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カフーツ12周年記念ジェリーを久しぶりにリアルでやったら人をつなげる楽しさをあらためて感じた〜カフーツ伊藤のカブト虫の紐日誌#15

先日、5月15日、カフーツは開業12周年を迎えた。ということは、日本のコワーキングが12歳になったということになる。十二支が一周したかと思うとなんとなくめでたい。それを記念して、ここ2年ほどコロナ禍のせいでできていなかったリアルなイベント(と言う名の呑み会)を久しぶりに開催した。そのことをちょっと書き残しておく。

参加者のおしゃべりがメイン

これまで(コロナ前は)毎年、なにかテーマを決めてプレゼンを盛り込んでいたけれども、今回はその手の演物はあえてやらないことにした。それより、久しぶりの人もはじめましての人も、リアルに会って対話する時間を優先する。だからぼくがメインではなくて参加者全員がメインキャスト、ということにしたかった。

元よりあらかじめ予定されたプログラム通りに進行するより出たとこ勝負のアドリブで進めるほうが面白いと思う人(ぼく)だけど、とりわけ今回は、リアルに接する機会を制限されていた反動だろう、ごく普通の日常的なコワーキングの時間を持ちたいと思った次第。

そういう意味では呑み会はコワーキングにはつきものだから、日常の感覚を取り戻すにはうってつけと直感したわけで。まあ、あれこれ進行を心配しなくてもいいし。

それでボーッとしていたわけでもないが、カンパーイするなり、早速、鍋料理に突入した。冒頭、「えー、皆さん、本日は誠に有難うございます…」とかなんとか、ちょっとはマジメな挨拶をしてもよかったかもと今頃反省している。

でも、その鍋をみんなで「肉は先?」「スープ溶かしてからー」「火ぃ、つかんへんよー」とか、あーでもないこーでもないと言いながら寄ってたかって共同作業で作っていく過程が、また楽しかった。これもコワーキングだし。ちなみに、今回のメニューは過去の周年会でも絶賛を得た「島津」の鶏鍋。いつもええ仕事してくれます。

いつも話に出す「コワーキング曼荼羅」には「飲食」というテーマがある。

同じものを食べて飲んで語る。友だちになる、仲間になるのにはこれが一番手っ取り早い。社交ベタな日本人も飲食をともにすればすぐに馴染める。それを共同作業でやるというのは、コワーキングの周年記念にまったく相応しい。

そんなこんなでこの日は関西圏はおろか、東京からも参加いただいたり、なんと20年ぶりにリアルに会う二人もいたりして(しかも、この二人、ぼくが昔いた会社の同僚という)、いろんな再会が場を暖めてくれた。

なんでコワーキングをはじめたのか

さて、鶏鍋をつつきつつワイワイ話してたら「そういえば、なんでコワーキングをはじめたんですか?」というあまりにも虚を突く質問が出た。

以前もどこかで書いたかもしれないが、せっかくなので(なにが?)あらためて書いておこう。

元はと言えば、カフーツを始める前に「ネットマーケティング研究会」略して「ネマ研」という勉強会を、友人のギャラリーを借りて月1〜2回のペースでやってたのがコトの起こり。

この勉強会はちょっと変わってて、

・19時になったら乾杯してからはじめる
・料理はケータリングを頼む(2007、8年頃だからUberなんてない時代)
・要するに食べながら飲みながらやる(終わってから場所を変えて懇親会するのが時間の無駄だったし、お腹も空いてるし)
・テーマは毎回違う(そのときどきのトレンドを見て決めてた)
・最初の20分ぐらいでその日のテーマについてぼくが情報共有する
・その後は、参加者各自が持つ知見、情報を順次発表する(うまくいった話も失敗した話も)
・参加者はお互いの発表の中から自分に必要なものを持ち帰る

という流れで行う。

と思ったら、YouTubeにビデオがあった。

要するにコンサルが偉そうに講釈垂れるのを受講者が畏まって聞くのではなく、参加者も自由に発言することで知恵を分かち合い相互に助け合う構造になっている。

つまり、コンサルと受講者の「1対多」ではなく、主宰者(ぼく)も含めて参加者全員が「多対多」になってたわけで、これが喜ばれて長く続けれらた原因だ。コンサルの話す一般論より、実践者の具体論のほうがよっぽど役に立つからね。

こう聞いてピンときた人もいるだろう。そうそう、これ自体が「教え教わる」ことが根幹にあるコワーキングの理念に適っていたわけで。これをやってる時は知る由もなかったけれど。

そこへ、2009年の夏だったか秋だったか、参加者のひとりが「こうしていろいろ教え合うのはとてもいい。でも、月に一回だけではなくて、いつでもそこに行けば仲間がいて、教え合う、ついでにそこに電源とWiFiがあれば仕事もできる、そういう場所があったらいいと思うんだけど、伊藤さん、やらへん?」と言ってきた。

