持ちを伝えられますように!

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ジョーさんが旦那さんを看取ったときのこと

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最後まで読んでいただいてありがとうございます!