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【詩】 忘れてしまいたいこと



病苦に悩まされた若き日の頃
ぼくはあまりの苦しさに耐えかねて
灯油を飲んだ
母が泣いていた
もうやめようと思った
死ぬのはやめようと思った
生きることがなにより耐えられない
大きな鉛が背中にぶらさがっていた
声を発することも忘れてしまっていた

どうすれば声が出るのかさえ
わからなくなってしまっていた
首にロープを巻いた
ドアノブにそれをひっかけた
それでも死ねなかった

母には内緒にしておいた
ぼくは唄をうたった
自死がテーマだった

そんなぼくに恋人ができた
暗い唄をたくさん聴かせたからか
彼女はぼくより先にあの世へ逝った

声が聴こえてきた
生きよと
とにかく生きよと わたしの分まで

ぼくは現在とにかく生きている
忘れてしまいたいことを思い出しながら
もう忘れてしまったと思っていたことを
思い出しながら






2014年頃作


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