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他のマガジンからもれた、何回かに渡る比較的長い文章を集めました。
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2021年11月の記事一覧

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・石神井公園(前編)

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・石神井公園(前編)

 私が大学進学のため上京した年、池袋の東武百貨店の催し場で昭和文学展が開催されたと記憶している。地下にあるJR池袋駅の円柱ごとに芥川龍之介(右上)、太宰治(右下)、川端康成(左上)、三島由紀夫(左下)のポートレートで四分割されたポスターが貼られてあった(割振りは曖昧な記憶に基づく)。
 和服の芥川は文机向かって、左手の親指と人差し指の間で尖った顎を支え、こちらをギョロリを見つめている。太宰は例によ

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ワンス・アポン・ア・タイム・イン・石神井公園(後編)

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・石神井公園(後編)

(承前)
 笈を負い、衣錦還郷の志を抱いて上京した田舎者の少年、というか、19歳なのだからもうほとんど成人は、石神井でひとり暮らしを始めた。そして、堕落した。これは何も太宰の影響ではなくて、ただ本人の性向のしからしめるところであった。薬物や女遊びに耽り、非合法の政治活動に身を投じた……わけでもなく、酒と煙草の味を覚え、講義に顔を出さなくなり、作家になるなどと本気で考え出したのである。そのあたりの詳

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