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センチメンタル熱海 5 坂
熱海は坂ばかりで平地がない。
坂の上は熱海駅、坂の下はサンビーチ。
私の勤務先はその真ん中。
朝サンビーチからの強烈な朝日を背に受け
吐き気に堪えながら坂を上がる。
たった5分の通勤時間でも
疲労と孤独がミックスした絶望感がものすごい。
ここはゴルゴタの丘なのか。
熱海ではなかったか。
ちょうど上がり切ったところで初島が見える。
ああ、何故あなたはいつも美しいのか。
晴れでも曇りでも波間に浮かぶ姿は
この暮らしの唯一の癒しだ。
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観光客も
坂を下がるカップルは楽しそうに足早で
坂を上がる熟年夫婦は辛そうだ。
その真ん中にひとり私がいる。
何故か坂の上がり下がりも足が重い。
そうじゃない瞬間もあった。
休みの前日の仕事終わりに
東京行き最終の新幹線に乗るために
いつもは下がる坂を上がった。
この坂を上がればあなたに会える。
それだけで商店街の急な坂も
まるでエスカレーターを駆け上がるよう。
この坂を上がればあなたに会える。
私の家に帰れるのだ。
休日が終わり、
熱海に着いた私は
とぼとぼと夜の商店街の坂を下り
翌朝吐き気を抱えながら
また坂を上がるのだ。
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