「は?」というのがぼくの反応だった。そんなことするには、そのための場所がいるじゃないですか。ぼくはすでに事務所借りてたから、そうすると2つも家賃払わなくてはならなくなる。無理。と思ってスルーした。

そしたら、その翌週、また別の人が同じことを言ってきた。「みんなで使えるスペース、あったらええと思うねんけど、どうかなぁ?」。「あれ?こないだも誰かそんなことを…」。ここで、アタマの中で黄色信号が点滅しだした。

そしたら、またその翌週、また別の人が「伊藤さん、みんなで集まれる(以下同文、おめでとう)」。ここで、信号が青に変わった。これは「お前、やれ」という神の啓示だなと思ってしまった。

シアトルのコワーキングのビデオで判った

でも、どこから手を付けたらいいのかさっぱり判らない。それから何週間も経って、ネットをウロウロしてたら、どういう経路だったかは覚えていないが、シアトルのOfficeNomadsというコワーキングのウェブサイトに突き当たった。で、「あ、これか」と思った。

いまは、すっかりデザインが変わってるが、当時、確かトップページにビデオが貼ってあった。それを再生すると、「コワーキングスペース」とは誰が何をするところなのかがすぐ判った。

そう、インディペンデントな個人ワーカーがそれぞれやって来て各自の仕事をするための共用ワークスペース、ということが。そこにキッチンもあり、座り心地のいいソファもあり、犬が寝そべってて、壁には自転車が掛けられていて、勉強会やイベントをするためのカンファレンスルームもある。

つまり、仕事もするしセミナーもするしパーティもする、そういう目的を果たしつつローカルのワーキングコミュニティとして機能する施設である、それがコワーキングだと。「わー、ええやん、これ〜。こんなん、世界でやってるのか〜」←ここでやること決定。

OfficeNomadsを見つけたのとほぼ同じ頃、コワーキングのWiKiを見つけた。世界中のコワーキング関係者が毎日情報をアップしていて、それで世界の情勢が徐々に判ってきた。ちなみに、その時点で世界にコワーキングは400軒弱しかなかった。

それが今や、30,000軒に達そうかというところまで増えており、あと2年したら40,000軒を超えるという予測もある。

コロナ禍はたしかにコワーキングにも大きなダメージを与えたが、それを起爆剤としてリモートワーク、ないしはハイブリッドワークの有用性が認知されて、むしろコワーキング数は世界中で増えている。

それは実証実験としてはじまった

それはいいが、さて、どこでやるかだ。と思ったら、当時、ぼくが借りていたオフィスはビルの2階だったが、1階に空き物件があった。

元々、皮膚科の診療所だったのが、先生がお歳を召して廃業され、もう1年以上空いたままだった。それが、いま、カフーツのある部屋。そういえば、ちょうど診療所ってスケールでしょ?

早速、ビルのオーナーである松野さんにプレゼン資料を作って話し、OfficeNomadsのビデオを見せた。そしたら、「これは面白いね〜。伊藤さん、ええやん、やんなさい、やんなさい」という有難いお言葉。

こうして松野さんは、日本で最初にコワーキングの意味を理解した上で部屋を提供したビルオーナーとして、その名を歴史に刻むことになった。

ただ、当時、日本で誰もコワーキングなんてやってなかったし、ましてそれが神戸みたいな小さな町で果たしてちゃんと運営できるのかどうか、なんの保証もアテもなかった。頼りは「ネマ研」のメンバーだけだ。

まして、ぼくはすでにオフィスを借りてて毎月家賃を払ってる。それがダブルになると思うとやっぱり荷が重い。

そこで、オーナーにプロジェクトのコラボをお願いした。題して、「コワーキングというものが日本に根づくのかどうかを検証するための実証実験プロジェクト」。確か、そんな感じだったと思うが、まったく「なにそれ?」だろう。

オーナーはこの実証実験のために部屋を提供する。ぼくはコワーキングを運営する役務を提供する。で、売り上げを折半する。光熱費はぼくが負担する。これを半年やってみてうまくいきそうなら継続する、というアイデアだ。

「君ねぇ」と怒られるかと思ったら、「ええで。それでいこ」と意外とすんなりOKくださった。その時点で2階のオフィスを確か5年ぐらい借りてたので、人間関係ができていたのが幸いしたのかもしれない。そうして、オーナーとぼくとの共同プロジェクトとしてカフーツは始まった。

