見出し画像

センチメンタル熱海 4 ラプンツェル

職場に髪の美しい先輩がいる。
浪漫的な着物が似合いそうなひと。

配属になって上司から一番最初に教わったのは、
彼女はこのレストランで一番のベテランで
仕事を熟知していて、
そして人見知りであることだった。

それを知っていたお陰で
ちょっとクールな彼女の態度にも
心折れず、仕事を教わることができた。

久しぶりの熱海の花火が上がった時、
予想外のはしゃぎ様に驚かされた。
それも束の間、
数秒後にはいつものクールな姫だった。

彼女は中抜け中、職場の一室で過ごすらしい。

ちらっと覗いたその部屋は共同の休憩所。
日が薄く入った中に、
2段ベットだけある、がらんとしたスペースだった。

近くの寮まで帰る私はふと振り返り、
坂の上のコンクリートの窓辺に思いを馳せる。

ああ、塔の中のラプンツェル。

この暮らしをどう思っているのだろう。

その髪を窓辺からおろすことがあるのだろうか。

深夜の帰り道、また坂を下っていくと
廃ビルだと思っていた一角に灯が。

今、ここに誰かが住んでいるんだ・・・・

昼間は全く人の気配がないのに
夜になってやっと人の暮らしを感じた。

高台から見渡すと
黒々としたコンクリートの塔が立ち並び
ぽつりぽつりと明かりが見える。

ひっそりと沢山のラプンツェルがいる熱海。

私もそのひとりだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?