スタートしたのはいいけれど

最初は半年だけのつもりだったから、最低限必要なものしか置かなかった。デスクも椅子も寄付でいただいた。冷蔵庫もなかった。

2階にオフィスを借りてたけれども、ここを管理しないといけないからほとんどここにいて仕事していた。

2010年5月15日、カフーツはスタートした、その日、ささやかながらオープニングパーティを開いた。「ネマ研」のメンバーはじめ17名が駆けつけてくれた。

これ、「コワーキングとはなにか」を説明してるところです。これが12年前かと思うとそれなりに感慨深いなぁ。

あー、この時から「コワーキングは『場所』ではなく『人』」と言ってる。みんな、「何のことやろう?」と思ってたかも。

ところが船出したのはいいが、一向に利用者はやってこない。「ネマ研」のメンバーもよく考えたら全員自分のオフィスを持っていたから、毎日来るはずもない。バカバカバカ。

で、あっという間に約束の半年が過ぎた。けれども、この半年の間に「日本のコワーキングがやるべきこと」と「やってはいけないこと」がだんだん判ってきた。判った限りはそれをまた実証したい(おい)。ということで、「もう半年やらせてください」と、またしても無理をお願いしたら、松野さんは笑って「ほな、やり」とまたOKしてくれた。本当に有難い。

結局、1年間、このプロジェクト形式で運営してた。最初の月の売り上げは確か12,000円だったと思う。半分の6,000円を振り込んだら「なかなか来ぇへんなぁ」と松野さんは笑ってた。今から考えれば、オーナーにすれば家賃よりも、この男がどんなことするのか、それを見て自分も楽しみたかったのだろうと思う。確かに誰もやっていないことをやるのは楽しい。

だから、実は最初の1年は家賃というものを払っていない。プロジェクトの売り上げを折半していただけだ。不動産を借りる、というより、利用する、という発想で考えて提案した結果、そうできた。

もちろん、1年経過後は通常の不動産賃貸借契約を結んだ。というか、2階のオフィスを全然使ってなかったので退去して、その契約を1階に移してもらった。これも松野さんは快く応じてくれた。ホント、神。

コワーキングは(というか、どんな事業もだが)起ち上げ当初がしんどい。ここのコストを抑えることで、(文字通り)実証しながらそのコワーキングならではの運営方針が見えて、利用者を確保するまでの時間を稼いでくれる。

中でも一番大きいのは家賃だ。コロナ禍でも耐えきれなくなるのは人件費もだが、家賃がやっぱり大きい。

頃合いの空き物件を見つけてオーナーに直接相談を持ちかけるのは無駄ではない。ぼくは以前、建築・不動産業界に(も)いたから、こういう知恵も働いたわけだが、必ずしも不動産業者を通さなければならない、というわけでもないことを、これからコワーキングを始めようと考えている人には伝えておきたい。

というか、家主とのコラボはコワーキングを起ち上げる時に一度は検討すべき。利用されていない物件やテナントがつかなくて困っているオーナーも結構いるはず(松野さんはそうでもなかった、念のため)だから、共同事業としてスタートすることでお互いに助かるということも大いにあり得る。

なかでも、自治体はそのパートナーになれると思っていて、地方における官民協働型のコワーキングがひとつの運営手法になると考えている。

その後、「ネマ研」以外にもイベントを企画したら未知のワーカーがやってくるようになり、そこから人つながりができて、なんとかかんとか回せるようになってきた。

ただ、いろいろやってきて言えるのは、コワーキングを不動産業として考えるのは誤りだと思ってる。以前、不動産コンサル会社で相続物件の有効活用に関わってた経験から言うと、コワーキングは場所貸し業としては割に合わない、というかビジネスにはなりにくい。計算すれば判る。

そうではなくて、コワーキングをあくまで土台にして、ステージにして、その上に別のビジネスをかぶせていくと、ぜんぜん違うビジネスモデルが動く。つまり、コワーキングは人をつないでコトを起こすハブでありインフラでありスキームであることに着目したほうがいいと思ってる。

人と人をつなぐことをこれからも

もうきりがないから昔話はここらへんで終わろう。

それにしても、半年だけと思ってたことが12年も続くなんてオドロキだ。角瓶の歴史には及ばないにしろ、それもこれも、カフーツに、いや、コワーキングに関わる皆さんのおかげだとつくづく思う。

ちなみに、12年前のオープニングパーティに来てくれた17人のうち、3人が今回も参加してくれた。それだけ長い付き合いをしていただける仲間がいることに、心から感謝する次第だ。本当に有難うございます。

そして、そうして関わっていただいた方々をつないでいくのが、ぼくの楽しみだ。

人と人をつなぐのは本当に楽しい。人と人をつないでなにかが起こるきっかけを作るのが好きなんだと思う。そもそもコワーキングて、人をつなぐところだから理に適ってる。

そういう考えでずっとやってきたし、これからもそうしようと思う。

ということで、12周年記念ジェリーに参加いただいた皆さん、有難うございました!今後ともよろしくです!


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